思想

前衛歌人の岡井隆が転向について語っている

朝日新聞夕刊の連載コラム「人生の贈りもの」で岡井隆が自分の転向について語っている(2月26日)。この連載コラムは著名人に自伝的なことを語らせるというもので、この日は岡井隆の9回目の語りになる。 (前略) −−かつてのマルキストが、どのようにして…

子安宣邦『日本近代思想批判』を読んで

子安宣邦『日本近代思想批判』(岩波現代文庫)を読む。子安がさまざまな雑誌に書いた10編の論文をまとめたもの。タイトルから予想されるような難解な論文ではなく、なかなか楽しめた。とくに丸山真男の『日本政治思想史研究』と和辻哲郎の『風土』に対する…

中沢新一『バルセロナ、秘数3』を読んで

中沢新一『バルセロナ、秘数3』(講談社学術文庫)を読む。本書は、1989年に雑誌『マリ・クレール』のために、取材に出かけたスペインバルセロナへの旅行記だ。しかし、あとがきに相当する「postluoi」に中沢が書いているように「風変わりな旅行記」だ。旅…

ブーイサック『ソシュール超入門』を読む

ポール・ブーイサック『ソシュール超入門』(講談社選書メチエ)を読む。タイトル通りの言語学者ソシュールの思想に関する分かりやすい優れた入門書だ。ソシュールは1910年〜1911年にかけての学年度に一般言語学講義を週2回行った。それは1年おきに行って…

『ハンナ・アーレント』を読む

矢野久美子『ハンナ・アーレント』(中公新書)を読む。宇野重規が読売新聞の書評欄で紹介していた(5月4日)。 ハンナ・アーレントというと、全体主義やら革命を論じた、ちょっと怖そうな政治哲学者というイメージがあるかもしれない。ところが、日本でも…

鈴木正『狩野亨吉の研究』が復刻される

鈴木正『狩野亨吉の研究』(ミネルヴァ書房)が43年ぶりに復刊された。狩野亨吉は慶応元(1865)年生まれ、帝国大学在学中に夏目漱石と親しくなる。若くして第一高等学校校長、のち京都帝国大学文科大学学長を務める。江戸時代の特異な思想家安藤昌益の著書…

熊野純彦『和辻哲郎』を読む

熊野純彦『和辻哲郎』(岩波新書)を読む。本書は2009年に発行されたが、どこの書店を回っても置いてなかった。しかたなくAmazonで赤線の書き込まれた古書を手に入れた。読み終わってなぜ増刷されないかおぼろげに分かった気がする。一つは和辻哲郎がいま流…

スーザン・ソンタグの『他者の苦痛へのまなざし』

スーザン・ソンタグの『他者の苦痛へのまなざし』(みすず書房)を読む。戦争とそれを撮影した写真について論じている。さきに出版している『写真論』の補完・発展とも言える。本書を読もうと思ったのは、小林紀晴『メモワール』(集英社)を読んだから。『…

佐藤文隆の『「科学にすがるな!」』を読んで

艸場よしみが佐藤文隆にインタビューした『「科学にすがるな!」』(岩波書店)を読む。副題が「宇宙と死をめぐる特別授業」。艸は「くさ」と読む。佐藤文隆は京都大学名誉教授の理論物理学者、宇宙論や一般相対論に関する著書も多い。題名は佐藤の言葉「科…

『空海と日本思想』を読む

篠原資明『空海と日本思想』(岩波新書)を読む。毎日新聞の書評で私が尊敬する三浦雅士が高く評価していた(1月27日)。 空海の思想の基本系(=思想の基本的なありよう)はどのように変奏されてきたか。西行、慈円、京極為兼、心敬、芭蕉、宣長と、吟味さ…

片山杜秀『未完のファシズム』を読んで

思想史研究者、音楽評論家という不思議な肩書きを持つ片山杜秀の新著『未完のファシズム』(新潮選書)を読む。これがとてもおもしろかった。片山には佐藤卓己から「構成と文体の見事さは芸術品」と評された『近代日本の右翼思想』(講談社選書メチエ)とい…

誰が見ているのか

画廊を回ろうと銀座へ行った。柳通りと並木通りの交差点で、不意に鞄のなかに手紙を入れていたことを思い出した。近くにポストがないかと見まわした。ちょっと離れたところに赤い郵便ポストが立っていた。いや、ある意味目の前にあったのだ。 しかし、ポスト…

小林敏明『〈主体〉のゆくえ』を読む

小林敏明『〈主体〉のゆくえ』(講談社選書メチエ)を読む。副題が「日本近代思想史への一視角」。これがおもしろかった。日本近代思想で頻出する〈主体〉という言葉=概念の誕生から消滅までをていねいに読み解いている。 最初subject−objectを明治最初の哲…

中野剛志『日本思想史新論』がおもしろかった

中野剛志『日本思想史新論』(ちくま新書)がおもしろかった。江戸時代の思想家、伊藤仁斎、荻生徂徠、会沢正志斎に、明治の福沢諭吉を並べて論じている。それらが思想的に繋がっていると主張している。これは新しい見解だろう。伊藤仁斎はそれまで主流だっ…

「本人が意識することのない認知」について

(昨日の続き) 山鳥重の『言葉と脳と心』(講談社現代新書)を読んで、「本人が意識することのない認知」という概念を知ってとても興味を惹かれた。「認知(ここでは、この言葉を「入力情報の高次処理」という広い意味に用います)と言語と意識という3種の…

山鳥重『言葉と脳と心』を読む

山鳥重『言葉と脳と心』(講談社現代新書)を読む。これが素晴らしかった。著者は失語症などの高次脳機能障害の臨床に従事している。 著者は失語症の4つの症例を解説する。健忘失語は名前がわからなくなる失語症、発話できなくなるのがブローカ失語、聞いた…

山崎正和『世界文明史の試み』の書評から

毎日新聞2012年1月29日の書評欄に山崎正和『世界文明史の試み−−神話と舞踏』(中央公論新社)の書評が載っていた。書評子は三浦雅士、その一節、 特筆すべきはまず思索の起点そのものを百八十度転換させたこと。いかなる思索であれ、意識、すなわち「我思う…

『『羊の歌』余聞』から加藤周一の言葉

加藤周一著・鷲津力=編『『羊の歌』余聞』(ちくま文庫)を読む。いつもの加藤周一のきらきら光る印象的な言葉の数々。 日本の散文は著しく抒情詩によって浸透されている。平安朝の物語、江戸の俳文が典型的だが、総じてその他の文章も、歌の叙情と、俳句の…

中村とうよう氏の自殺について

7月21日に音楽評論家の中村とうよう氏が亡くなった。何かに彼の遺書が雑誌に載っていると書かれていた。それをようやく探し当てて読むことができた。「ミュージック・マガジン」2011年9月号に湯川れい子と原田尊志の追悼文とともに、連載していた「とうよ…

今井むつみ「ことばと思考」を読む

今井むつみ「ことばと思考」(岩波新書)を読んだ。地味めのテーマだと思ったがずいぶん面白かった。本書カバーの惹句から、 私たちは、ことばを通して世界を見たり、ものごとを考えたりする。では、異なる言語を話す日本人と外国人では、認識や思考のあり方…

誰が考えているのか?

娘と八百屋へ野菜の買出しに行った。ニラの前に立ち止まった娘が、ニラ買う? と聞いてきた。うん買おう、食べたいというと、いつも父さんニラ嫌いだっていうのにどうしたのと言う。その日はなぜかニラが食べたかった。 疲れたときは甘いものが食べたい、汗…

「ふしぎなキリスト教」がおもしろかった

橋爪大三郎×大澤真幸「ふしぎなキリスト教」(講談社現代新書)がおもしろかった。キリスト教をめぐる二人の社会学者の対談だ。「まえがき」で大澤は、「われわれの社会」とは「近代社会」であり、近代というのは西洋的な社会というものがグローバル・スタン…

「ダンゴムシに心はあるのか」を読んで

森山徹「ダンゴムシに心はあるのか」(PHPサイエンス・ワールド新書)を読んだ。ダンゴムシを使ってさまざまな実験を行い、ダンゴムシにも心があるという結論を出している。著者はダンゴムシを材料にていねいで根気のいる実験を繰り返している。誠実な実験態…

熊野純彦 編著「日本哲学小史」を読んで

熊野純彦 編著「日本哲学小史」(中公新書)を読んだ。副題が「近代100年の20篇」。熊野純彦 編著とあるように、半分近い分量の第1部「近代日本哲学の展望」を熊野が書いている。第1部の副題が「『京都学派』を中心として」で、福沢諭吉、西周から説き起こ…

死について語る田淵安一

画家田淵安一のエッセイ「イデアの結界」(人文書院)の「荘周の夢」で、田淵が死について記しているくだりがある。それが印象的だった。 やがて50年まえになるが、文化勲章を受章された遺伝学者、桑田義備(よしなり)博士にこのような話をうかがった。博士…

中公新書の「江戸の思想史」を読む

田尻祐一郎「江戸の思想史」(中公新書)を読んだ。新書に江戸時代の思想史が取り上げられるのは久しぶりではないか。これが手際よくまとめられている。主要な思想家たちを網羅して遺漏がない。江戸時代の思想家たちの見取り図がよく分かる。240ページほどの…

「生き方の不平等」と可能意識

白波瀬佐和子「生き方の不平等」(岩波新書)は、現代日本の格差、不平等、貧困の問題を、子ども、若者、男女、高齢者のそれぞれに即して分析している。自分がその当事者であるにも関わらず、そのような問題を初めて考えさせられた。しかし、ここに興味深い…

石黒浩「ロボットとは何か」

石黒浩「ロボットとは何か」(講談社現代新書)を読む。石黒は、著者紹介によれば「知能ロボットと知覚情報基盤の研究開発を行い、次世代の情報・ロボット基盤の実現をめざす。人間酷似型ロボット研究の第一人者。自身をモデルにした遠隔操作型アンドロイド…

粘菌の認識

朝日新聞に粘菌がネットワークを形成することが報じられている(2010年1月22日)。科学技術振興機構の手老篤史・さきがけ研究者らのチームが確かめたという。 チームはA4判大のプラスチック板に、東京や横浜、大宮など関東地方の30カ所余りの駅の位置関係…

音楽家高橋悠治の言葉

高橋悠治「きっかけの音楽」(みすず書房)より。 モロッコの未来学者Mahdi Elmandjraのサイトで、こんな小話を見つけた 異文化交流にうってつけの実例(原文は英語) 最近行われた国連による世界調査に次のような質問があった 世界の他の地域における食糧不…