思想
ラカン『テレヴィジオン』(講談社学術文庫)を読む。裏表紙の惹句から、 ……フランスの精神分析家が1973年に出演したテレヴィ番組の記録。難解を極める著作『エクリ』で知られるラカンに高弟ジャック・アラン・ミレールが問いかける。一般の視聴者に語られる…
デヴィッド・エドモンズ&ジョン・エーディナウ『ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い10分間の大激論の謎』(ちくま学芸文庫)を読む。最初に書いてしまうと、羊頭狗肉だった。ポパーとウィトゲンシュタインの大激論とあり、ちく…
いしいひさいち『現代思想の遭難者たち』(講談社学術文庫)を読む。これがとてもおもしろい。1990年代後半に講談社から『現代思想の冒険者たち』全31巻が刊行された。ハイデガーから始まり、フッサール、ウィトゲンシュタイン、カフカ、ニーチェ、マルクス…
樋野興夫『がん哲学外来へようこそ』(新潮新書)を読む。中村桂子が毎日新聞で紹介していた(2016年5月8日)。アスベストが原因で起きる中皮腫や肺癌などが問題になったとき、樋野は中皮腫の外来がないことに気づく。そこで「アスベスト・中皮腫外来」を順…
内田樹『修行論』(光文社新書)を読む。内田は哲学者であり合気道の道場を主宰している。本書は主として合気道に関する原稿をまとめたもの。演劇評論家の渡辺保が毎日新聞に書評を掲載していた(2013年9月29日)。それで購入していたが、このほどやっと読ん…
A. ストー 著/河合隼雄 訳『ユング』(岩波現代文庫)を読む。一昨年読んだ最相葉月『セラピスト』(新潮社)でユングに興味を持ち、ついで読んだ河合隼雄『影の現象学』(講談社学術文庫)と河合隼雄『河合隼雄自伝』(新潮文庫)でいっそう興味が増した。…
佐高信・早野透『丸山眞男と田中角栄』(集英社新書)を読む。丸山は先日読んだ安丸良夫の『日本現代思想論』で批判されていたが、それは後期丸山の思想に対する批判であって、丸山が戦後の日本政治思想史の巨峰であることに何ら疑いはない。ところが本書は…
安丸良夫『現代日本思想論』(岩波現代文庫)を読む。とても充実した読書だった。安丸を読むのは多分初めてだ。カバーの解説に、 民衆思想史の立場から「近代」の意味を問い続けてきた著者が、眼を現代に転じ、1970年代以降の思想状況の批判的読解に挑む。戦…
朝日新聞の読者が投稿する短歌のページ「朝日歌壇」にしばしば掲載される名前は知らずに覚えてしまう。直近(8月10日)では、岡田独甫、金忠亀、九螺ささら等に見覚えがある。もう一人名古屋市在住の諏訪兼位という人がいる。この名前なんて読むのだろう。以…
成田龍一『加藤周一を記憶する』(講談社現代新書)を読む。新書とは言え450ページもあり、大分なものだ。成田は加藤の著作を初期から晩年まで実に丁寧に跡付けてその一つ一つに簡単な評価を加えている。ほとんど全著作に及ぶほどの徹底したものだ。あまりに…
朝日新聞夕刊の連載コラム「人生の贈りもの」で岡井隆が自分の転向について語っている(2月26日)。この連載コラムは著名人に自伝的なことを語らせるというもので、この日は岡井隆の9回目の語りになる。 (前略) −−かつてのマルキストが、どのようにして…
子安宣邦『日本近代思想批判』(岩波現代文庫)を読む。子安がさまざまな雑誌に書いた10編の論文をまとめたもの。タイトルから予想されるような難解な論文ではなく、なかなか楽しめた。とくに丸山真男の『日本政治思想史研究』と和辻哲郎の『風土』に対する…
中沢新一『バルセロナ、秘数3』(講談社学術文庫)を読む。本書は、1989年に雑誌『マリ・クレール』のために、取材に出かけたスペインバルセロナへの旅行記だ。しかし、あとがきに相当する「postluoi」に中沢が書いているように「風変わりな旅行記」だ。旅…
ポール・ブーイサック『ソシュール超入門』(講談社選書メチエ)を読む。タイトル通りの言語学者ソシュールの思想に関する分かりやすい優れた入門書だ。ソシュールは1910年〜1911年にかけての学年度に一般言語学講義を週2回行った。それは1年おきに行って…
矢野久美子『ハンナ・アーレント』(中公新書)を読む。宇野重規が読売新聞の書評欄で紹介していた(5月4日)。 ハンナ・アーレントというと、全体主義やら革命を論じた、ちょっと怖そうな政治哲学者というイメージがあるかもしれない。ところが、日本でも…
鈴木正『狩野亨吉の研究』(ミネルヴァ書房)が43年ぶりに復刊された。狩野亨吉は慶応元(1865)年生まれ、帝国大学在学中に夏目漱石と親しくなる。若くして第一高等学校校長、のち京都帝国大学文科大学学長を務める。江戸時代の特異な思想家安藤昌益の著書…
熊野純彦『和辻哲郎』(岩波新書)を読む。本書は2009年に発行されたが、どこの書店を回っても置いてなかった。しかたなくAmazonで赤線の書き込まれた古書を手に入れた。読み終わってなぜ増刷されないかおぼろげに分かった気がする。一つは和辻哲郎がいま流…
スーザン・ソンタグの『他者の苦痛へのまなざし』(みすず書房)を読む。戦争とそれを撮影した写真について論じている。さきに出版している『写真論』の補完・発展とも言える。本書を読もうと思ったのは、小林紀晴『メモワール』(集英社)を読んだから。『…
艸場よしみが佐藤文隆にインタビューした『「科学にすがるな!」』(岩波書店)を読む。副題が「宇宙と死をめぐる特別授業」。艸は「くさ」と読む。佐藤文隆は京都大学名誉教授の理論物理学者、宇宙論や一般相対論に関する著書も多い。題名は佐藤の言葉「科…
篠原資明『空海と日本思想』(岩波新書)を読む。毎日新聞の書評で私が尊敬する三浦雅士が高く評価していた(1月27日)。 空海の思想の基本系(=思想の基本的なありよう)はどのように変奏されてきたか。西行、慈円、京極為兼、心敬、芭蕉、宣長と、吟味さ…
思想史研究者、音楽評論家という不思議な肩書きを持つ片山杜秀の新著『未完のファシズム』(新潮選書)を読む。これがとてもおもしろかった。片山には佐藤卓己から「構成と文体の見事さは芸術品」と評された『近代日本の右翼思想』(講談社選書メチエ)とい…
画廊を回ろうと銀座へ行った。柳通りと並木通りの交差点で、不意に鞄のなかに手紙を入れていたことを思い出した。近くにポストがないかと見まわした。ちょっと離れたところに赤い郵便ポストが立っていた。いや、ある意味目の前にあったのだ。 しかし、ポスト…
小林敏明『〈主体〉のゆくえ』(講談社選書メチエ)を読む。副題が「日本近代思想史への一視角」。これがおもしろかった。日本近代思想で頻出する〈主体〉という言葉=概念の誕生から消滅までをていねいに読み解いている。 最初subject−objectを明治最初の哲…
中野剛志『日本思想史新論』(ちくま新書)がおもしろかった。江戸時代の思想家、伊藤仁斎、荻生徂徠、会沢正志斎に、明治の福沢諭吉を並べて論じている。それらが思想的に繋がっていると主張している。これは新しい見解だろう。伊藤仁斎はそれまで主流だっ…
(昨日の続き) 山鳥重の『言葉と脳と心』(講談社現代新書)を読んで、「本人が意識することのない認知」という概念を知ってとても興味を惹かれた。「認知(ここでは、この言葉を「入力情報の高次処理」という広い意味に用います)と言語と意識という3種の…
山鳥重『言葉と脳と心』(講談社現代新書)を読む。これが素晴らしかった。著者は失語症などの高次脳機能障害の臨床に従事している。 著者は失語症の4つの症例を解説する。健忘失語は名前がわからなくなる失語症、発話できなくなるのがブローカ失語、聞いた…
毎日新聞2012年1月29日の書評欄に山崎正和『世界文明史の試み−−神話と舞踏』(中央公論新社)の書評が載っていた。書評子は三浦雅士、その一節、 特筆すべきはまず思索の起点そのものを百八十度転換させたこと。いかなる思索であれ、意識、すなわち「我思う…
加藤周一著・鷲津力=編『『羊の歌』余聞』(ちくま文庫)を読む。いつもの加藤周一のきらきら光る印象的な言葉の数々。 日本の散文は著しく抒情詩によって浸透されている。平安朝の物語、江戸の俳文が典型的だが、総じてその他の文章も、歌の叙情と、俳句の…
7月21日に音楽評論家の中村とうよう氏が亡くなった。何かに彼の遺書が雑誌に載っていると書かれていた。それをようやく探し当てて読むことができた。「ミュージック・マガジン」2011年9月号に湯川れい子と原田尊志の追悼文とともに、連載していた「とうよ…
今井むつみ「ことばと思考」(岩波新書)を読んだ。地味めのテーマだと思ったがずいぶん面白かった。本書カバーの惹句から、 私たちは、ことばを通して世界を見たり、ものごとを考えたりする。では、異なる言語を話す日本人と外国人では、認識や思考のあり方…