2008-01-01から1ヶ月間の記事一覧

芥川賞作品を読まない理由

芥川賞が発表された後、あなたはああいう作品はすぐ読むのですかと聞かれた。いや読みません。でもあなたは本が好きじゃないですか。芥川賞は立派な賞だと思います。受賞作家にとって名誉だし、人生が変わるでしょう。でも受賞作って未熟なのです。読むに値…

樹村みのり「見送りの後で」

樹村みのり「見送りの後で」(朝日新聞社)を読む。樹村みのりは昭和24年生まれの漫画家。地味な作風だが家族や社会問題を真剣に描き、センセーショナルなものとも無縁だ。そういう意味では吉田秋生や南Q太とは反対だが、昔から好きな漫画家の一人だ。ヒュー…

資生堂ギャラリーの窪田美樹展

銀座8丁目の資生堂ギャラリーで窪田美樹展が開かれている(2月2日まで)。窪田美樹を初めて見たのは2000年の銀座のフタバ画廊だった。革張りの椅子2脚を向かい合わせに重ねてそれをモルタルで固めていた。そんな作品を見たことがなかった。すばらしい才…

酒匂譲展がすばらしい

酒匂譲展が銀座5丁目のみゆき画廊で開かれている(2月2日まで)。これがすばらしい。酒匂譲さんは現在78歳、東京家政大学名誉教授だ。本来なら巨匠なのにあまり有名ではないのはなぜだろう。私の想像だが、大学が美大としては傍流なこと、女子大なので先…

栽培植物と野生植物

1月27日付け朝日新聞東京版に、井の頭公園で絶滅していたサジオモダカが復活したとの記事が出ていた。 都内では絶滅したとされていた水生植物「サジオモダカ」が、井の頭自然文化園(武蔵野市、三鷹市)で「復活」した。職員が園内の湿地に生えているのを見…

田舎の人は歩かない

生ゴミを捨てるダストシュートはマンションの東の端にある。自分の部屋からそこまで往復250歩ほどだ。前に勤めていた会社の倉庫が筑波にあり、公務員の退職者を倉庫の管理人として雇っていた。彼は自家用車で通勤しており、なかなかいい外車に乗っていた。た…

万年筆が高くなったのはしかたない

中学生の時、従兄に万年筆をもらった。それ以来筆記具は万年筆だった。授業で鉛筆を使ったのと、会社に入って複写式の伝票などにボールペンを使った以外は。パイロット、セーラー、パーカー、いろいろ使ったがほとんどもらい物か拾ったものだった。 勤めてい…

Good Vibration

もう15年ほど前のことだ。渋谷の百軒店の裏手を彷徨していた。何をしていたのだろう。このあたりは有名なホテル街だ。小さな神社があり、手を合わせて挨拶をした。その近くに人気のない大人のおもちゃ屋があった。入ってみたら客は私と若いカップルだけだっ…

某出版社からの手紙

年末に求人の面接を受けた。地方出版社の編集者募集だ。ハローワークの求人票にはこう書かれていた。 ・ベストセラー(もしくは、歴史・美術系の良書)の出版を目指し、ベテランを探しております。企画と編集作業(DTPは出来なくてよい)を東京でして頂きま…

連城三紀彦を読む

連城三紀彦「少女」(光文社)を読む。連城を読んだのはこれが初めて。本書は短篇集で、「熱い闇」「少女」「ひと夏の肌」「盗まれた情事」「金色の髪」の5編、二十数年前の「小説宝石」に載ったもの。すべて二つの要素から成り立っている。少女売春や未亡…

新しい性道徳

若い人たちの性道徳が変わってきているという。単純に言えば性行為が何ら特別なことでなくなってきている。簡単にそのような関係を結びまた別れている。それは私たちの世代から見たら乱れているという意見が強いだろう。 それは違うと思う。性道徳は世代によ…

アートスペース美蕾樹復活

一昨年閉廊していた渋谷のアートスペース美蕾樹が復活した。と言っても美蕾樹のオーナーだった越生さんが同じ渋谷のポスターハリスギャラリーで定期的に企画展を行っていくのだという。18日から「マダム・オゴセー美蕾樹復活祭!!」が始まった(30日まで)。 …

想像すること、想像しないこと

以前銀座のギャラリイKで石川雷太の個展があった。インスタレーションで、屠殺されたばかりの牛の頭蓋骨を透明なアクリルの箱に入れて6個ほど並べていた。その額には5寸釘が打ちこまれている。それぞれの頭蓋骨の前には「死刑囚S. N」とか「死刑囚H. H」と…

入浴のルール

若いとき1年間今はもう無くなった日産自動車座間工場に勤めた。フェンダーを作るプレス工をしていた。工場のわきに男子独身寮があり、何百人もの同僚がそこで暮らしていた。仕事でかいた汗を流すために毎日そこの共同浴場を使っていたが、最初に簡単な入浴…

黒田三郎の詩は優しい

荒地の詩人の一人黒田三郎は優しい詩を書く。愛妻家で子煩悩な詩人だ。次の詩は、詩集「小さなユリと」から。 九月の風 ユリはかかさずピアノに行っている? 夜は八時半にちゃんとねてる? ねる前歯はみがいてるの? 日曜の午後の病院の面会室で 僕の顔を見…

村上春樹の小説を長谷川龍生が体験していた

村上春樹の短編「どこであれそれが見つかりそうな場所で」(「東京奇譚集」所収)は失踪した夫の捜索を依頼された探偵の物語だ。探偵とはいっても報酬を受け取らない個人的ボランティアだが。 夫はある日妻と住むマンションの26階の部屋から夫の母親の住む24…

ベートーヴェンはあんこう鍋

青柳いづみこがベートーヴェンが好きだと書いている。 私はドビュッシー研究かということになっているが、実は作曲家ではベートーヴェンがダントツに好きである。なぜか? 彼ほど緊密に作曲した人はいないから。 ベートーヴェンの音楽のつくり方というのはあ…

音楽の世界というのは、神童の墓場なんだよ

姉はピアノの蓋を開け、使い込まれている変色した鍵盤に指を置いた。「あなたはゆくゆく、コンサート・ピアニストとして名を成すだろうと思っていたんだけど」 「音楽の世界というのは、神童の墓場なんだよ」と彼はコーヒー豆を挽きながらながら言った。 村…

結婚式場に関連した話

以前東郷神社の経営する東郷会館の結婚式場の広告で変なのがあった。神主や巫女に先導されて和装の新郎新婦が神社の廊下をしずしずと歩いていて、そのコピーが「アメリカナイズされた私たちだけれど、結婚式は神式を選びました」とかいうものだった。何が変…

洋式便器の蓋は椅子だった!

洋式便器の蓋は椅子なのだという。日本人が知らないで蓋として使用しているとの指摘。著者は柴田大成氏、株式会社喜久屋代表とある。初出は「室内」に載ったものらしい。「室内」といえば辛口で知られる保守の論客山本夏彦が主宰していた工作社が発行してい…

日本語のピジンイングリッシュ化を危惧する

mixiのあるコミュの掲示板に若者がイベントの告知をしていたが、詳しくはこの「フライヤー」でと書いていた。フライヤーってちらしだ。どうしてちらしって書かないのか。英語を使えばかっこいいと思っているのだろうか。ケーキは洋菓子で菓子ではないが、フ…

自然を愉しむテーマパークは未完に終わった

バブル時代、セゾングループは群馬県の赤城山の一角に自然を愉しむためのテーマパークを計画していた。一つの山をそっくりテーマパークにするため、植林されていた針葉樹をすべて伐採し、自然の植生にちかい広葉樹を植えた。一方シャクナゲなど花のきれいな…

皇居の三の丸尚蔵館へ行く

皇居にある三の丸尚蔵館へ展覧会を見に行ったときのことだ。三の丸尚蔵館は昭和天皇が寄贈した美術品を収蔵し展示するための小さな、しかし内容は豪華な美術館だ。なぜか宮内庁は宣伝に熱心でないように見受けられる。大手門を入ってすぐの所にある。 そこへ…

安田弘之「ちひろ」を読んだ

「読売新聞読書委員が選ぶ2007年の3冊」に西洋美術史の林道郎が安田弘之「ちひろ 上・下」(秋田書店)を推していることは先日のブログに紹介した。(id:mmpolo:20071224) 「ちひろ」について林は「歌舞伎町の風俗嬢の物語。生々しい描写が多く"R指定"だが…

古代ギリシアでは剃毛プレイが盛んだった?

資生堂のPR誌「よむ花椿」に面白いエッセイがあった。「古代ギリシアでは、女性が陰毛を剃る風習があった」と言う。まあ、戦後でも日本女性は脇毛を剃らなかったし、男は今でも剃らない。剃るのも剃らないのも単なる習慣だ。 1913年、ヴァン・ドンゲンがサロ…

須田悦弘の木彫作品

ムンク展最終日の前日、上野の国立西洋美術館に行った。チケットを買うために行列ができていて、入場まで30分というプラカードを持った青年が立っていた。それですぐに諦めた。どうしようか。方向転換して竹橋の国立近代美術館へ彫刻展を見に行った。窓口で…

日本を代表する料理は?

中尾佐助が世界の料理を分析して、どこの国の料理も何かの味にステインされていると書いていた。ある基本的な味に汚されている、覆われているというような意味だった。具体的には、ヨーロッパは動物性油脂に、インドはカレーに、そして日本は砂糖にという驚…

ティファニーはアールデコ

私がティファニーについて語るなど噴飯物に思われるかも知れないが、微かな接点はあった。いや大したことではないが。オードリー・ヘップバーンの映画「ティファニーで朝食を」で有名な高級宝石店ティファニーが東京日本橋三越に出店したのが1972年だそうだ…

「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」について作家が語ったこと、または大江健三郎の韜晦

新潮社のPR誌「波」2007年12月号に、大江健三郎への短いインタビューが載っている。「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」の刊行記念インタビューだ。7つの質問のうち2つの質問と答えを引用する。 ーータイトルの中心にある、「アナベル・リイ」…

とんぼの本「洲之内徹 絵のある一生」

昨年10月に新潮社からとんぼの本のシリーズで「洲之内徹 絵のある一生」が発行された。これは「芸術新潮」1994年11月号を再編集して単行本にしたものだ。いや再編集が悪いと言っているのではない。取材してから13年経っているからどこか古びていないかと思っ…