須田悦弘の木彫作品

 ムンク展最終日の前日、上野の国立西洋美術館に行った。チケットを買うために行列ができていて、入場まで30分というプラカードを持った青年が立っていた。それですぐに諦めた。どうしようか。方向転換して竹橋の国立近代美術館へ彫刻展を見に行った。窓口で聞くと10日前に終わっていた。トホホ。
 また転じて東京国立近代美術館工芸館へ行く。開館30周年記念展として「工芸の力ー21世紀の展望」をやっている。ここに展示されている須田悦弘さんの作品が目当てだ。須田さんは木彫の作家で、原寸大の花などを写実的に彫刻して、それを彩色した作品を作っている。いつも展示に凝っていて、どこに展示してあるか探すのに苦労する。分からないのだ。まずチケット売場のの女性に須田さんの作品は何点展示してあるか確認する。9点だという。探したがやっぱり全く分からない。展示室の隅に座っている女性に尋ねる。あの窓枠の外に2点あります。あとは向こうの部屋や休憩室ですね。なるほど、窓枠の外に小さな木の葉の彫刻が置かれていた。別の部屋の窓枠の外にも何点かの木の葉があった。休憩室にはやはり窓枠の外に木の葉と雑草と枯れ枝があった。みな木彫の作品だ。しかしあまりにもリアルで、作品と知らなければ、あるいは美術館でなく野外に置かれていれば本物の木の葉や雑草、枯れ枝としか思わないだろう。


 展示品を撮影することはできないので、工芸館を出た後、路傍で見つけた本物の枯葉や枯れ枝、雑草を撮影した。それがこれらの写真だ。須田さんのファンなら、これが須田さんの作品だと言えば信じるだろう。
 須田さんが初めて銀座のギャラリイKという画廊で個展をした時、画廊の片隅に雑草の木彫作品を置いて展示したが、見に来た何人もが、これは毎日水をやっているのですかと聞いたと言う。そのくらいリアルな出来で、作品は「日本原色雑草図鑑」を見て研究しましたと、当時私が勤めていたこの図鑑の発行元へ個展の案内状を送ってくれたのだった。
 須田さんの作品はいつもこんなに地味なものばかりではなく、チューリップやサザンカ、タイサンボクの花もある。品川の原美術館にはクレマチスが常設されている。
 私の好きな作家の一人だ。