高階秀爾『芸術空間の系譜』(ちくま学芸文庫)を読む。高階はこれを30代で書いている。何という優れた才能だろう。名著と言っていい。
ギリシア人の空間意識、イタリア美術の空間意識、ゴシック空間の象徴性、ルネッサンスの理想都市、世紀末芸術の空間意識、キュビスムの空間意識、抽象的空間の成立と続く。
ギリシャの神殿建築には内部空間がないということ。それは外から眺める「鑑賞的記念建造物」であり、周囲の環境に対しては意外なほど冷たい。ギリシャの建物は「閉鎖性」が特徴なのだ。
イタリア芸術はしばしば「見世物」的であり、その空間意識は「舞台装置」的である。建築はもっぱら舞台設定のための書割り的な役目を担わされたものとしての建築という点が強調され、終局的には建物そのものよりもその正面部をどのように扱うかという点に主要な関心が注がれる。
ロマネスクの建築空間は、人間をそのまま受け入れ、包み込んでくれる。どんな山奥にある修道院でも、ひとたびその中に足を踏み入れれば、われわれの心はその空間と同調して、充実した対応関係が生まれる。そこには人間と建築とのひそやかな共謀関係が成立する。
だが、ゴシックの大聖堂の空間は、町の真中にありながら冷たく人間を拒否しているように思われる。こう書いて高階はゴシック空間の特質を詳しく語ってくれる。それは見事なゴシック建築論だ。
新しい技術を語る章で、ウィリアム・モリスの「アーツ・&・クラフツ運動」が「無残な失敗」に終わったと批判される。そのことも印象的だった。
世紀末芸術の空間意識とは、ひと口に言って、「奥行きのない世界」だという指摘。知らないのではなく拒否したんだという。
本書は雑誌『SD』の1965年から67年に発表されたものだ。もう60年も前になる。だから現代美術に関しては古さを否めない。しかし、全体に今でも十分に体系的で説得的だ。ほとんど教科書だと言って良いのではないか。


































