藍画廊の今道子展を見る

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DM葉書

 

  東京銀座の藍画廊で今道子展が開かれている(5月22日まで)。今は1955年、神奈川県鎌倉市生まれ。1978年、創形美術学校版画科卒業後、東京写真専門学校を中退。1991年、第16回木村伊兵衛写真賞を受賞している(以上Wikipediaより)。

 今は生の魚を使って動物などのオブジェを作り、それを白黒のフィルムで撮影しプリントしている。他に類似の作品を見ないユニークなものだ。

 生の魚の頭や目玉をオブジェの素材として使っているからかなりグロテスクな作品のはずだが、それが白黒写真で提示されているのでさほどグロテスクな印象は受けない。今までいつも銀座の小さなギャラリー巷房で個展を重ねてきたので、藍画廊という広い空間で今の作品を見るのはちょっと新鮮だった。

 

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今道子

2021年5月10日(月)―5月22日(土)

11:30-19:00(最終日18:00まで)日曜休廊

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藍画廊

東京都中央区銀座1-5-2 西勢ビル2階

電話03-3567-8777

http://igallery.sakura.ne.jp/

 

 

山梨俊夫『風景画』を読む

 山梨俊夫『風景画』(集英社)を読む。副題が「テーマで見る世界の名画」として、68点の‘名画’を山梨俊夫が解説している。

 全体が3部に分かれ、「自然と都市」「物語の舞台」「想像の構成」となっている。「自然と都市」では1世紀の古代ローマから始まるが、次は16世紀で、およそ1400年が欠けている。その間、風景画がほとんどなかった。自然自体が主題になっていなかった。それが16世紀あたりから自然景観だけを描いて絵が完結するようになる。山梨は、歴史的風景画~神話的風景画、バルビゾン派ロマン主義印象派、ポスト印象主義、そして風景画は造形思考の浸透を受けて大きく変形したとして、セザンヌシスレークリムト、スーチン、ボナール、モランディ、ド・スタールからこの章の最後にリヒターを採り上げる。

 ついで「物語の舞台」では、画家は神話や物語を描くが、現実感を表すために物語に相応しい自然景観を描き出す。そこで描かれる自然は実際の景観に近づけられる。時代が下ると自然とともにある人間のドラマが増えていく。マンテーニャの描く「オリーブ山での祈り」(15世紀)やクラナーハ(父)の「悔悛する聖ヒエロニムス」(16世紀)の背景の自然=風景に注目し、17世紀のニコラ・プッサン、クロード・ロランを紹介し、クロード=ジョゼフ・ヴェルネの「嵐と難破船」(18世紀)では、画面の6つの細部を取り出して詳しい分析を加えている。この章の最後は19世紀のセガンティーニが採り上げられる。

 「物語の構成」では、風景画の概念を大きく超えた作品も採り上げられる。ターナーから始められ、ピーテル・ブリューゲル(父)の有名な「雪中の狩人」も7つの細部を採り上げ、綿密な分析が加えられる。画面左下の二人の狩人について、

 

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雪中の狩人

獲物は兎が1羽。狩りは不首尾に終わった。どうやら鉄砲も弓もなく、引き連れた13匹の猟犬に獲物を狩り出させて、長い棒で仕留める素朴な猟である。3人の狩人も猟犬どもも心なしかうなだれて元気がない。

  その後、ターナー、コローに続いてゴッホゴーギャン、ルソー、ブラックと続き、カンディンスキーでは「風景が解体される」と書く。次いでシャガール、キリコ、エルンスト、クレーが続き、最後にキーファーが置かれている。

 山梨俊夫は、『現代絵画入門』(中公新書)が素晴らしく、山梨の著書はできるだけ目を通すようにしている。

 

 ※追記

 この後、森洋子ブリューゲルの世界』(新潮社とんぼの本)には、山梨と別の解釈が書かれていた。

 

猟師たちは領主の狩猟の手伝いの帰りだったのでしょう。自分たちの分はキツネ1匹です。農民たちは領主たちの狩猟地で自分たちのためにシカ、イノシシ、クマなどの大きな動物を射止めることは禁止されていたからです。驚くべきことにブリューゲルは猟師と一緒に描かれた13匹の猟犬を、1.猟師たちに獲物のありかを教える、足の速い犬、2.地中に逃げ込む獲物を臭いをかぎわけて追跡する犬、3.猟師が打ちとめた獲物を運ぶ犬など、3種に描き分けているのです。

  これは森の解釈が正しいみたいだ。

 

 

 

 

ブリューゲルの世界 (とんぼの本)

ブリューゲルの世界 (とんぼの本)

  • 作者:洋子, 森
  • 発売日: 2017/04/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

ノイバラが咲いている

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  JR総武線亀戸駅前の植え込みにノイバラが咲いている。ノイバラは野生種の地味なバラで、普通わざわざ植栽されることはない。ましてや、駅前の植え込みは専門の業者が管理しているだろう。なぜにわざわざこんな一等地に野生のバラなんかを植えているのか。

 もう10年以上前、同じような状況を見て推測したことがあった。JR飯田線市田駅のホームに大きなノイバラの株があって白い花が満開だった。わざわざノイバラを植えるとも思えないのになぜか?

 おそらくどちらの事例も元々は華やかな園芸種のバラを植えたのに違いない。市田駅ではバラ好きの駅員が植えたのに転勤に伴ってその後手入れをする者がいなかった。亀戸駅前は業者が植えたのに、経費の関係でその後丁寧な管理を怠っている。園芸種のバラはしばしばノイバラの台木に接ぎ木をして栽培され、その苗が販売されている。ノイバラは強いので、台木から直接ひこばえが生えることがある。そのひこばえを掻き取らないと、園芸種を抑えてひこばえが成長する。やがて園芸種は衰えて台木のノイバラにとって代わられる。その結果が市田駅のホームであったり、亀戸駅前の植え込みとなるのだ。

 ノイバラを歓迎するのは二つの人種に限られる。新しいバラの育種を趣味にしている人と、盆栽を作ろうとしている人だ。バラの育種家にとってノイバラは大事な台木だし、盆栽にするには地味な野生種の方が好ましい。

 バラの育種を趣味にしていた武蔵野バラ会の理事をしていた世田谷のWさんのお宅にも大きなノイバラの株があった。

 

 

吉田秀和『ブラームス』を読む

 吉田秀和ブラームス』(河出文庫)を読む。吉田秀和は2012年に98歳で亡くなるまで長年にわたって音楽評論を書き継いできた。それらは時々の新聞雑誌に掲載され、出版された書籍も数多く、さらに全集も発行されている。本書は、吉田が発表してきたブラームスに関する音楽評論をまとめて文庫本に編集したもので、河出文庫にはすでに『マーラー』『フルトヴェングラー』『バッハ』『グレン・グールド』『カラヤン』『ホロヴィッツと巨匠たち』『クライバーチェリビダッケバーンスタイン』『ベートーヴェン』『私のモーツァルト』などが発売されている。こんな風に文庫本で発売してくれると手軽に持ち運べるし、本棚にもかさばらなくて収納できるのでありがたい。

 本書は題名通りブラームスに関する論考を集めているが、中では「ブラームス」という章が134ページと全体の4割ほどを占めていて圧巻だ。ブラームスの貧しい生い立ちからシューマンとの出会いと、14歳も年上のクララ・シューマンへの終生変わることのない愛、それともちろんブラームスの作品が詳しく分析し紹介される。本書を読みながら改めてブラームスのCDを取り出して聴き直してみたりした。

 意外だったのが、交響曲と協奏曲を除くと室内楽に関しては、ヴァイオリン・ソナタヴィオラソナタ、ピアノ・ソナタなどが採りあげられているくらいだったこと。いや、最初の「ブラームス」という評伝で幅広く言及されているので偏っているという印象はないが。

 それにしても私はCDを数百枚持っていて、そろそろ終活で断捨離を始めたというのに、また欲しくなったCDができてしまったこと。「4つの厳粛な歌」とか、晩年のピアノ小品、クラリネットソナタなどなど。

 この後も吉田秀和の本を読むたびに欲しいCDが増えていくのではないかと半ば恐れているのに。

 

 

ブラームス (河出文庫)

ブラームス (河出文庫)

  • 作者:吉田秀和
  • 発売日: 2019/12/05
  • メディア: 文庫
 

 

 

海外の長篇小説ベスト100から

 少し古いが雑誌『考える人』が海外の長篇小説ベスト100を特集していた(2008年春号)。このテーマなら13年前だがあまり古びてはいないだろう。これがなかなか興味深い。

 129人の作家や批評家など、さまざまな書き手129人にアンケートを依頼し、各人のベスト10を挙げてもらった。1位に10点、2位に9点……、10位に1点を配点し集計した。

 

第1位  「百年の孤独」  (ガルシア=マルケス

第2位  「失われた時を求めて」  (プルースト

第3位  「カラマーゾフの兄弟」  (ドストエフスキー

第4位  「ドン・キホーテ」  (セルバンテス

第5位  「城」  (カフカ

第6位  「罪と罰」  (ドストエフスキー

第7位  「白鯨」  (メルヴィル

第8位  「アンナ・カレーニナ」  (トルストイ

第9位  「審判」  (カフカ

第10位  「悪霊」  (ドストエフスキー

  

 ドストエフスキーがベスト10に3点も入っている! カフカが2点も! 

 

第11位  「嵐が丘」  (エミリー・ブロンテ

第12位  「戦争と平和」  (トルストイ

第13位  「ロリータ」  (ナボコフ

第14位  「ユリシーズ」  (ジェイムズ・ジョイス

第15位  「赤と黒」  (スタンダール

第16位  「魔の山」  (トーマス・マン

第17位  「異邦人」  (カミュ

第18位  「白痴」  (ドストエフスキー

第19位  「レ・ミゼラブル」  (ユゴー

第20位  「ハックルベリイ・フィンの冒険」  (マーク・トウェイン

 

 ベスト20までにドストエフスキーが4点、トルストイが2点。ナボコフの評価が高い。

 

第21位  「冷血」  (カポーティ

第22位  「嘔吐」  (サルトル

第23位  「ボヴァリー夫人」  (フローベール

第24位  「夜の果てへの旅」  (セリーヌ

第25位  「ガープの世界」  (アーヴィング)

第26位  「グレート・ギャツビー」  (フィッツジェラルド

第27位  「巨匠とマルガリータ」  (ブルガーコフ

第28位  「パルムの僧院」  (スタンダール

第29位  「千夜一夜物語」  (――)

第30位  「高慢と偏見」  (ジェーン・オースティン

 

  カポーティの評価が高い。サルトルカミュに水を開けられた。ベスト30までにスタンダールが2点入った。

 

第31位  「トリストラム・シャンディ」  (スターン)

第32位  「ライ麦畑でつかまえて」  (サリンジャー

第33位  「ガリヴァー旅行記」  (セルバンテス

第34位  「デイヴィッド・コパフィールド」  (ディケンズ

第35位  「ブリキの太鼓」  (ギュンター・グラス

第36位  「ジャン・クリストフ」  (ロマン・ロラン

第37位  「響きと怒り」  (フォークナー)

第38位  「紅楼夢」  (曹雪芹・高蘭埜)

第39位  「チボー家の人々」  (マルタン・デュ・ガール)

第40位  「アレクサンドリア四重奏」  (ロレンス・ダレル

 

 30位までは半分ほど読んでいたが、31~40位では3冊しか読んでいない。スターンは吉行淳之介の勧めで読んだ。

 

第41位  「ホテル・ニューハンプシャー」  (アーヴィング)

第42位  「存在の耐えられない軽さ」  (クンデラ

第43位  「モンテ・クリスト伯」  (デュマ)

第44位  「変身」  (カフカ

第45位  「冬の夜ひとりの旅人が」  (カルヴィーノ

第46位  「ジェーン・エア」  (シャーロット・ブロンテ

第47位  「八月の光」  (フォークナー)

第48位  「マルテの手記」  (リルケ

第49位  「木のぼり男爵」  (カルヴィーノ

第50位  「日はまた昇る」  (ヘミングウェイ

 

 50位以下は、気になるものを拾ってみる。

 第57位に日本文学から初めて「源氏物語」(紫式部)が選ばれている。第60位に「スローターハウス5」(カート・ヴォネガット)、第61位に「アブサロム・アブサロム!」(フォークナー)、第66位に「日の名残り」(カズオ・イシグロ)、第70位に「ブライヅヘッドふたたび」(イーヴリン・ウォー)、第78位に「不思議の国のアリス」(ルイス・キャロル)、第86位に「薔薇の名前」(ウンベルト・エーコ)、第91位に再び「死の家の記録」(ドストエフスキー)、第100位が「悪徳の栄え」(ド・サド)となっている。

 このほか、アンケートを依頼した129人のベスト10が紹介されている。その中からもいくつか拾ってみる。

 内田樹が7位に「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」(ル・カレ)を入れている! 江國香織が7位に「情事の終り」(グレアム・グリーン)を入れてくれた。吉田篤弘が1位に、鹿島田真希が6位に「フラニーとゾーイ」(サリンジャー)を入れている。加藤典洋の10位は「マルタの鷹」(ハメット)、川本三郎と横山貞子がともに10位に「蠅の王」(ゴールディング)を入れているが、過大評価だろう。木田元の8位に「王道」(マルロー)が入っている。小池昌代の9位は「倦怠」(モラヴィア)だ。小沼純一の8位に「愛する大地」(ル・クレジオ)が選ばれた。さげさかのりこは5位に、沼野充義は10位に「ソラリス(の陽のもとに)」(レム)を選んでくれた。佐々木敦沼野恭子が二人とも8位に「突囲表演」(残雪)を選んでいる。関川夏央は順位なしで「モーヌの大将」(フルニエ)を選んでいる。懐かしい。巽孝之の2位は「完全な真空」(レム)だ! 永江朗の9位が「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ディック)、保坂和志が順位なしで「枯草熱」(レム)と「路傍のピクニック(ストーカー)」(ストロガツキイ)を選んでいる。レムもストロガツキイもタルコフスキーの映画の原作者だ。

 村松潔は4位に「北回帰線」(ヘンリー・ミラー)を選び、「ミラーの作品群はこんなにもでたらめな生き方が許されるのかという驚きと救いに似た気分を与えてくれた」と書いている。山田太一の8位は「軽蔑」(モラヴィア)、若島正の6位が「叔母との旅」(グレアム・グリーン)だ。

 さらに「検証座談会」と題して、豊崎由美青山南加藤典洋が語っている。

 

青山  豊崎さんで思い出した。ル・クレジオを入れるのを忘れたな。

豊崎  豊崎光一さんの訳ですね。

加藤  入れようと思ってたんだよ。僕、入れたっけ? 入れてない?

青山  「調書」は入れたかったな。

加藤  「調書」は入れなきゃいけないんですよ。若いときのこと考えると、入れなきゃ申しわけない。だって、あの「調書」でしょう。そのあと「発熱」があって、「物質的恍惚」「大洪水」……。

青山  加藤さんと僕は年齢が近いので、「調書」が翻訳されたときの日本での大騒ぎはよく覚えています。「物質的恍惚」も大好きでした。

加藤  出てすぐ買ったんですよ。ちっちゃい本屋でね。帯の背に「新しい嘔吐」と書いてあった。66年、大学1年のときです。

青山  「調書」は大変な話題になりましたよね。訳がまた斬新だった。「調書」はかなりぶっ壊れた小説で、ああいう小説を書いた人は、やっぱりのちのちインディオのほうに行くだろうなと思う。

 

 ル・クレジオの「調書」は私の聖書だった。ブログの題名「mmpoloの日記」も「調書」の主人公の名前アダム・ポロから採っている。

 このベスト100は教えられるところが大だった。