ガルリSOLの長田堅二郎展を見る

 東京銀座のガルリSOLで長田堅二郎展が開かれている(9月23日まで)。長田は1979年大分県生まれ、2003年に東京藝術大学美術学部彫刻科を卒業し、2005年に同大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了している。今までに主な個展としては、表参道画廊やいりや画廊など、ガルリSOLでは2018年、2019年に続いて3回目となる。



 今回長田はステンレスの棒を組み合わせた彫刻を作っている。基本的に曲線は使わず、直線の組み合わせのみで複雑な形態を作っているが、その形は閉じていて、多角形の空間を内包している。それはどの作品も共通している。

 いずれも両手に抱えられるくらいの大きさで、より大きな作品に展開したら、どのような造形を見せてくれるのか興味を持った。この形を作ったのは今回が初めてとのことなので、次回が楽しみだ。

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長田堅二郎展-Coincident Forms-

2023年9月18日(月)―9月23日(土)

11:00-19:00(最終日17:00まで)祝日開廊

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ガルリSOL

東京都中央区銀座1-5-2 西勢ビル6F

電話03-6228-6050

https://galerie-sol.com/

 

巷房の吉江庄藏展を見る

 東京銀座の巷房・1+巷房・2で吉江庄藏展「境界を巡る襞~宿る~」が開かれている(9月23日まで)。吉江は1974年東京藝術大学大学院彫刻科を修了し、1979年同大学院構成デザイン科を修了、1980年に同大学院構成デザイン科研究課程を修了している。

 



 3階の巷房・1の中央に金属の立体が設置されている。ステンレス鋳造で重量が100㎏あるという。あたかも男がうずくまっている形に見える。形は単純で歪んだ球形のようだが、ひと目見てうずくまっている人だと分かるし、それがとても美しい。素晴らしい造形だ。

 また地下1階の巷房・2には、同じ形態のこちらはプラスチックで作った立体が3体設置されている。

 特に3階のステンレスの作品が素晴らしかった。こんな単純な形でこんなに美しい形態を生みだした吉江の造形力に感嘆する。

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吉江庄藏展「境界を巡る襞~宿る~」

2023年9月18日(月・祭)―9月23日(土)

12:00-19:00(最終日17:00まで)

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巷房・1+巷房・2

東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル3階・地下1階

電話03-3567-8727

https://gallerykobo.web.fc2.com/

 

 

小室直樹『新版 三島由紀夫が復活する』を読む

 小室直樹『新版 三島由紀夫が復活する』(毎日ワンズ)を読む。初めに第1章「三島由紀夫二・二六事件」として2.26事件が詳しく語られる。それも反乱軍である青年将校側に立って事件を語っている。2.26事件に際して昭和天皇が鎮圧を命じた。それを三島は深く悼んでいる。

 第2章「戦後天皇制に挑戦した三島由紀夫」。冒頭で『英霊の声』の末尾が引用される。「などてすめらぎは人間(ひと)となりたまいし」。戦後の天皇人間宣言を三島は批判する。そして『豊穣の海』4部作を分析する。そこで仏教の唯識論が重要だと言い、唯識論について詳しく解説している。これが私には分からなかった。

 第3章「蘇る三島由紀夫」では、元陸相補山本舜勝との交流が紹介される。山本に師事して軍事訓練を行う。盾の会を結成する。自衛隊体験入隊する。

 第4章「帰らざる河」で三島の半生が辿られる。続いて第5章「そして『豊穣の海』へ」で自衛隊市ヶ谷駐屯地での三島の決起の呼びかけと、その後の自決が語られる。

 第6章「残された建白書」は、三島が最後に山本舜勝に宛てた手紙の中身で、それが自民党政府と当時の佐藤内閣に向けての建白書だった。小室直樹が、この建白書のなかで三島が声を大にして訴えているのは次の3つだと要約している。

 第一は、戦略上共産主義陣営は自由陣営に対し、基本的利点をもち優位にあるということであり、第二は、戦後日本は、防衛の基本的前提というべき国家の政治体制が、戦略上最大の弱点になっているという指摘である。第三は、日本の国防理念には基本的矛盾があり、日米安保と関係のない自主防衛を確立し、その矛盾を解消して第一、第二の不利を克服しなければならぬということである。

 

 この建白書全文を紹介し小室の叙述は終わっている。その後に元盾の会班長の特別寄稿「三島由紀夫先生の遺書」が付されている。

 三島由紀夫論として文学的な内容を期待して読んだのだが、実態は三島由紀夫の政治的立場を解説したものだった。三島の文学をこそ解説してほしかったのに。

 

 

 

大竹永明館長による山本弘展の見どころ



 東御市の梅野記念絵画館で開かれている「All is vanity. 虚無と孤独の画家――山本弘の芸術」について、同館館長で美術研究家の大竹永明さんが中日新聞に寄稿した。

 

 信州・飯田で生涯の大半を過ごした山本弘は、多感な10代を軍国主義から民主主義へ急激に移行する戦中、戦後混乱期に生きた。価値観が逆転した社会の中で無垢な精神を傷つけられたのか、この頃から自殺を試みるようになる。一方で画才は抜群で、わずか16歳で県展の前身である全信州美術展に入選するなど地元ではよく知られた存在だった。

 しかし36歳で結婚したころから酒浸りとなり、2度の脳血栓を発症し言語障害と半身不随になった。そしてアルコール依存症治療のため入退院を繰り返し、51歳で首をつって亡くなった。

 山本は不自由な足を引きずって歩いた飯田の街で見た、古い一軒家や朽ちた土蔵、よどんだ沼などを描いている。そうした、人が見向きもしないものに、酔っぱらいの絵描きであると世間からさげすまれている自分を重ね合わせたのだ。

 手が不自由になった山本は、絵の具を混ぜずにパレットナイフで描くようになり奔放な筆触と色彩の美しさが際立ってくる。抜群の描写力を持ちながら、それを失ったことで思わぬ絵の美しさを生みだしていく。

 “失う”ことで逆に潜在的な力が生まれ、未知の世界を切り開いていく。意気消沈せず気概さえ失わなければ、より高い領域に行かれる。“失う”ことを恐れてはいけない。山本の絵と生き方は、われわれにそう教えているような気がする。

 公立美術館としては初のワンマンショーとなる。鑑賞者の眼を言意識した絵が氾濫する中で、自分のためだけに描いた孤高の美しさを感じていただければと思う。

             (中日新聞長野県版、2023年9月9日朝刊)

 

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「All is vanity. 虚無と孤独の画家――山本弘の芸術」

2023年9月9日(土)―11月26日(日)

9:30-17:00(最終入場16:30)月曜休館・祝日の場合は翌火曜休館

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東御市梅野記念絵画館

長野県東御市八重原935-1 芸術むら公園

電話0266-61-6161

https://www.umenokinen.com/#

 

アクセス

鉄道等の場合

関東方面から:北陸新幹線「上田」にて、しなの鉄道へ乗換、小諸行または軽井沢行ご利用で「田中」下車。タクシーで15分(片道2500円前後)となります。バス路線はありません。