ガルリSOLの矢野晋次展を見る

 東京新富のガルリSOLで矢野晋次展「ABOUT BLUE」が開かれている(10月19日まで)。矢野晋次は1994年福岡県生まれ、2017年東京造形大学彫刻専攻を卒業し、2020年筑波大学大学院博士前期課程彫塑領域を修了している。2016年に神奈川県美術展入選。昨年もこのガルリSOLで二人展を行っていた。今年2月にはギャラリイKの三人展に参加していた。



 矢野は陶で人物を作っている。釉薬をかけ、その釉薬のひび割れも効果的だが、これは意図的なのだろうか? 陶による彫刻という難しい仕事を成功させている。個展のタイトルは釉薬の青色からきているようだ。

     ・

矢野晋次展「ABOUT BLUE」

2024年10月14日(月)-10月19日(土)

11:00-19:00(最終日は17:00まで)

     ・

ガルリSOL

東京都中央区新富1-3-11 銀座ビルディングNo.1(3階)

電話03-6228-6050

https://galerie-sol.com/

 

 

ギャラリイKの内海信彦展を見る

 東京京橋のギャラリイKで内海信彦展が開かれている(10月19日まで)。内海信彦は1953年生まれ、東京都出身。1974年慶應義塾大学法学部政治学科中退。1975年美学校中村宏油彩画工房修了。1981年多摩美術大学絵画科油画専攻コース卒業。個展は112回目となる。

 内海信彦の言葉、

112回目の個展である内海信彦展は、1986-1989年の”Innerscape series” 初期作品を中心に、1986、87、88年のぎゃらりいセンターポイント展、1988年原美術館“ハラアニュアル”、1989年ヒルサイドギャラリー展に出品した作品から選び展観します。前週に個展を開催している滝清子さんは、多摩美以来44年にわたる同志です。Inkflow paintingによる”Innerscape series”を始めた1984年頃からの私の作品は、恩師吉田克朗さんとの出会いと、吉田さんからの強い影響を受ける中で制作され、同時に悉く滝さんとの共同制作です。



 今回は35年ほど前の作品を展示している。その作品の完成度の高さに驚嘆させられる。内海のアトリエにはこのような作品がたくさん保管されているという。どこかの美術館でぜひ回顧展を企画してもらいたい。

     ・

内海信彦展

2024年10月14日(月・祝)-10月19日(土)

11:30-18:30(最終日17:00まで)

     ・

ギャラリイK

東京都中央区京橋3-9-7 京橋ポイントビル4F

電話03-3563-4578

http://galleryk.la.coocan.jp/

 

 

TS4312の澤登恭子展を見る

 東京四谷三丁目のTS4312で澤登恭子展「華麗なる崩壊」が開かれている(10月27日まで)。澤登恭子は1998年東京藝術大学美術学部絵画科油画卒業、2000年に同大学大学院美術研究科壁画研究室を修了している。今まで水戸芸術館や大阪、ロンドン、山口などで発表してきたが、ここTS4312では2019年、2022年に続いて3回目の個展となる。

 作家のコメント、

溶けたパラフィンに自身の指先を浸し、乾いてから剥がした指型を無数に作り、花びらに見立てた作品のシリーズ。

その花びらに見立てた無数の指型は、女性たちが既成の価値観により縛られて、あるいは己で縛っている状況から新たな状況を強く求めて古いものを外へと押し出そうとする力の集積を意味している。

それは一枚一枚は頼りなく見えづらくとも、数が増えるにつれ、存在感を見せる指先の型と似ている。それらは古い空気の籠った室内に、嵐と共に突然に舞い込んできた無数の花びらのようにも見える。

今回はその花びらに、桃の節句に飾る雛人形インスタレーションに加え、女性が従来求められ、答えだとあてがわれてきた生き方が少しずつ崩れてゆきつつある様を表現している。

 



 会場には崩れた雛人形のセットが広がっている。内裏雛三人官女などが投げ出されたように転がされている。その上に無数の桜の花びらが載っていて、雛壇を押しつぶしているかのようだ。雛人形は女性を取り巻く制度の暗喩なのだろうか。女性たちを拘束するような制度=雛壇が花びらに見立てられた指型によって崩れていく来るべき社会を現しているのだろうか。

 崩れた雛壇という一見悲惨な事件を思わせる情景が、実は作家の目指す新しい社会を望むための最初の光景を現しているのだろうか。真壁仁の「峠」という詩を思い出す。「大きな喪失にたえてのみ/あたらしい世界がひらける。」

 鈍感な我ら男たちは、こうした作品を通じてやっと女性たちの困難な世界、困難な戦いに気づかされる。

     ・

澤登恭子展「華麗なる崩壊」

2024年10月4日(金)-10月27日(日)

13:00-19:00(金・土・日のみ営業、最終日17:00まで)

     ・

TS4312

東京都新宿区四谷三丁目12番地サワノボリビル9階

電話03-3351-8435

FAX03-3359-5650

https://ts4312r.com/

東京メトロ丸の内線四谷三丁目駅1番出口から新宿に向って1分、セブンイレブンの隣のビル

 

ポーラ ミュージアム アネックスのアンリ・マティス展を見る

 東京銀座のポーラ ミュージアム アネックスでアンリ・マティス展「色彩を奏でる」が開かれている(10月27日まで)。

 ちらしの言葉、

(……)本展覧会では、マティスが生涯を通じて描き続けた室内画の名品、ポーラ美術館収蔵の《リュート》をはじめとした絵画5点と、晩年の傑作と言われる『ジャズ』(全20図)を展示いたします。



 さすがポーラ化粧品、マティスの名品を所蔵していて、今回銀座の会場で無料で公開している。とても素晴らしい。

     ・

アンリ・マティス展「色彩を奏でる」

2024年10月4日(金)-10月27日(日)

11:00-19:00(10/7,10/15、10/21休館)

     ・

ポーラ ミュージアム アネックス

東京都中央区銀座1-7-7 POLA銀座ビル3F

電話050-554-8600(ハローダイヤル)

https://www.po-holdings.co.jp/m-annex/

 

三野博司『アルベール・カミュ』を読む

 三野博司『アルベール・カミュ』(岩波新書)を読む。若いころカミュの『異邦人』は私の最も好きな本の一つで、たぶん10回以上読み直している。ただ、『異邦人』以外はそれほど好きではなく、いずれも1回しか読まなかった。

 本書で三野はカミュの小説や評論を紹介して、カミュの思想=イデオロギーを取り出している。カミュの生存当時、フランスでカミュサルトルとともに最も人気のある作家だった。

 本書でカミュの思想を追っていくと、時代に即した時事的な主張が多かった。第2次大戦レジスタンスやアルジェリアの植民地問題、ソ連共産党に対する批判・・・。カミュが亡くなって64年経ち、カミュの主題だった時事的な問題はほとんど過去のものとなっている。

 最近のコロナ禍で『ペスト』が話題になったが、さほど重要な作品とは思わなかった。やはりカミュは『異邦人』が代表作で、しかしそれも最近読み直して特段評価したいとは思えなかった。

 カミュと人気を二分したサルトルは、カミュと違って哲学的に深いものを持っていた。その哲学的なものの深さではカミュサルトルに及ばない。

 三野はカミュを小説に限らず全体的に紹介している。すると、あまり評価できない部分が多数を占めて、結局本書はやや退屈なものに終わっている。読む前に期待したので厳しい評価になってしまった。