太平洋戦争研究会『写真が語る敗戦と占領』を読む

 太平洋戦争研究会『写真が語る敗戦と占領』(ちくま新書)を読む。太平洋戦争研究会は近現代史に関する取材・執筆・編集するグループで、代表は近現代フォトライブラリー主宰の平塚柾緒。ちくま新書からも『写真が語る銃後の暮らし』『写真が語る満州国』を出版しており、ほかに『図説 太平洋戦争』『図説 東京裁判』『日本海軍がよくわかる事典』『日本陸軍がよくわかる事典』『カラー写真と地図でたどる太平洋戦争 日本の軌跡』など多数ある。

 本書は、1945年から1年ごとに7年間の歴史や風俗を写真で示し、さらに文章で解説している。とても手軽でコンパクトな戦争直後の歴史だ。高校の授業などで日本史の現代史が時間切れなどで十分に触れられないなどと聞くので、ぜひ本書を読んで戦後に何が起こったのか、知ってほしい。そのためには適切なテキストになるだろう。

 本書の小見出しから拾ってみる。破綻寸前の大日本帝国、降伏直後の日本人、進駐軍向けの売春施設RAA、食糧難による飢餓状態、食糧と生活物資が溢れるヤミ市(以上1945年)、人間天皇の全国巡,、経済の民主化・財閥解体と農地改革、終戦日以来の衝撃「金融緊急措置玲」(以上1946年)、マッカーサーのゼネスト中止命令、短命に終わった革新内閣、昭和天皇の「沖縄メッセージ」(以上1947年)、占領下で起きた大量殺人事件、東西冷戦と反共防波堤の構築、戦争責任は陸軍にあり、大量の死刑者を出したBC級戦犯裁判(以上1948年)、国労に打撃を与えた三鷹事件、松川事件の公正裁判判決要求運動、占領軍の秘密組織・キャノン機関(以上1949年)、朝鮮戦争勃発、日本再武装・警察予備隊の発足、マッカーサー元帥解任される、平和条約調印で日本占領が終了、占領状態の継続――在日米軍の駐留協定(以上1950・51年)

 大量の写真がこれらを示している。終戦直後の焼け野原となった両国界隈の航空写真、ミズーリ号で行われた降伏文書調印、拳銃自殺に失敗した東条英機、パンパン(街娼)の女性、上野駅の地下道に並ぶ浮浪者たち(鶴岡政男の「重い手」のモデル)、東京裁判で証言をする東条英機、有楽町駅前の闇市「すし屋横丁」(現在の東京交通会館)。

 写真が興味深い。新書という判型で写真が小さいのが残念だが、とても有益な戦後社会・風俗の記録だ。

 手っ取り早く戦後を知るための良い史料だ。

 

 

 

FORMコンテンポラリーの森洋史展を見る

 東京銀座のFORMコンテンポラリーで森洋史展「メタやたら」が開かれている(3月18日まで)。森洋史は1977年東京都生まれ、2013年に東京藝術大学大学院美術研究科油画技法・材料修士課程を修了している。銀座ならびに京都の蔦屋書店で個展を繰り返している。

 ギャラリーのホームページより、

森洋史は、西洋美術史の名画や宗教画、日本画の古典から、アニメ・漫画・ゲーム、映画などのポピュラーカルチャーに至るまで、時代も文脈も異なるイメージを引用し、組み合わせることで作品を制作してきました。作品に登場するモチーフは一見馴染み深い一方、装飾的で硬質な質感や構図の操作によって、懐かしさと同時に小さな違和感を呼び起こします。

本展では、既存シリーズにおける新作として、日本画の名品をサンプリングした「ジャパネスクシリーズ」の新作、アンディ・ウォーホル《キャンベル・スープ缶》を参照しつつ再構成した「If There was impossible Campbell’s Soup Cans...」シリーズを発表。また新たなシリーズとして、時代を象徴するスターたちの肖像をゲームのイメージと接続した「ポップスターシリーズ」を公開します。

 


 面白い試みだと思う。ただ私はアニメの少女の図像が出てくると拒否反応がでてしまう。私はガラパゴスの住人なのだろうか。

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森洋史展「メタやたら」

2026年2月28日(土)-3月18日(水)

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FORMコンテンポラリー

東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 6F

電話03-3575-7755

https://store.tsite.jp/ginza/

 

木村哲也『宮本常一』を読む

 木村哲也『宮本常一』(岩波新書)を読む。民俗学者宮本常一の評伝。宮本は『忘れられた日本人』という優れた書の著者であり、「土佐源氏」でも有名だ。宮本は渋沢敬三の教えを受け、渋沢のアチック・ミュージアムの所員をしていた。そして渋沢の「大事なことは主流にならぬことだ。傍流でよく状況を見ていくことだ。舞台で主役をつとめていると、多くのものを見落としてしまう。その見落とされたものの中に大事なものがある」という助言を守った。

 しかし、著者木村哲也の大学時代(1990年入学)の頃は宮本常一は完全に忘れられた存在だったという。その後宮本常一は徐々に評価されていく。宮本の影響を受けた者たちとして、木村は鶴見俊輔、安丸良夫、網野善彦、宮崎駿、谷川雁、島尾敏雄、石牟礼道子、森崎和江、本多勝一、司馬遼太郎、鶴見良行らの名前を挙げている。

 一方、藤田省三は宮本の描く地方の村落共同体が、翼賛体制を下支えする側面を持っていたことに無自覚であると批判した。色川大吉とは対談をしているが、ほとんど話がかみ合わなかったようだ。

 網野善彦は多く宮本から学んでいる。農民以外の非定住の漂白民について、天皇を中心とする農民の均質な国家というそれまでの日本像への疑問など。また網野は宮本常一の再評価の先鞭を付けている。

 司馬遼太郎は、『街道をゆく』で何度も宮本常一を取り上げている。

 木村哲也という宮本常一を敬愛する民俗学者によって描かれた本書は、宮本常一の業績を顕彰するとても気持ちの良い本だ。宮本常一の魅力がよく伝わってくる。

 

 

 

カフェzozoiの細井篤展を見る

 東京淡路町のカフェzozoiで細井篤展「かどういき」が開かれている(3月23日まで)。細井篤は1963年長野県出身、武蔵野美術大学大学院造形研究科彫刻コースを修了。1993年にギャラリー21+葉アネックスで初個展を開いている。私はこの個展を見ている。床に置かれた立体作品を鳥観図的に見下ろすような展示だった。3年前にはみぞえ画廊の二人展に細井が取り上げられていた。

 細井の言葉(Facebookより)、

時々あらわれる背中のむずむず、脳内には確かな存在とそのありかが鮮明に浮かび上がっている。/指先は迷うことなく、当然のことのように爽快感と達成感、至福の時間を与えてくれる。/でも どうしてもたどり着けない時もある。/爽快感と達成感、恍惚の時はすぐそこにあるのに・・・。/わかっているのに・・・。/この日常の感覚はわたしの彫刻制作時の感覚ともシンクロする。/今回この日常の感覚を彫刻のテーマに制作を試みた。

協力:松浦良介(フリーライター)/彫刻家・細井篤

さまざま素材に手を加えることで生まれた「彫刻」が店内各所に展示される。出品作は、作家が気にかけながらもなかなか展示できなかった作品が中心となる。

 



 カフェでの展覧会のため、壁面を使った展示や小品が多い。いいままで見てきた細井の作品とは違った側面が展示されていて、それも面白かった。中央のテーブルに興味深い小品が展示されていたが、撮影するのを忘れてしまったので紹介できない。残念。

 トイレの中の壁面にも展示があるので、行かれた方は見逃さないように注意。

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細井篤展「かどういき」

2026年2月25日(水)-3月23日(月)

12:00-18:00(火曜定休日)

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カフェzozoi

東京都千代田区神田淡路町2-21-10 TSフォレスト1F

※都営新宿線小川町駅、丸ノ内線淡路町駅、千代田線新御茶ノ水駅から徒歩3分

 

 

 

ギャラリー58の渋川駿展を見る

 東京銀座のギャラリー58で渋川駿展「とつとつ」が開かれている(3月7日まで)。渋川駿は1992年群馬県生まれ、2014年に和光大学表現学部芸術学科を卒業している。2013年にギャラリー58で初個展、以来ギャラリー58での個展は今回で14回目となる。渋川はいつもパフォーマンスをする。作家のコメント、

棒を落とし音を鳴らし続ける。自らの心音を形作っている様でもあるし、自らの足音を聞いている様でもある。それは今の音を消すために次の音を鳴らしている様でもあるし、音を鳴らす事で前の音を思い出そうとしている様でもある。今から見た過去、過去から考える今、全てが私を通して繋がっている。立っている地点から見える「間」を表したい。

 

 渋川が細い棒を持って「とつとつ」と床を叩いている。行っているのはそれだけだ。私はしばらく見ていただけなので断定的なことは何も言えないが、ただ「棒を落とし音を鳴らし続ける」だけのようだ。目を瞑って無心にそれを続ける、それが今回のパフォーマンスらしい。

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渋川駿展「とつとつ」

2026年3月2日(月)-3月7日8℃)

12:00-19:00(最終日17:00まで)

 

【パフォーマンス】

 3月2日(月) 13:00-19:00

 3月3日(火) 17:00-19:00

 3月6日(金) 13:00-19:00

 3月7日(土) 13:00-17:00

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ギャラリー58

東京都中央区銀座4-4-12 琉映ビル4F

電話03-3561-9177

http://www.gallery-58.com