梅野記念絵画館で山本弘展が開かれる

 



 長野県の東御市梅野記念絵画館で山本弘展「All is vanity. 虚無と孤独の画家-山本弘の芸術」が開かれることになった。期間は9月9日から11月26日までのほぼ2カ月半。美術館の紹介文を引く。

山本弘は、青春期を戦中、戦後混乱期に過ごし、価値観が逆転した社会の中で幾度も自殺を試みるようになります。そして過度の飲酒によりアルコール中毒となって入退院を繰返し、51歳で縊死しました。脳血栓のため手足が不自由になった山本弘は、絵具を混ぜずにパレットナイフで描くようになり、奔放な筆触と色彩の美しさが際立ってきます。没後、美術評論家針生一郎に見い出され、広く国内に知られるようになったこの作家の、公立美術館での単独の回顧展としては初めての開催となります。

 

 展覧会が開催される梅野記念絵画館と初代館長 梅野隆について、同じく美術館の紹介を引く。

明治の天才画家・青木繁を献身的に支え、青木作品を今日に伝えた梅野滿雄を父に持ち、その芸術的顕彰の情熱を受け継いだ長男・梅野隆は、才ありながら不遇のままに逝った画家たちの作品を蒐集し、再評価を求める顕彰活動を生涯のテーマとして活動してきました。当館はその梅野コレクションの寄贈作品を基に、1988年、浅間連峰を一望する東御市芸術むら公園内に開館いたしました。以来、近代美術史上、忘却されつつある画家の研究と展示を中心に、地元作家の展示や教育普及活動など幅広い活動を展開しています。

     

 これを機に多くの人に山本弘の芸術を知ってもらえれば、これに勝る喜びはない。会期が迫ったら、また詳しく紹介したい。

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特別展「All is vanity. 虚無と孤独の画家-山本弘の芸術」

2023年9月9日(土)-11月26日(日)

9:30-17:00(月曜日休館)

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東御市お目の記念絵画館・ふれあい館

長野県東御市八重原935-1 芸術むら公園

電話0268-61-6161

https://www.umenokinen.com

 

吉田秀和『音楽家の世界』を読む

 吉田秀和『音楽家の世界』(河出文庫)を読む。副題が「クラシックへの招待」で、本書は最初、雑誌『新女苑』の別冊付録として書かれ、その後1950年に単行本化され、さらに1953年に創元社から文庫版が出版された。だから70年以上前に描かれた入門書だ。

 古い入門書とは言え、ほとんど古さは感じられないし、教えられること多々である。クープラン、バッハから始まって、ハチャトリアンとショスタコーヴィッチまで、53人の作曲家の66曲が紹介されている。ベートーヴェンが最多の4曲、バッハとモーツァルトドビュッシーがそれぞれ3曲、2曲ずつ取り上げられているのが、ハイドンシューベルトシューマンチャイコフスキーで、ショパンブラームスもリストも1曲ずつしか取り上げられていない。

 何しろ53人の作曲家が紹介されているのだ。すこぶる贅沢な本だというのが読後の印象だ。これが入門書というのは納得できる反面、もっともっと取り上げてほしかったとも思った。

 改めて吉田秀和の偉大さを痛感した。

 

 

 

ガルリアッシュ(H)の広瀬里美展を見る

 東京日本橋小舟町のガルリアッシュ(H)で広瀬里美展「寄る辺」が開かれている(6月10日まで)。広瀬は1998年埼玉県生まれ、2022年に東京藝術大学美術学部彫刻科を卒業し、現在同大学大学院美術研究科彫刻専攻に在籍中。今回が初個展となる。

 広瀬のテキストはとても興味深いが、長いのでその一部を引用する。

私の彫刻に具体的な意味や理由などないが、無意味であるものが存在する意味を持てばいいと思っている。ただ存在することが許される、在るようにただ在ることが許されればいいと思っている。/寄る辺とは、身を寄せる所・頼りとする所、という意味である。/私がつくりたいものは無意味な存在の寄る辺なのだと思う。

「空卵」

奥の小部屋にある小品


 画廊の中央に高さ172mの大きな作品が設置されている。テラコッタに油彩が施されているという。素晴らしい存在感だ。どこか人体を思わせるが、人体でなくとも有機的な存在を連想させる。

 そのほかに膝丈くらいの立体が2体設置されている。こちらはより人体が強く連想できる。

 壁面には円形の立体が設置されていて、中央に穴が開けられている。穴の中には何か作られているようだが、暗くてよく見えなかった。これはタイトルが「空卵」となっている。勝手に子宮を表しているのだろうかと想像した。

 優れた彫刻家のデビューに立ち会うことができたという感慨を持ったのだった。

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広瀬里美展「寄る辺」

2023年5月28日(日)-6月10日(土)

12:00-19:00(最終日17:00まで)月曜休廊

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ガルリアッシュ galerie H

東京都中央区日本橋小舟町7-13東海日本橋ハイツ2F

電話03-3527-2545

https://galerie-h.jp

東京メトロ銀座線・半蔵門線 三越前駅A1・B6出口から徒歩5分

東京メトロ日比谷線都営地下鉄浅草線 人形町駅A6・B6出口から徒歩6分

 

高島屋日本橋本店6階美術画廊Xの星山耕太郎展を見る

 東京日本橋高島屋日本橋本店6階美術画廊Xで星山耕太郎展が開かれている(6月5日まで)。星山は1979年東京都生まれ、2003年に多摩美術大学絵画学科日本画専攻を卒業している。ギャラリーQやA. C. T.で個展を開いた後、2018年からここ高島屋美術画廊Xで個展を続けている。高島屋のホームページから、

抱えていた自身のコンプレックスや内省から、人間のエゴや多重的性質、一様でないこの世界の様相を、多様な描法で漫画のコマ割りのように分割した画面「サイコロジカル・コラージュ(心理的コラージュ)」によって表現しようとする星山耕太郎。

星山の敬愛する芸術家や身近な人物のポートレートをアイコンに、現実(真実)と虚構(嘘)、彼岸と此岸が入り交じるように、時にエネルギッシュなマチエール、時に濃密な筆致、時に単純化したフォルムで、相反する多様な要素が混交され、観る者を混乱させると同時に、それが実はひとつの世界を構成しているのだとも気づかされます。

 



 高島屋で何度も個展が開かれているということは人気があるのだろう。売れっ子になるための条件の一つが表現の非凡さであることは想像がつく。星山はその条件をクリヤーしている。

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星山耕太郎展「CROWD」

2023年5月17日(水)-6月5日(月)

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高島屋日本橋本店6階美術画廊X

東京都中央区日本橋 2-5-1

電話03-3246-4310

https://abc0120.net/2023/05/04/104197/

 

 

 

キヤノンギャラリー銀座の蜷川実花写真展を見る

 東京銀座のキヤノンギャラリー銀座で蜷川実花写真展が開かれている(6月3日まで)。蜷川は木村伊兵衛写真賞などを受賞した人気ある写真家、『ヘルタースケルター』や『ダイナー』などの映画も監督している。東京都庭園美術館のほか、台湾や北京の美術館でも個展を開いている。今回は「キヤノンギャラリー50周年企画展」ということだ。


 さて、蜷川は金魚を撮っている。派手な色彩が特徴の蜷川にとって金魚はうってつけの被写体だろう。蜷川実花は初め父親の蜷川幸雄の演出する清水邦夫の芝居に出演していた。華が無く女優には向いていなかった。写真に転じて評価され映画も撮った。私は映画は見ていないが、蓮實重彦が『見るレッスン』(光文社新書)で、「天性の映画監督でない人が撮っているというのが見え見えです」と酷評していた。

 蜷川の写真もきちんとは見ていないが、なぜそんなに高く評価されるのか今でも疑問に思っている。今回の金魚の写真も色彩がきれいなだけで、どこがおもしろいのか分からない。やはり「天性の写真家でない人」なのではないか。

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蜷川実花写真展

2023年5月23日(火)-6月3日(土)

10:30―18:30(日・月・祝休館)

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キヤノンギャラリー銀座

東京都中央区銀座3-9-7 トレランス銀座ビルディング1F

電話03-3542-1860

https://canon.jp/personal/experience/gallery/schedule/ginza