樺山紘一『欧人異聞』を読む

 樺山紘一『欧人異聞』(刀水新書)を読む。日本経済新聞に2011年から2013年まで、2年半にわたって週に1回122回連載したものを取りまとめた。ヨーロッパの歴史上の人物をこの新書見開き2ページで取りあげている。きわめて簡潔にまとめているが、やはり2ページだけなので少々物足りないのは仕方ないのか。

 ザクセン大公フリードリヒ・アウグストが景徳鎮と有田磁器をコレクションした。柿右衛門様式の磁器は112点に及ぶという。

 神聖ローマ帝国を相続したマリア・テレジアは16人の子どもを産み、うち10人が成人した。長子はヨーゼフ2世、娘のマリー・アントワネットはフランス国王ルイ16世の妃となった。

 オーストリア・ハンガリー帝国フランツ・ヨーゼフ1世の皇妃エリーザベトはとびきりの美人で遊びほうけて国を省みない。171センチの長身、50キロの体重と50センチのウエストを維持するために血のにじむようなエクササイズに励んだ。浅丘ルリ子が外出する際、化粧に2時間かけたというエピソードを思い出す。

 フランスの作曲家ドビュッシーは紙幣の肖像画に選ばれている。作曲家の肖像が紙幣に選ばれるなんて、日本でも見習いたい。鉄斎とか春草なんか取り上げられたら良いんじゃないか。

 中世のドイツの修道尼ヒルデガルドは特異な神秘体験をつみかさねた。このヒルデガルドについては在仏の画家田淵安一が詳しく調べて、それをテーマに作品を作っていたことを思い出した。具体的には、ヒルデガルドの幻視をもとに「ヒルデガルドの園」や「世界図No.2」という作品がある。(そこまでは樺山は書いていない)。

 なお、本書が刀水書房の刀水新書の発足1号に当たるという。

 

 

 

TS4312の「恒例ギャラリー入札オークション」を見る

 東京四谷三丁目のTS4312で「恒例ギャラリー入札オークション」が開かれている(1月26日まで)。ここの最低入札価格がとても安い。入札だから最低価格で落札できるわけではないが、画廊主の澤登さん曰く、うちはお客さんが少ないからあまり競ることがないので、最低価格で落札できることも多いよとのこと。何しろ額装した油彩作品で1,000円~というものから、100円~、500円~というものまである。


 興味深い作品をリスト順に拾ってみると、津田和一の油彩16万円~、赤瀬川原平の紙型千円札30万円~、奈良美智のフィギュア15万円~、横田海の油彩2万円~、鷲森秀樹の油彩(額付き)1,000円~、猪飼正のメゾチント1,000円~、吉武研司のドローイング2,000円~、花澤洋太が1万円~、Eichi Wataのかなりエッチな作品が100円~、杉田揚平の油彩が50万円~などとなっている。

 入札は2枚札方式で、安い金額と高い金額の2つを書き、他に入札者がいない場合は安い金額で、他に入札者がいた場合は高い方の金額で落札する。詳しくはTS4312のホームページに書かれている。入札は100円単位、メール、FAX、郵便でも可。代金は落札価格に10%の消費税加算。入札締め切りは1月26日(日)15:00厳守とのこと。

 ホームページに全作品の画像とデータ、最低入札価格が掲載されている。

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「恒例ギャラリー入札オークション」

2025年1月10日(金)―1月26日(日)

13:00-19:00(金・土・日のみ開廊、最終日15:00まで)

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TS4312

東京都新宿区四谷三丁目12番地サワノボリビル9階

電話03-3351-8435

FAX03-3359-5650

https://ts4312r.com/

 

ギャラリー椿の「オークション2025」が始まった



 東京京橋のギャラリー椿で「オークション2025」が始まった。

 オークションは1月17日(金)、18日(土)、19日(日)、20日(月)の4日間。誰でも自由に入札できる。今年は640点という大量の出品点数だ。ギャラリー椿は銀座・京橋地区でも特に大きなギャラリーだが壁面はぎっしりと作品で埋められている。全部見るのが大変だが、それがまた楽しい。気に入った作品も必ずあるだろう。

 出品リストを見ると、作家名、作品名(種類)、最低落札価格、素材・技法、サイズ、エディション、体裁、備考の欄がある。最低落札価格は文字どおり最低の入札価格だ。

 最も安いものは1,000円~というのもあり、5,000円~というものもある。多いのは1万円から3万円~くらいだが、100万円~や150万円~というものもある。

 入札方式は1人2枚札によるもの。これは希望価格の上値、下値の2つを記入する方式で、他に入札者がいなければ下値で落札されるが、競合した場合は上値で落札するというもの。もちろん相手の入札した金額がそれより上なら相手のものになる。入札の最小単位は100円とのこと。最低落札価格1万円以下のものは真贋無保証となっている。

 なお、落札した場合は、落札価格に別途ギャラリーの手数料が10%、この手数料に対して消費税が10%加算される。10,000円で落札すれば、手数料1,000円と消費税100円がかかり、合計11,100円が支払い金額になる。

 オークションは12:00ー19:00、入札締め切りが1月20日(月)16:30、開札が同日17:00からとなっている。

 入札しなくて見るだけでも大丈夫。作品は640点以上並んでいて面白いのでぜひ行かれることをお薦めする。出品リストはギャラリー椿のホームページでみることができる。

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ギャラリー椿

東京都中央区京橋3-3-10 第一下村ビル1F

電話03-3281-7808

http://www.gallery-tsubaki.net

 

 

ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『「それ」のあったところ』を読む

リヒター≪ビルケナウ≫

 ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『「それ」のあったところ』(新曜社)を読む。副題が「≪ビルケナウ≫をめぐるゲルハルト・リヒターへの4通の手紙」というもの。フランスの哲学者、美術史家のディディ=ユベルマンが、リヒターの抽象画≪ビルケナウ≫について考察し、それをリヒターへの手紙という形で書いている。

 リヒターの作品≪ビルケナウ≫は2022年の東京国立近代美術館のリヒター展にも展示された。4枚の抽象画で、これはアウシュビッツ=ビルケナウの強制収容所におけるゾンダーコマンドが撮影した4枚の写真をもとに描いたものだという。ゾンダーコマンドとはユダヤ人収容者の中から選ばれた、収容者の遺体を焼く役割のユダヤ人たちの呼称。写真には横たわるユダヤ人のたくさんの遺体が写っている。リヒターは最初この写真をトレースし、具象的な絵画を描こうとした。しかし、絵の具がほとんど乾いた段階でその絵を塗りつぶし抽象画に仕立て直した。完成した抽象画≪ビルケナウ≫を見ても、それが強制収容所ユダヤ人の遺体を描いたものだとはとうてい分からない。

 東京国立近代美術館のリヒター展では、この≪ビルケナウ≫に一室を与え、リヒターが制作した≪ビルケナウ≫の写真版を対面に設置し、ゾンダーコマンドが撮影した写真も展示していた。この絵がアウシュビッツ=ボルケナウで撮られた写真をもとに制作されたことも展覧会のちらしに紹介されていた。

 ディディ=ユベルマンは哲学者たちの言葉を援用しつつ、リヒターの≪ビルケナウ≫はナチスホロコーストを表現していると書いている。「主題は4枚の絵画の真下に、暗黙のうちに存在している。巻き込まれている」と。

 東京国立近代美術館のリヒター展で、≪ビルケナウ≫の部屋には元の4枚の写真も展示されていた。それらのインスタレーションにおいてようやく≪ビルケナウ≫がナチスホロコーストを表現しえたと言うべきだろう。ディディ=ユベルマンの主張に反して、リヒターの抽象作品≪ビルケナウ≫は、タイトルを除けばナチスの行為を描くことができなかったということだ。それを描き潰してこの作品が出来上がったということは象徴的なことに思える。

 最後に造本について、この『「それ」のあったところ』(新曜社)の本文用紙は厚すぎる。もう少し薄い紙を選ぶべきだった。小口が窮屈なのも気になる。もう1行減らすべきだった。もしそうすることでページが増えるのを懸念するなら、1行の文字数を増やしても良いだろう。本文の活字と訳者あとがきの活字の大きさの違いも気になった。あとがきの活字が本文に比べて小さすぎる。

 

 

 

ギャラリーなつかの酒井香奈展を見る

 東京京橋のギャラリーなつかとCross View Artsで酒井香奈展「Sign of Color-色の兆し」が開かれている(2月1日まで)。酒井香奈は1969年茨城県生まれ、1992年に武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業、1994年同大学大学院造形研究科美術専攻油絵コースを修了している。2008年と2010年、2020、2021年年になつかで個展を開き、その他アートギャラリークローゼットや櫻木画廊、かわかみ画廊などで個展を開いている。

 酒井の言葉、

日々の記憶の断片を絵の具に託し、何層にも重ねて描くことで、記憶と色、余白、光が静かに共鳴し、過去の感覚を呼び覚ます。

そうして生まれた作品が、鑑賞者の記憶や感情との対話の場となり、柔らかく深い余韻が、静かな共感と新たな視点を心に広げてくれることを願い描いている

 

「Dandelion」

「Dandelion」の一部

「Dandelion」の一部

「Dandelion」の一部



 今回ギャラリーの正面に大きな作品「Dandelion」が設置されている。P120号(130.3×194cm)の大作だ。これがとても良かった。タイトルの意味はタンポポ、晩秋にタンポポの黄色い群落を見たとのことだった。酒井は何層も絵の具を塗り重ねていって、作品を完成させているという。

 ただ、この作品は写真では伝わりにくい。作品の素材も「顔料、アクリルメディウム/石膏地、寒冷紗」となっていて、ざらざらしたマチエール、少し凸凹したような素材感など、写真に写りにくい。個展のDMも作品のイメージを半分も伝えていない。しかし実際に作品の前に立てばその良さが分かるだろう。

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酒井香奈展「Sign of Color-色の兆し」

2025年1月14日(火)-2月1日(土)

11:00-18:30(土曜日17:00まで)日曜休廊

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ギャラリーなつか&Cross View Arts

東京都中央区京橋3-4-2 フォーチュンビル1F

電話03-6265-1889

http://gnatsuka.com/