Stepsギャラリーの吉岡まさみ展を見る

 東京銀座のStepsギャラリーで吉岡まさみ展「罠Trap」が開かれている(7月19日まで)。吉岡まさみは1956年山形県生まれ。1981年に東京学芸大学教育学部美術科を卒業している。1982年に東京のかねこ・あーとGIで初個展、以来同画廊やときわ画廊、巷房などさまざまな画廊で個展を行ってきた。2007年からはアメリカやドイツなどでも個展を行っているし、2015年にはセルビア国立美術館で倉重光則とセルビア人画家との4人展を行った。またドイツで日独のアーチストによるグループ展にも参加している。



 今回は奥の壁に大きな作品が展示されている。吉岡が画廊で作って壁に設置したものだ。それを縮小したような小さな作品が20点近く展示されている。写真では3個ないしは4個が一組の作品にも見えるが、すべて1点ずつの作品だ。大きなものも含めて正方形を重ねている。重ねた正方形によって作られる形ごとに色を塗っている。吉岡は知的な構成を得意とする造形作家なのだ。

 吉岡はもの派との親近性を言うが、だれかドイツに似たタイプの作家はいなかっただろうか?

 展示の見事さは相変わらずだ。

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吉岡まさみ展「罠Trap」

2025年7月9日(水)-7月19日(土)

12:00-19:00(土曜日17:00まで)日曜休廊

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Stepsギャラリー

東京都中央区銀座4-4-13琉映ビル5F

電話03-6228-6195

http://www.stepsgallery.org

 

ガルリSOLの松尾玲央奈展を見る

 東京新富町のガルリSOLで松尾玲央奈展「関心領域」が開かれている(7月19日まで)。松尾玲央奈1984年福岡県生まれ。2007年に女子美術大学芸術学部立体アート学科を卒業し、2012年に同大学大学院美術研究科美術専攻後期博士課程を修了している。初個展は2007年ガルリSOLで行い、以来SOLでの個展は今回で14回めになる。そのほか女子美アートミュージアムや銀座gallery女子美など多数個展を開いている。

「関心領域」

「融和する行い」

「瞬箱」


 今回は3点のみの展示になる。画廊正面に大きな作品「関心領域」が設置されている。4つのピースで左右500cmもある。鉛で作られたシャツがコンクリートに貼り付けられ、または組まれた鉄線に挟み付けられている。

 「融和する行い」と題されたレリーフ状の作品は、鉛で作られ。桜の花が胴釘で止められている。下部の造形が何なのかよくわからない。しかし落ち着いた美しさを感じる。

 小品「瞬箱」も鉛で作られた小さな箱。これも桜の花が胴釘できれいに止められている。

 正面に設置された「関心領域」が素晴らしかった。具体的に何を表しているか分からなかったが、キーファーを連想した。

 松尾は初期にはどこか工場の機械を思わせる閉じたオブジェを制作していた。同時にそれは防御に徹した甲冑を思わせた。攻撃=防御が松尾の特性かとも思っていたが、最近は作品の空間が開いてきた印象を受ける。

 現在優れた中堅の立体作家に育ったと言えるだろう。

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松尾玲央奈展「関心領域」

2025年7月14日(月)-7月19日(土)

11:00-19:00(最終日17:00まで)

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ガルリSOL

東京都中央区新富1-3-11 銀座ビルディングNo.1(3階)

電話03-6228-6050

https://galerie-sol.com/

 

Hideharu Fukasakuギャラリー六本木の浅葉雅子展を見る

 東京六本木のHideharu Fukasakuギャラリー六本木で浅葉雅子展「誰が隠した、何で隠した、春画を巡って」が開かれている(7月17日まで)。浅葉雅子は1982年、女子美術大学日本画専攻を卒業。2003年にKONSTFACK(スウェーデン国立デザイン工芸芸術大芸術専攻)で学んでいる。1996年に銀座スルガ台画廊で初個展、2011年からはコバヤシ画廊で毎年個展を開いている。



 浅葉は初め春草の「落葉」などを引用していたが、現在は浮世絵の春画をアレンジして作品を作っている。歌麿などの春画を引用し、そこに花などをコラージュしている。春画を引用しているのだが、ソフィストケイトされた作風で、とても上品なものだ。色彩も形も美しい。

 こうして見ると、浮世絵の春画はどれも美しいことがよく分かる。生の浮世絵の春画は、どうしても妖しい部分に視線が行ってしまって、純粋に美しさを鑑賞し難かった。浅葉にそれを教えられたのだった。

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浅葉雅子展「誰が隠した、何で隠した、春画を巡って」

2025年7月4日(金)-7月17日(木)

11:00-19:00(最終日17:00まで)日曜休廊

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Hideharu Fukasakuギャラリー六本木

東京都港区六本木7-8-9 深作眼科ビル1F・B1F

電話03-5786-1505

https://hfg-art.com

 

 

トキ・アートスペースの本多真理子展を見る

 東京外苑前のトキ・アートスペースで本多真理子展「そんなに長くなく それほど短くもない#2」が開かれている(7月13日まで)。本多真理子は1964年埼玉県生まれ、1992年に東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了している。1991年にルナミ画廊で個展、その後は秋山画廊やトキ・アートスペース、ガルリSOLなどで個展を開いている。



 ギャラリーの奥の広いスペースに赤い毛糸に吊るされた細い鉄棒が何本も垂れ下がっている。見物客は空間の中に入ることもできるし、鉄棒に触れても構わないという。鉄棒と鉄棒が当たると音がする。

 壁面には馬毛で作られた不思議なオブジェや、ドローイングなどが展示されている。

 ドローイングは「左手のスミス」とか「右手の白いパラソル」と題されていて、ザ・スミスを聴きながら左手で描いたり、松田聖子を聴きながら右手で描いたものだという。

 ギャラリーのホームページに本多のテキストが掲載されているが、それを読んでもよく分からない。ただ、ギャラリーの空間は気持ちよいものになっている。

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本多真理子展「そんなに長くなく それほど短くもない#2」

2025年7月1日(火)-7月13日(日)

12:00-19:00(日曜日は17:00まで)月曜日休廊)

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トキ・アートスペース

東京都渋谷区神宮前3-42-5 サイオンビル1F

電話03-3479-0332

http://tokiart.life.coocan.jp/

東京メトロ銀座線外苑前駅3番出口より徒歩約5分

 

 

Yu Haradaの渡辺志桜個展を見る

 東京曙橋のYu Haradaで渡辺志桜個展「おほやけ/Filial 1 Hybrid」が開かれている(7月13日まで)。渡辺志桜里は1984年東京生まれ、2015年に東京藝術大学美術学部彫刻科を卒業し、2017年に同大学大学院を修了している。2017年以来、SYPギャラリーやWHITEHOUSEなどで個展を繰り返している。

 ギャラリーのホームページより、

本展では、二つの異なるシリーズを通じて、身体と制度、個体と系譜、自然と技術といった、私たちを取り巻く「かたち」への根源的な問いを投げかけます。

 

『おほやけ』シリーズについて

『おほやけ』は、歴代天皇の姿をガラスの能面として可視化するプロジェクトです。

「おほやけ」とは、古代において内裏(だいり)すなわち天皇の住まいを指し、また「公」という概念においては共同体が集う「大きな家(やけ)」の意を含んでいます。能舞台の屋根の様式としてもその象徴は受け継がれています。渡辺はこの語の重層的な意味を手がかりに、天皇を「生態系と人間中心主義のはざまで揺れる存在」として捉え、その姿を透過性のあるガラスの能面に昇華させます。

今回は、既発表の近現代3代(明治・大正・昭和)に加え、実在が定かでない25代以前の中から、神武、神功、仲哀の三天皇を新たに制作し、全6点を展示します。実在と象徴、制度と身体、歴史とフィクションが交差する本作は、「おほやけ」が内包する不可視の構造を静かに浮かび上がらせます

 

『Filial 1 hybrid』シリーズについて

『Filial 1 hybrid』は、スーパーで販売されているF1種の野菜を再生し、花を咲かせ、その「生殖器」を記録する作品です。

F1種とは、異なる固定種同士を掛け合わせて作られた「雑種第一代」のことで、均一な発芽・成長・収穫を目的に流通に最適化された形で生産されています。しかしその次世代、いわゆるF2種では遺伝子がばらつき、味や形の均一性が失われ、自家栽培も難しいことから市場に出ることはほとんどありません。

渡辺はこの経済的かつ生物的な制約を逆手に取り、F1野菜を「リポベジ」(Reborn Vegetable)として再生させ、生殖器としての「花」が開いた瞬間を写真に収めます。今回はニンニクを用いた作品を展示。人為的な交配・制御と自然の生命力のせめぎ合いを、静謐で挑発的な視点から記録しています。

 

大正天皇

明治天皇

神武天皇

神功皇后

神功皇后

昭和天皇

仲哀天皇

F1のニンニク


 6人の天皇のガラスで作られた能面が展示されている。将来的にはすべての天皇の能面を制作する予定だとのこと。

 透明なガラスで作られているので、どこまで実像が正確に再現されているのか分からなかった。しかし極めて興味深い企画だと思う。

 F1野菜を育ててそれを撮影するというのも面白そうだが、F1世代が作物として商品にならないのはその通りで、それを写真で表現するのは難しいかもしれないと思う。私も現実にF1世代の作物を見たことはないが、F1が商品にならないと言うことは、味の問題だったり、形や大きさだったり、収量の問題だったりするのだろう。しかし、それらを渡辺がどう表現するのか見て見たいと思う。

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渡辺志桜個展「おほやけ/Filial 1 Hybrid」

2025年6月14日(土)-7月13日(日)

13:00-19:00(月・火・水曜休廊)

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Yu Harada

東京都新宿区住吉町10-10

電話03-6555-2483

https://www.yuharada.com/