エッセイ

片山杜秀『歴史は予言する』を読む

片山杜秀『歴史は予言する』(新潮新書)を読む。『週刊新潮』に連載したコラム「夏裘冬扇」の書籍化。片山杜秀は近代日本政治思想史家でクラシック音楽の評論家。週刊誌の軽いコラムと思って読み始めたらとんでもなく重い充実したエッセイだった。名コラム…

開高健『食の王様』を読む

開高健『食の王様』(ハルキ文庫)を読む。「旅に暮らした作家・開高健が世界各地での食との出会いを綴った、珠玉のエッセイ集…」と惹句にある。さすが、みごとな食べ物にまつわるエッセイで、そこらのグルメ本とは一線を画する内容だ。 フランス革命で処刑…

芥川喜好『時の余白に 続々』を読む

芥川喜好『時の余白に 続々』(みすず書房)を読む。芥川は元読売新聞編集委員、読売新聞朝刊の連載コラム「時の余白に」をまとめたもの。『時の余白に』『時の余白に 続』につづく3巻目。しかし、このコラムは2020年4月25日で、1293回続いた連載を打ち切っ…

千野栄一『ビールと古本のプラハ』を読む

千野栄一『ビールと古本のプラハ』(白水社uブックス)を読む。千野は先日読んだ『言語学を学ぶ』https://mmpolo.hatenadiary.com/entry/2022/12/04/205950 の著者。若いころチェコスロバキアに9年間留学している。そのチェコの首都プラハの美味しいビール…

川添愛『言語学バーリ・トゥード』を読む

川添愛『言語学バーリ・トゥード』(東京大学出版会)を読む。本書は東京大学出版会のPR誌『UP』に連載していたものをまとめたもの。「はじめに」に相当するところで、「この連載に登場しがちなイカしたメンバーを紹介する」とある。 筆者(川添):かつて研…

赤瀬川原平『ふしぎなお金』を読む

赤瀬川原平『ふしぎなお金』(ちくま文庫)を読む。赤瀬川の哲学絵本。まず財布は拳銃に似ていると言う。西部劇のガンマンのガンベルトはむき出しの現金を装着したベルトなのだと。ガンマンはその現金でいつも勝負をしている。日本の場合は刀だった。拳銃も…

森村誠一『老いる意味』を読む

森村誠一『老いる意味』(中公新書ラクレ)を読む。副題が「うつ、勇気、夢」というなんだか取り留めないもの。90歳近い老作家が老いについて書いている。ある日、鬱になった自分を発見した。朝がどんよりしていた。言葉が出て来なくなった。認知症を併発し…

赤瀬川原平『純文学の素』を読む

赤瀬川原平『純文学の素』(ちくま文庫)を読む。40年ほど前に写真・エロ雑誌『ウィークエンド・スーパー』に連載したエッセイ。 私が小学生のころの娯楽はラジオだった。ドラマのほかに寄席が娯楽の中心だった。私は落語は好きだったが漫才は嫌いだった。わ…

赤瀬川原平『自分の謎』を読む

赤瀬川原平『自分の謎』(ちくま文庫)を読む。100ページ余の薄い文庫本で、半分がイラストになっている絵本みたいなエッセイだ。5つの章があって、「目の問題」「痛い問題」「国境問題」「一つだけの問題」「強い自分、弱い自分」となっている。 「目の問題…

米原万里『旅行者の朝食』を読む

米原万里『旅行者の朝食』(文春文庫)を読む。米原の描いた食べものに関するエッセイをまとめたもの。米原のエッセイや小説には外れがない。どれも傑作だ。 この平凡なタイトルについて、ロシアの小咄が紹介される。 「日本の商社が「旅行者の朝食」を大量…

ネコヤナギと印度りんごの記憶

王林 ネコヤナギ、https://shiny-garden.com/post-22995/ から借用 近所を散歩していて、ふと道端の灌木にネコヤナギの蕾を見つけた。するとほのかな幸福感に包まれた。すぐそれはネコヤナギなどではなくムクゲの芽だったことに気がついた。いつもそこにムク…

沢木耕太郎『旅の窓』を読む

沢木耕太郎『旅の窓』(幻冬舎)を読む。沢木耕太郎が旅の途中で撮った写真に短い文章を付けたもの。雑誌『VISA』に連載したものをまとめている。沢木はルポライターだから「私は写真の専門家ではない。たまに外国に行くときカメラを持ち、撮ってくるという…

橋本幸士『物理学者のすごい思考法』を読む

橋本幸士『物理学者のすごい思考法』(インターナショナル新書)を読む。月刊『小説すばる』に連載したエッセイをまとめたもの。雑誌見開き2ページの短いエッセイを本書4ページに組んでいる。 「すごい」思考法と謳っているが、「変わった」思考法くらいが妥…

酒村ゆっけ、『無職、ときどきハイボール』が面白そう

東大教授で、宇宙論・地球系外惑星の専門家須藤靖が朝日新聞の書評欄に、酒村ゆっけ、『無職、ときどきハイボール』(ダイヤモンド社)を紹介している。(4月10日付) 須藤はテレビ番組「孤独のグルメ」が好きだが、酒抜きである点がやや残念と書き、本書は…

司馬遼太郎『この国のかたち 三』を読む

司馬遼太郎『この国のかたち 三』(文春文庫)を読む。司馬のエッセイは優れていて好きだ。司馬の小説はほとんど読んでこなかったけれど、『街道をゆく』は全43巻を2回通読したくらい好きなのだ。 『この国のかたち』は雑誌『文藝春秋』の巻頭言として連載し…

高峰秀子『にんげん住所録』を読む

高峰秀子『にんげん住所録』(文藝春秋)を読む。先月某所で一時手許に読む本がなくなって、某所の自由に読める小さな本棚から借りたもの。高峰のいつもの読みやすいエッセイが並んでいる。 その中で子供のころから映画の子役として引っ張りだこの忙しさだっ…

和田誠『銀座界隈ドキドキの日々』を読む

1963年の銀座by和田誠 和田誠『銀座界隈ドキドキの日々』(文春文庫)を読む。和田はイラストレーターとして有名だが、最初はライト・パブリシティにデザイナーとして入社する。多摩美在学中に日宣美に応募して1等賞を取った。その頃の日宣美はデザイナーの…

石田千『窓辺のこと』を読む

石田千『窓辺のこと』(港の人)を読む。朝日新聞の「書評委員が選ぶ『今年(2020年)の3冊』」に須藤靖が取り上げていた。 『窓辺のこと』(石田千著、港の人・1980円) 初回の書評で取り上げたかったものの、出版後2カ月以内の原則に抵触して断念した。先…

先崎学『将棋指しの腹のうち』を読む

先崎学『将棋指しの腹のうち』(文藝春秋)を読む。以前、先崎の『小博打のススメ』を読んでから先崎の文章のファンになった。将棋のことはよく分からないが、先崎は名文家であり、またハチャメチャなキャラクターなのだ。 先崎学は12歳で麻雀を覚えたという…

相生坂、赤城坂を歩く

筑摩書房のPR誌『ちくま』に、ほしおさなえが「東京のぼる坂くだる坂」というエッセイを連載している。4月号は「相生坂、赤城坂」と題されて、神楽坂あたりを歩いてスケッチしている。 そのスケッチ=イラストがこれ。イラスト=九ポ堂とある。 右下に神楽坂…

美濃瓢吾『浅草木馬館日記』を読む

美濃瓢吾『浅草木馬館日記』(筑摩書房)を読む。美濃は毎年3月に上野の東京都美術館で開かれる「人人展」の常連画家で、「大入」と書かれた文字の前に招き猫が座っている絵を描き続けている。初めて彼の個展を見たのは上野仲通りの入口近くのビルの高い階に…

先崎学『摩訶不思議な棋士の脳』を読む

先崎学『摩訶不思議な棋士の脳』(日本将棋連盟)を読む。将棋の先崎9段の『週刊文春』の連載エッセイをまとめたもの。先崎は文章が上手くわずか3ページずつの短いエッセイながらちゃんと読ませるから大したものだ。 とは言え、短いので傑作といえるのはそん…

高橋秀実『悩む人』を読む

高橋秀実『悩む人』(文藝春秋)を読む。副題が「人生増段のフィロソフィー」とある。高橋は読売新聞の「人生相談」の回答者をつとめていたことがあった。本書はその時の相談と回答に、『文学界』に連載したエッセイ「悩む人」を組み合わせたもの。読売新聞…

東海林さだお『サンマの丸かじり』を読む

東海林さだおの「食」の長期連載エッセイの文庫版最新作で39冊目の『サンマの丸かじり』(文春文庫)を読む。単行本はさらに数冊は刊行されているはず。もとは『週刊朝日』に毎号見開き2ぺージで連載されているもの。東海林さだおのエッセイを読むのはこれが…

久住昌之『東京都三多摩原人』を読む

久住昌之『東京都三多摩原人』(朝日新聞出版)を読む。本書は朝日新聞出版のPR誌『一冊の本』に連載されていたもの。連載されていた当時時々拾い読みしていた。 著者紹介を見て初めて『孤独のグルメ』の原作者であることを知った。とはいえ、タイトルは聞い…

町山智浩「USAカニバケツ」を読む

町山智浩「USAカニバケツ」(ちくま文庫)を読む。副題が「超大国の三面記事的真実」で、要するにアメリカの新聞雑誌に載ったスターやスポーツ選手などのスキャンダルやゴシップを紹介している。アメリカのジョーク集かと勘違いして買ってしまったのだった。…

思い出す人々:衛生害虫を研究していたY先生

Y先生は厚生省の予防衛生研究所でハエの薬剤抵抗性を研究していた。ソ連時代に公費で出張したとき、通訳をしてくれたモスクワ大学日本語科の女子学生が、私のこと喜ばせてください、楽しませてくださいと言うので、それじゃあ×××をしようと言うと隠語のせい…

思い出す人々:K化学工業の課長山内さん

若い頃営業の仕事をしていた。クライアントの担当者がK化学工業の山内さんという課長だった。その会社は二つの会社が合併してできた会社で、建前は対等合併だったが、実際は吸収合併だった。山内さんは吸収された方の名古屋支店長だった。合併した会社の技術…

川崎徹の名エッセイ「猫とわたし」

講談社のPR誌「本」9月号に川崎徹の「猫とわたし」というエッセイが載っている。公園の野良猫に餌をやっている話だ。 ゆっくり自転車をこぎながら、口でチチッと音をたてた。二度たてただけで、繁みからチカ、ボブ、太郎が走り出てくる。 わたしは自転車を…

週刊朝日編「ひと、死にであう」を読んで

先に野良猫の死についての早坂暁の名エッセイを紹介した(id:mmpolo:20080227)。これが掲載されているのが週刊朝日編「ひと、死にであう」(朝日選書)で、死に関する名エッセイが並んでいるものと期待して読んだ。 「週刊朝日」に連載されたリレーエッセイ…