開高健『食の王様』(ハルキ文庫)を読む。「旅に暮らした作家・開高健が世界各地での食との出会いを綴った、珠玉のエッセイ集…」と惹句にある。さすが、みごとな食べ物にまつわるエッセイで、そこらのグルメ本とは一線を画する内容だ。
フランス革命で処刑されたルイ16世、王妃のマリーアントワネットは飢えた群衆に向って、「パンがなかったらお菓子をお食べ』と言ったと言われる。開高はこれは事実としては疑わしいという。革命の基となったアントワネットの膨大な浪費は、彼女が退屈していたことによるが、それは結婚したのにルイ16世が7年間か8年間、妻と未通だったためという。原因はルイのきつすぎる包茎だった。ようやく外科医のメスで“辺縁切除手術”を受けて“男”になり、4人の子どもを儲けたのだった。しかし国庫はすでに傾きつくしていた。
古代中国の喫人の話題もすごい。人肉食である。篠田統『中国食物史』に詳しく描かれているという。
ベルギーでの女性評は問題視されなかったのだろうか。
ブリュッセルはベルギーの首都で、はじめて訪れたのだけれど、到着後にざっと1時間ほど散歩してみて、むこうからやってくる女性が上流、中流、下流を問わず、身なりはそれぞれ違うけれど、ことごとく山出しの女中さんのような顔をしているのに驚いた。あとでここに永く住む日本人の一人にそのことをいうと、まさにそのとおりなのです、ヨーロッパ3大ブス国といって、ベルギー、オランダ、スイス、この3つには定評があるのですという返答であった。
ネズミを食べる話がある。アンデスの山中の町の料理屋でモルモットを味わった。
いま思い返してみても、モルモットは絶品である。ちょっと特異な臭いがあって、人によっては敬遠したいというかもしれないが、しかしクサヤの干物とか、ゴルゴンゾラのチーズだとか、塩辛だとか、しょっつるだとか、ジョゼフィーヌの秘所が好きな人なら、食べて、歓喜して、病みつきになってしまうだろうと思う。
開高健はサントリーに勤めていた。酒の話題に事欠かないし、それらの話も面白い。そして、「やっぱり、ジンだ。でなけりゃ、ウォッカだ」と書く。開高健は食道がんで亡くなった。私も同病だから知っている。食道がんは酒の弱い人間が強い酒を飲み続けるとなる病気なのだ。酒の弱い人間というのは、飲んですぐ顔が赤くなるヤツだという。では私は毎夜焼酎を飲み続けたことを後悔しているかというと、それはない。生まれ変わっても同じ人生を歩むつもりだ。