2007-05-01から1ヶ月間の記事一覧

住井すゑの説く断指の刑

日本の昔の合戦は槍や刀の戦いではなく、弓矢が武器の中心だったという説を読んだことがある。そのことを踏まえて次の文を読んでみる。住井すゑは小説家で「橋のない川」の作者。 少し古いが、住井すゑ「私の大和史」(「未来」1986年5月号)から。 「橋のな…

ここまで書かれて門田泰明は断筆するかもしれない

中条省平「小説家になる!ー芥川賞・直木賞だって狙える12講」(ちくま文庫)を読んだ。創作学校創作科の講義をまとめたものというだけあって、具体的で有益だ。本の副題が誇張でないと思わせられた。 この第5講が大変! 門田泰明の「黒豹ダブルダウン」(…

気の強弱と大小

知人が、自分は気が大きいけど気が弱いのだと言った。それを聞いたとき、オーバーに言えば目から鱗が落ちた思いだった。彼が言うには気には大小と強弱がある。そう言えば彼は大勢の聴衆の前で演説するのが得意だった。同時に他人と意見が対立したときは弱気…

山内薫の詩

詩人の山内薫さんは東京都墨田区の図書館に勤めている。以前は子どもたちに本の読み聞かせをしていた。そのとき詩を1編プリントした小さなカードと、その詩のテーマの植物の種や実を一緒に袋に入れて子どもたちに配っていた。どこかの出版社で絵本にしてく…

椹木野衣「日本・現代・美術」を読んで

もう10年ほど前に出た椹木野衣「日本・現代・美術」(新潮社)をやっと読んだ。出版当時高く評価されていた。特に針生一郎さんが強く推していたのが印象に残った。出版直後のシンポジウムで、著者が「この本は各時代ごとの美術状況をその時代の文体を使って…

西洋音楽は普遍的な音楽か

龍村仁監督の映画「地球交響曲第6番」を見た。インドの音楽家ラヴィ・シャンカールやアメリカのピアニスト、ケリー・ヨスト、アメリカの海洋生物学者ロジャー・ペインへのインタビューで構成されている。ロジャー・ペインは鯨の保護活動をしていて、鯨の声…

きれいな歩き方

歩き方について書いてみたい(自分のことは棚に上げている)。以前NHK教育テレビの「日曜美術館」に歌人の俵万智が出演していた。番組の企画で俵万智が美術館を訪ねることが何度かあった。美術館の玄関に向かって俵万智が歩いていくのをカメラが追いかける。…

奥野良之助「金沢城のヒキガエル」の進化論批判

今西錦司を読んで以来ダーウィンの進化論に疑問を持っていた。いまは総合説と言って突然変異と適応で説明されている。今西は競合でなく「棲み分け」を提案し、賢い蟻と愚かな蟻がいても踏みつぶされるときは一緒で、どんな個体が残っても種が存続するように…

昭和40年会の皆さん

昭和40年会というグループがある。昭和40年(1965年)生まれのアーティストたちのグループで、ときどきグループ展をやったり仲間でお馬鹿な映画(「晴れたり曇ったり」)を撮ったりしている。会田誠、大岩オスカール幸男、パルコキノシタ、土佐正道、小沢剛…

なぜ出雲のタケミナカタが諏訪に逃げ込んだのか

今井野菊によれば諏訪に伝わる古い伝説に石への信仰がある。ご神体を「みじゃくじ」と呼び、石神井(しゃくじい)もその系譜だと言う。尖った石がご神体で、諏訪地方が信仰の中心だが、遠く関東の東京都練馬区石神井まで影響があった。ところが越(こし)の…

ヒキガエルと蝉の空しい生

子供の頃のことだ。山道といってもまれにトラックなんかが通ることもある道、もちろん舗装なんかしてなくて深い轍(わだち)がえぐれている。そこに雨が降ったらしく水が貯まっていて、小さな水たまりにびっしりと紐のようなヒキガエルの卵が産み付けられて…

「を」の発音

有隣堂書店の店内に置いてある本の検索用のパソコン端末の表記が気になった。岩合光昭「ネコを捕る」を検索しようとして、書名検索欄に「ねこをとる」と入力したのだが「見当たりません」となってしまうのだ。ベストセラーだ、そんなわけはない。注意書きを…

山本弘作品解説(6)「老人」

山本弘「老人」油彩、F20号(72.7cm x 60.5cm)、遺族所蔵。 「老人」と題されている。やや斜めになった老人の顔が見える。男だろうか。だいたい顔の形はつかめるのに、どれが眼でどれが鼻かと考えると心許ない。珍しくドリッピングの手法が使われている。こ…

女性の総合職という欺瞞

各企業で女性の総合職を採用している。少し古い話かもしれないが、私が知っているのはT薬品とS化学、M化学あたりの例だ。いずれも女性の総合職を採用しているが、本気で採用しているとは思えなかった。ちゃんとした仕事を与えているとは思えないのだ。と同時…

狩野亨吉というすごい人、そして森有正、中原祐介

狩野亨吉は思想史家、夏目漱石の親しい友人だった。安藤昌益を発見したのは彼の大きな業績だ。 その狩野亨吉を紹介する板坂元のエッセイ「書斎日記」から。 旧制一高の校長、京都帝国大学初代文科大学長、安藤昌益の発見者、そして蒐書家としても超一流の人…

クモをいじめて遊んだ

あれは何ていう名前のクモだったろう。ジグモ(地蜘蛛)というのだったか。木の根本に地中から伸びた細長い袋状の巣を作り、小さな虫がその巣に触れると地中から素早く上がってきて獲物を補食するというクモ。その狩りを直接見たことはなかったが、小学生の…

一流企業と中小企業の社員の違い

以前友人のアパートが類焼したことがあった。後片づけに行ったとき、友人の会社からも若い男性が二人手伝いに来ていた。入社して何年目? と聞くとこの春入社の新人だという。落ちついていて如才ないのでまさか新入社員とは思わなかった。友人の会社はいわゆ…

吉松隆の武満徹批判

武満徹が亡くなったとき、若い世代の作曲家の吉松隆が「レコード芸術」に次の文章を書いていた。亡くなった武満を皆が絶賛していたとき、この吉松と湯浅譲二の批判が印象に残った。長いけれど全文引用したい。 吉松隆「11月のカナリアは歌を歌いたかったのか…

エチケットを云々する

私がエチケットについて云々するのは噴飯ものだとは思うが、ひと言。男のスーツなど上着のボタンの着脱について。単純なことだがボタンは座っているときは外し、立ったときにははめるのが原則だ。これが案外守られていない。むしろ知られていないのではない…

「世田谷時代1946-1954の岡本太郎」展を見る

世田谷美術館で「世田谷時代1946-1954の岡本太郎」という展覧会を見た。副題を「戦後復興期の再出発と同時代人たちとの交流」といい、岡本太郎のほかに、山口長男、吉原治良、桂ゆき、吉仲太造、村上善男、村井正誠、長谷川三郎、末松正樹、阿部展也、桂川寛…

澁澤龍彦と矢川澄子

矢川澄子「失われた庭」(青土社)は矢川と澁澤龍彦の結婚生活を描いたものだ。それを直接に描くことを避けて小説仕立てにしてあるが、小説は必ずしも成功していない。だがこの作品からユニークな作家澁澤龍彦の私生活が明らかになる。 澁澤がとてつもなくわ…

少し精神が錯乱した

昔、一時不思議な精神状態に陥った。現実感が失われ不安に囚われた。当時そのことを簡単に記録しておいた。それが次の文章だ。 正方形、その一辺を半径として描かれた正方形の中の弧、その弧が交わっている正方形の一つの角より出発し、弧の上を時計の針と反…

野見山暁治の語る抽象画

以前、NHK教育テレビで土曜日の早朝に画家にインタビューする「土曜美の朝」という番組があった。それを編集して出版したものが「NHK土曜美の朝ー美に生きる1」(日本出版協会)という本だ。そこから引用する。 ーーーー 先生はたしか抽象でも、世の中にある…

リカオンとインパラ、残酷な死

以前NHKのテレビ番組でリカオンの狩りを見たことがあった。獲物はインパラだったか、ガゼルだったか。リカオンは小型のイヌ科の肉食動物で、集団で狩りをする。何時間も獲物を追跡し追いつめる。その時もインパラだったかガゼルだったかを追いつめ、1頭のリ…

中西夏之の不思議な講演

中西夏之展が東京都現代美術館で1997年3月に開催され、その時作家による講演会も開かれた。中西夏之はハイレッドセンター(高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之)のメンバーの一人。このユニット名は3人の姓の頭の一字を英語に変えたもの。万博のとき銀座の大…

水2題

司馬遼太郎の「街道をゆく」が出典なのだけれどこのシリーズは全部で43巻もあり、具体的にどこなのか分からないのでいいかげんな記憶で書くと、司馬遼太郎がエジプトから来たお客さんを案内して大阪を車で走っていたとき、これが淀川ですと説明した。すると…

役者の生活は大変だ

創立40年近いという老舗の小劇団があり、そこの役者が公開しているネットの日記に、夜の公演前にバイトに行ったと書かれていた。その公演で彼女は結構大事な役をやっている。にも関わらず、その日の公演の前にバイトをしてるんだ! そういえば、同じ劇団のも…

種の自己完結性

33年前の霊長類学会参加者座談会での今西錦司の発言はもう古びたのだろうか? 人類の大脳化はV. レイノルズ教授(オックスフォード大学)もいうように他の動物には見られない。だが、ゾウの長い鼻もキリンの長い首も他の動物には見られない形だ。そういう点…

針生一郎の評価する画家たち

以前、針生一郎先生が戦後美術で3人の画家が優れていると講演され、その画家たちを麻生三郎、香月泰男、松本俊介だと言われたと紹介したが(id:mmpolo:20061128)、それは間違えていた。正しくは、麻生三郎、松本俊介、鶴岡政男だった。

ベンガル語とハンガリー語

もう十数年前になるが、某化学工業会社からバングラデシュに輸出する殺虫剤のパンフレットの制作を依頼された、バングラデシュはベンガル語、ノーベル文学賞詩人タゴールの国だ。渡されたのはかすれたタイプライターで印字された原稿。当時日本にはベンガル…