澁澤龍彦と矢川澄子

 矢川澄子「失われた庭」(青土社)は矢川と澁澤龍彦の結婚生活を描いたものだ。それを直接に描くことを避けて小説仕立てにしてあるが、小説は必ずしも成功していない。だがこの作品からユニークな作家澁澤龍彦の私生活が明らかになる。
 澁澤がとてつもなくわがままだったこと、自分の浮気まで矢川に報告していたこと、何度も何度も妊娠中絶を強いたことなど。しかし矢川が別の男と関係したことを知ったとき、澁澤は直ちに別れを言い矢川もそれを受け入れる。
 別の女性と再婚した澁澤がのちに癌で亡くなったあと、澁澤の年譜から矢川に関する記載が一切消されていたことを知って、矢川は縊死を選んだという。72歳だった。
 澁澤はバタイユやサドを翻訳していて尊敬していたので、このわがままな私生活には驚かされた。そう言えば埴谷雄高も奥さんに何度も中絶させていたらしい。何度も中絶させる男を尊敬することができない。おにいちゃん―回想の澁澤龍彦
 もう一冊、矢川澄子「おにいちゃんーー回想の澁澤龍彦」(筑摩書房)を読んだ。澁澤についてあちこちに書いたエッセイをまとめたもの。矢川は詩人で作家のはずだが、文章の力が弱くて読むのが辛かった。