山本弘作品解説(6)「老人」


 山本弘「老人」油彩、F20号(72.7cm x 60.5cm)、遺族所蔵。
 「老人」と題されている。やや斜めになった老人の顔が見える。男だろうか。だいたい顔の形はつかめるのに、どれが眼でどれが鼻かと考えると心許ない。珍しくドリッピングの手法が使われている。この頃ブラシの手法を使った作品もある。いろいろな手法を試みていたようだ。
 1978年10月、飯田市中央公民館で行われた個展で発表された。これが生前最後の個展となった。この時キャンバス一巻きを所望され、帰京後阿佐ヶ谷の画材店から送る。アル中は相当進んでいた。几帳面な山本だったが、最晩年(1979年以降か)には絵に制作年はおろか署名も入れなくなる。1980年始め頃から1年間入院し、退院して3か月ほどした1981年7月に亡くなっているので、1979年の制作が実質最後の頃となるのではないか。1979年と記入された作品はほとんど見たことがないが、記入のない作品が数十点あるのでそれらがこの年の作品だろう。
 残っている作品のほとんどが、晩年の1976年から1979年(46歳ー49歳)の4年間に描かれている。この頃タブローを年平均100点くらい制作していたのではないか。体調とは逆に山本弘最後の豊穣の日々だった。