種の自己完結性

 33年前の霊長類学会参加者座談会での今西錦司の発言はもう古びたのだろうか?

 人類の大脳化はV. レイノルズ教授(オックスフォード大学)もいうように他の動物には見られない。だが、ゾウの長い鼻もキリンの長い首も他の動物には見られない形だ。そういう点では人間の大きな脳も同列の現象だ。では、なぜゾウの鼻が長く、キリンの首は長く、人間の脳は大きいのかといえば、それぞれの種が、ある方向へ向かってスタートを切った以上、その種に決められた形態が完結するまでどんどん進化するということだ。これを私は種の「自己完結性」と呼んでいる。形態が完結すればそこでストップする。だから脳が大きくなるのも、ある段階が来れば止まるだろう。機能は形態よりも遅れて出てくる。脳を十分に使いこなす能力が出てくるのは、脳が大きくなってからなお何十万年もたってからだ。してみると大脳化は何か目的があって大きくなったのではなく、自己完結性のためにそこまで大きくなったのだ。その結果として人類の文明や文化ができた。
           (朝日新聞、1974年8月28日夕刊)

 この考え方は定向進化を肯定するものではないか。