2007-04-01から1ヶ月間の記事一覧

VOCA賞の大賞に寅さんが選ばれるわけ

講談社のPR誌「本」の表紙を現代美術が飾っている。月刊誌なので毎月表紙に一人の画家の絵を取り上げ、表紙裏と本文を1ページ使って丁寧に解説している。取り上げられた画家は、東島毅(右写真)、山口晃、三瀬夏之介、中村一美、福田美蘭、津上みゆき、大…

太股に結ばれたピンクのリボンは?

池袋の西武線の改札近くで人を待っているらしい若い娘が、ミニスカート、ニーソックスで片足だけ膝のすぐ上に幅広いピンクのリボンをしていた。それがとてもエロチックだったのはなぜだろう。 エロチックなのはリボンのせいだ。リボンがなぜ? それで連想す…

画家をめざす若い人たちへ

偉大な画家たちについて考えてみたい。20世紀美術に革命を起こしたマルセル・デュシャン、抽象表現主義の雄バーネット・ニューマン、ミニマリズムのフランク・ステラ、日付絵画の河原温、戦後日本の抽象の第一人者山口長男、彼らに共通するのは、絵のうまさ…

印刷の好みが異なる日本と欧米

欧米の雑誌と日本の雑誌で大きく違ったところがある。印刷におけるカラー製版の好みだ。欧米の雑誌を見ると陰が濃い。明暗がはっきりしている。日本の雑誌ではあまり陰がない。陰を作らないで色をきれいに見せることを心がけているようだ。欧米では色を犠牲…

金井美恵子の毒舌

金井美恵子「目白雑録(ひびのあれこれ)」(朝日文庫)を読む。本来匿名で書くような辛辣な評が金井美恵子の実名で綴られている。書かれた当事者は髪かきむしるくらいたまらないだろうが、批評が当たっていて読者としては限りなく楽しい。続編も出版されて…

六本木のギャラリーMoMoで坂田祐加里展を見る

グレアム・グリーンの小説「情事の終り」(または「愛の終り」原題The End of the Affair)の冒頭に次のような記述がある。 話というものには、もともと始めもなければ終りもない。話し手は、経験のうちの或る瞬間を任意に択んで、そこから後ろを振り返るか…

山本弘の作品解説(5)「流木」

山本弘「流木」油彩、F20号(72.7cm x 60.6cm) これは何という作品か。すごい赤だ。いつもながら単純なフォルムが強い。サインも作品の一部になっている。「流木」と題されているが、何が流木なのだろう。中央の白い形がそれなのか。赤い色面は泥を含んだ洪…

野見山暁治が語る駒井哲郎

まず「四百字のデッサン」(河出文庫)から。 ノミヤマは同級だよな。酔っぱらうと駒井は大きな声で親愛の情をしめす。私たちは五十歳を過ぎた。おい、ノミヤマ、飲めよ、そうしているうちに駒井はもっと酔っぱらう。ノミヤマはオレの一級下だ、こいつは落第…

精神の惨劇を抱えた銅版画家ー駒井哲郎

中村稔「束の間の幻影」(新潮社)は副題を「銅版画家駒井哲郎の生涯」といい優れた駒井哲郎の伝記だ。よく調べて書かれていて、駒井の生涯もその業績も内部の精神もよく分かる。 私ははじめ駒井哲郎に何の興味もなかったが、勉強のためと思って本書を読んだ…

山鳩の天気予報

以前、小学校の担任だった宮嶋光男先生に山鳩の天気予報を教わった話を書いた。(id:mmpolo:20060925)その時は具体的な内容を忘れていたのだが、なくしていたメモが見つかった。 山鳩の鳴き声は「デデーボボ、デデーボボ」と聞こえる。その鳴き終わり方で明…

はみだしYOUとPIA

久しぶりに雑誌「Weeklyぴあ」の「はみだしYOUとPIA」に掲載された。 富山県が四国の相似形として作られたという事実はあまり知られていない。

仲居さんへの手慣れたチップのあげ方

ある時赤坂の料亭で座談会をやることになり、準備のため早めに店へ行っていた。玄関を入ったところで連れを待っていると、昼食を済ませたらしい男女一組の客が帰るところだった。女はちょっと水っぽい感じだ。男が勘定を済ませているとき、女が男に近づき「…

山本弘の作品解説(4)「川」

山本弘「川」油彩、F10号(53cm x 45.5cm) 「川」と題されている。渓谷の急流だろうか。緑に囲まれた渓谷をジグザグに走る川。その川の輪郭をオレンジが縁取っていて、水までが緑に染まっている。力強いフォルムと、暗いが美しい色彩。山本は自賛するとおり…

浅野貞夫がなぜ「植物生態図鑑」の刊行を中断したか?

昭和44年に築地書館から「日本植物生態図鑑1ー合弁花類1」という本が、翌昭和45年に「日本植物生態図鑑2ー合弁花類2」が発行されたが、全5巻という予告がなぜか2巻だけで中断された。著者は沼田真と浅野貞夫。沼田は植物生態学の権威、後に日本植物生態学…

野見山暁治の母の最後

野見山暁治「いつも今日ー私の履歴書」(日本経済新聞社)の「母の終焉」は言葉を失う。 ちょっと福岡に戻ってきてほしいと母から電話があった。(中略)福岡は霙(みぞれ)まじりの雪がちらついていた。二月のことだ。母はぼくを見るなりタクシーを拾って、…

ジャコメッティと矢内原伊作

大阪大学助教授だった哲学者の矢内原伊作は2年間のフランス留学中に彫刻家のジャコメッティに紹介される。1956年、留学を終え日本に帰国する直前にジャコメッティを訪ねると、ジャコメッティは矢内原を描くことを希望する。矢内原は10月6日から12月16日ま…

山本弘の作品解説(3)「銀杏」

山本弘「銀杏」油彩、F20号(72.7cm x 60.6cm) イチョウの木を描いている。根元から枝が分かれるところまでだけを描くなんて普通じゃない。単純なフォルムが力強く、暗い青がきれいだ。明るい青の線で幹の輪郭や枝をかたどっている。夜の公園だろうか。左下…

中央線沿線のラリリスト

「チベベの唄」の作者、恵口烝明から一度だけ手紙をもらったことがある。1970年のことだ。 9月4日付のあなたからのお便りを8日に受けとりました。 昨年、わたしが貨物船に乗っていたとき(航海中)に出版された”衛星都市の彼方で”は発行部数がきわめて少…

詩人吉田加南子とそれから連想することども

友人の版画家今村由男君の個展で詩人の吉田加南子を紹介された。学習院大学仏文科の教授。お父さんも詩人で「ガダルカナル戦詩集」の著者である吉田嘉七。この詩集のタイトルはややこしくて、井上光晴にも同名の小説がある。井上の小説は吉田嘉七の詩集をも…

名物編集者ヤスケン(安原顕)の毀誉褒貶

宮田毬栄「追憶の作家たち」(文春新書)には中央公論社で編集者をし、「海」の編集長も務めた宮田毬栄が親しく付き合った7人の作家たちのエピソードが紹介されている。松本清張、埴谷雄高、石川淳、大岡昇平、島尾敏雄、西条八十、日野啓三と錚々たるメン…

大人の会話

これが大人の言葉だと思ったことが何度かある。その一つ。私が二十歳前後の頃、わが師山本弘を訪ねて富山市からその友人福井A男さんという画家がやってきた。飯田市で福井さんの個展があったのだ。福井さんは自由美術の会員、豪放な方でスポーツカーを乗り回…

山本弘展が紹介された

横浜逍遙亭の中山さん(id:taknakayama)が山本弘展を紹介してくれた。二度も! 見に来ていただいただけでも嬉しいのに、ブログで紹介されるとは。遺児の湘ちゃんにお知らせすると彼女も大変喜んでくれた。 東京日本橋のギャラリー汲美での個展。 http://d.h…

黙示体、花輪あや、懐かしい

もう30年ほど前になる。黙示体というアングラ劇団があって、花輪あやさんが脚本家兼主演女優だった。きれいな人だった。いつも阿佐ヶ谷の小さなスペース「アルス・ノーヴァ」で公演をしていた。公演後客席に一升瓶を持ってきて観客たちと始発まで飲み明かす…

驚くべき旧東ドイツの美術

宮下誠「20世紀絵画ーモダニズム美術史を問い直す」(光文社新書)が興味深い。 「第一章 抽象絵画の成立と展開」では18人の抽象画家が取り上げられる。マネ、モネ、ゴッホ、ゴーガン、セザンヌ、ピカソ、ブラック、マティス、カンディンスキー、クレー、マ…

エロスの濃度

行きつけの画廊へ行った時、先客がいて画廊主と話していた。一緒に座って客の彼女の話を聞いた。今日、娘に子供が生まれたという。孫は女の子だと実に嬉しそうに話した。 画廊を出て地下鉄に乗ると、偶然にも先に画廊から帰っていった彼女と隣り合わせた。そ…

ブータン仏教から見えるもの

今枝由郎「ブータン仏教から見た日本仏教」(NHKブックス)は、フランス留学を経てブータンで10年間仏教に関する研究生活を送った仏教学者が、日本の仏教を批判している書だ。日本の僧侶は妻帯しているが、これでは在家信者と変わらない。回忌法要を行ったり…

山本弘作品解説(2)「塀」

山本弘の油彩画「塀」、F12号(60.6cm x 50cm) 白が美しい絵だ。生前山本は、俺は白が巧いのだと言っていたがそれがよく分かる。パレットナイフを使って塀が描かれている。板塀のようだ。下の方に子どもが描いた落書きみたいなのが見える。この落書きみたい…

帰国して消息がつかめなくなった人々

曹良奎という画家がいた。港の倉庫などをモチーフに優れた絵を描いていた。1928年生まれの在日朝鮮人で、日本での差別に苦しみ北朝鮮へ渡っていった。彼の地でプロパガンダの絵を描かされているとか、最初は細々と消息が伝わってきたが、やがて一切連絡がつ…

三島由紀夫の演出術

堂本正樹「回想 回転扉の三島由紀夫」(文春新書)がおもしろかった。著者は劇作家・演出家で16歳のときに8歳年上の三島由紀夫と出会い、三島が亡くなるまで付き合った。 三島がは小説でも成功していたが、芝居も書いていて評判がよかった。「近代能楽集」…

シロバナタンポポの根が太い話

田中修「雑草のはなし」(中公新書)を読んだ。3月に発行されたばかりの新刊書。さて、 シロバナタンポポは、日本在来のタンポポであるが、同じ在来種のカンサイタンポポやカントウタンポポよりたくましく育つ。この植物の根を掘り出そうとしたことがある。…