2014-08-01から1ヶ月間の記事一覧

井上ひさし『少年口伝隊一九四五』の勧め

井上ひさし作『少年口伝隊一九四五』が新国立劇場で上演される。(9月23日と24日)。演出が栗山民也、出演は新国立劇場演劇研修所の第8期生の研修生たち。もともとこの研修生のために井上が書いた朗読劇なのだ。それで毎年研修生によって上演されている。…

『浜田浄 作品集II』が発行された

美術家の『浜田浄 作品集II』(ギャラリー枝香庵出版企画部)が発行された。浜田は1937年高知県生まれ。1961年に多摩美術大学油科を卒業している。1964年、東京杉並区のおぎくぼ画廊で初個展、以来数多くの個展を開いている。 2002年、『浜田浄 作品集 1973-…

ロジャー・パルバース『驚くべき日本語』がおもしろかった

ロジャー・パルバース/早川敦子・訳『驚くべき日本語』(集英社インターナショナル)が面白かった。パルバースはアメリカ生まれ、ロシア語とポーランド語を学び、23歳で来日し日本語を学んだ。いまでは4カ国語を話すという。とくに日本語では小説も書いて…

青柳いづみこ『ピアニストたちの祝祭』を読む

青柳いづみこ『ピアニストたちの祝祭』(集英社インターナショナル)を読む。自身もピアニストであり、文筆家でもある青柳のピアニスト論は読んでいつも楽しく、しかも教えられることが多い。本書は主に雑誌『すばる』に書いたエッセイをまとめたもので、音…

スパイ小説『ケンブリッジ・シックス』を読む

チャールズ・カミング『ケンブリッジ・シックス』(ハヤカワ文庫)を読む。20世紀後半、イギリスの秘密情報部MI6やMI5にソ連のスパイが入り込んでいた。キム・フィルビー、アンソニー・ブラント、ガイ・バージェス、ドナルド・マクリーン、ジョン・ケアンク…

ミケランジェロ「ガニメーデの誘拐」の驚き

ミケランジェロに「ガニメーデの誘拐」という素描がある。ギリシア・ローマ神話から得たテーマで、神々の父ゼウス(ジュピター)が、羊飼いの少年ガニメーデの美貌に心を奪われ、鷲に変身して誘拐したエピソードを描いたものだ。以下、木下長宏『ミケランジ…

ポルトリブレ「夏の市」開催中

東京新宿のギャラリーポルトリブレで「夏の市」が開かれている(9月1日まで)。これって何だろうと思って行ったら、ギャラリーのオーナーで画家でもある平井勝正さんのコレクション即売会だった。平井さんは作家だが、それ以前にコレクターでもある。相当…

木下長宏『ミケランジェロ』を読む

木下長宏『ミケランジェロ』(中公新書)を読む。ミケランジェロといえば、ルネッサンスの彫刻家として何となくわかっているような気がしていた。考えてみたら、羽仁五郎の岩波新書『ミケルアンヂェロ』を読んだのはもう40年以上前だし、ミケランジェロを描…

加藤周一『日本美術の心とかたち』を読む

『加藤周一セレクション3 日本美術の心とかたち』(平凡社ライブラリー)を読む。加藤の主著『日本文学史序説』が日本の文学と思想の体系化であり通史だったのに対して、同じことを日本美術について行ったみごとな仕事だ。加藤はあとがきで、本当はこの本文…

番留京子展「−熊野讃歌−」を見る

東京銀座のギャラリー・オカベで番留京子展「−熊野讃歌−」が開かれている(8月30日まで)。番留は富山県生まれ。1985年、創形美術学校を卒業している。1986年、ギャラリー青山で初個展。以来多くのギャラリーで個展を開いてきたが、最近はギャラリー・オカ…

日本とフランスの植民地統治の違い

日本とフランスの植民地統治の違いについて、四方田犬彦が『モロッコ流謫』(ちくま文庫)に書いている。 わたしは旧日本帝国が20世紀の前半に植民支配していたアジアの地域を旅行するたびに、そこで日本的なるものが一度ならず強い嫌悪と克服の対象とされて…

コバヤシ画廊の太田三郎展「戦争遺児POST WAR 69」を見て

東京銀座のコバヤシ画廊で太田三郎展「戦争遺児 POST WAR 69」が開かれている(8月23日まで)。太田は1950年山形県生まれ。1971年に鶴岡工業高等専門学校機械工学科を卒業している。1980年よりコバヤシ画廊をはじめ個展を多数開いている。 今回は「戦争遺児…

神奈川県立近代美術館の田淵安一展を見る

神奈川県立近代美術館鎌倉館で田淵安一展が開かれている(9月15日まで)。田淵は1921年生まれ。1943年、学徒動員で海兵団へ入隊。1945年終戦後、東京大学文学部美術史学科に入学、1948年卒業とともに同大学院に在籍する。1947年から新制作派協会展に出品す…

ゴイサギの釣り

机の引き出しから古い写真が出てきた。裏面の書き込みから18年前の1996年6月と7月に上野の不忍池で撮影したことが分かる。1枚目の写真ではゴイサギの若鳥が池の中の柵みたいな所に止まっていて、数m離れた池の縁で大勢の観客がそれを見ている。この不忍池…

四方田犬彦『モロッコ流謫』を読む

四方田犬彦『モロッコ流謫』(ちくま文庫)を読む。ざっくり言えば北西アフリカのイスラム国モロッコ紀行だが、モロッコに住んでいた作家ポール・ボウルズを巡る文学的エッセイとも言いうるもの。アメリカ出身のボウルズはベルトリッチ監督の映画『シェルタ…

『海街diary6 四月になれば彼女は』を読む

吉田秋生『海街diary6 四月になれば彼女は』(小学館フラワーコミックス)が発売された。5巻が出たのが去年の冬だったから待ちこがれていた。 「あらすじ」から、 父の死後、鎌倉に住む母親違いの3人の姐に引き取られた〈すず〉。4人が家族になっての生活…

東京国立近代美術館の常設展を見る

東京国立近代美術館の常設展『MOMATコレクション』を見る。山下菊二の「あけぼの村物語」が展示されていた。プレートの解説文が興味深かった。誰が書いているのだろう。 この作品は、山梨県で実際に起きた事件が主題です。3つの消失点に対応しつつ、場面は…

『舟を編む』を見て読む

三浦しをん『舟を編む』(光文社)を読む。3年前のベストセラーだ。これを原作にした映画をテレビで放映したのを録画しておいて見た。監督が石井裕也、日本アカデミー賞を受賞している。映画がとても良かったので、原作はどうだったのか知りたくて読んでみ…

インゴウルフソン『フラテイの暗号』を読む

アイスランドの作家インゴウルフソンの『フラテイの暗号』(創元推理文庫)を読む。アイスランドはアイスランド語が使われていて、本書もその言葉で書かれている。それがドイツ語に翻訳され、訳者の北川和江はドイツ語から訳している。 アイスランドには『フ…

山本弘に関する56年前の新聞記事

長野県飯田市の地方紙『南信州』に山本弘に関する新聞記事が載っていた。もう56年前になる1958年8月22日付けのコラム「人あれこれ」という欄で、見出しが「放浪の異色画家 作男しながら彩管振う」となっている。その全文を紹介する。 ひろしが個展を開く、…

山本弘の作品解説(44)「暗い海」

山本弘「暗い海」油彩、F12号(60.6cm×50.0cm) 1968年4月制作。この作品については記憶がある。描き上げた直後、山本さんが話してくれた。テレビのニュースで漁場を取り上げられた漁民のことが報じられていた。もうなぜ取り上げられたのかは忘れてしまった…

エイズの感染力についての誤解

永井するみ『枯れ蔵』(新潮社)は間違いの多いミステリだった。ほとんどでたらめと言ってもいいほどだった。その中のエイズに関する記述が感染力が強いという誤解を与えるものだった。 冒頭エイズ患者の黒人にレイプされるシーンがなぜかあるが、これを死刑…

『男子の貞操』を読んで

坂爪真吾『男子の貞操』(ちくま新書)を読む。副題が「僕らの性は、僕らが語る」というもの。題名から想像される内容とは全く異なり、きわめてまじめで重要なことを言っている。著者紹介を見ると1981年生まれでとても若い。内容から経験豊富な中年男性…

コバヤシ画廊の松本泉写真展「甲冑」がおもしろい

東京銀座のコバヤシ画廊で松本泉写真展「甲冑」が開かれている(8月9日まで)。これはクワガタムシなど甲虫をデジタルカメラ(キャノンEOS)で撮影したもの。ただ単純に接写したのではなく、ピントの位置を変えて何枚も撮り、それを合成している。この手法…

ヒマワリのグンバイムシ

近所のヒマワリの葉が白っぽくかすれている。虫が食害しているのではないかと葉を裏返してみた。小さな虫が群生している。拡大してみると、グンバイムシだった。羽が相撲の行司が使う軍配の形をしている。グンバイムシといえば、ツツジやサツキに寄生するツ…

東京都写真美術館で『岡村昭彦の写真』を見る

東京都写真美術館で『岡村昭彦の写真』展が開かれている(9月23日まで)。その展覧会のちらしより、 岡村昭彦(1929-85)は、1964年6月12日号の『ライフ』に9ページにわたり掲載されたベトナム戦争の写真によってフォトジャーナリストとしてデビューを果た…

eitoeikoの江川純太展を見る

東京神楽坂のギャラリーeitoeikoで江川純太展が開かれている(8月20日まで)。江川は1978年神奈川県生まれ。2003年に多摩美術大学絵画学科日本画専攻を卒業している。2008年シェル美術賞入選、2010年と2011年にトーキョーワンダーウォールに入選、2013年VOC…

椹木野衣『なんにもないところから芸術がはじまる』を読む

椹木野衣『なんにもないところから芸術がはじまる』(新潮社)を読む。雑誌『新潮』に2005年から2006年に連載したものを単行本にしたもの。刊行は2007年だが今まで知らなかった。飴屋法水が24日間、六本木のギャラリーP-House内に作られた180cm角の暗箱にこ…

丸谷才一『完本 日本語のために』を読む

丸谷才一『完本 日本語のために』(新潮文庫)を読む。以前『日本語のために』と『桜もさよならも日本語』として出版されていた2冊を、一部編集して合本したもの。 主に小中学校の国語教科書批判と国語改革批判、それに大学入試の国語問題批判からなってい…

『絵を描く俘虜』を読む

宮崎静夫『絵を描く俘虜』(石風社)を読む。宮崎は1927年熊本県生まれ。昭和17年15歳で満蒙開拓青少年義勇軍に志願して満州へ渡る。昭和20年17歳のとき関東軍へ現役志願するが、間もなく終戦、10月にソ連軍の捕虜としてシベリアへ抑留され、4年間の苛酷な…