インゴウルフソン『フラテイの暗号』を読む

 アイスランドの作家インゴウルフソンの『フラテイの暗号』(創元推理文庫)を読む。アイスランドアイスランド語が使われていて、本書もその言葉で書かれている。それがドイツ語に翻訳され、訳者の北川和江はドイツ語から訳している。
 アイスランドには『フラテイの書』なる羊皮紙写本が残されていて、古い伝説の物語が書かれている。現在世界文化遺産に登録されているという。アイスランドの北西のプレイザフィヨルズル湾に小さな島フラテイ島があり、本書はそこが舞台となっている。
 フラテイ島は人口60人あまり、東西2km、南北500mしかない。ここで起こった殺人事件らしきものがゆったりと語られる。事件の語りと同時に、『フラテイの書』にまつわる40の謎が、ひとつずつゆっくりと語られる。事件の概要と島の生活、『フラテイの書』に伝えられている伝説、これらを通じて小さな島フラテイ島およびアイスランドの文化が伝わってくる。
 事件は『フラテイの書』の謎と不可分で、終盤までなかなか解決の目処がつかない。そして見事な大団円を迎える。とは言うものの、『フラテイの書』の40個の謎に付き合わされるのは少々しんどかった。
 アイスランドの面積は北海道の1.2倍、人口はたったの32万人だという。著者のインゴウルフソンは公務員をしながら作家活動をしている。日本の人口の1/400しかなかったら、執筆だけで食べていくのは不可能だろう。仮に1,000部売れたら、比率では日本で40万部売れたことになる。実際にはドイツ語などへの翻訳による販売が大きいようだ。
 島の主な産業がアザラシ猟とケワタガモの羽毛の採取などという特異な文化を知ることができたし、なかなか楽しめた。読んで損することはないだろう。

フラテイの暗号 (創元推理文庫)

フラテイの暗号 (創元推理文庫)