濵田恂子『入門 近代日本思想史』(ちくま学芸文庫)を読む。「本書は国内外の状況が目まぐるしく変わっていく時代、19世紀後半から20世紀末にいたる歴史に足跡を残した哲学者・思想家たちの主要著作と思索のエッセンスを紹介。(……)日本の哲学思想史を概観するのに格好の入門書」(裏表紙の紹介文)。
素晴らしい仕事だ。ほぼ50人の哲学者・思想家を取り上げ、その主要著作を紹介しながら思想を簡明に要約し記載している。もっとも詳しく記載しているのは西田幾多郎、その難解な哲学を要領よくまとめている。次いで和辻哲郎、波多野精一、中村元らにページを割いている。現代では湯浅泰雄を詳しく紹介している。
他には、岡倉天心、田辺元、三木清、九鬼周造、河上肇、三宅剛一、務台理作、三枝博音、南原繁、廣松渉、中村雄二郎、森岡正博などが取り上げられている。
あの特に難解な廣松渉の思想を噛み砕いて語っているのには恐れ入った。
巻末に「近・現代日本哲学思想主要著作刊行年表」が付されているが、そこには600冊を超える文献が挙げられている。私はこのうちやっと25冊を読んだだけだった。それにしても、濵田は本書を最初ドイツ語で出版し、それを日本語化したという。何という教養だろう。本来このような仕事をしていれば旧帝大の哲学科教授であっても不思議はないだろうが、履歴を見ると関東学院大学名誉教授となっている。1932年生まれの濵田にとって戦後早々のアカデミズムはジェンダーの縛りが大きく、本来得られるはずの地位が与えられなかったのではないか。
日本の哲学思想史を概観するのに極めて優れた入門書だろう。