2015-10-01から1ヶ月間の記事一覧

辻惟雄『若冲』を読む

辻惟雄『若冲』(講談社学術文庫)を読む。カラー図版が豊富に使われているので、やや厚い用紙を用いているため350ページだが25mmの厚さを持っている。本書・学術文庫版のあとがきによると、原本は1974年に美術出版社から発売された。若冲の《動植綵絵》全幅…

伯父の70年祭と義母の短歌

カミさんの伯父宏さんは昭和19年海軍技術将校としてボルネオ・タラカン島に赴任し石油掘削の仕事に従事していた。しかし終戦後同島で捕虜生活を送るなか、昭和20年10月14日に病気のため亡くなった。27歳だった。遺骨は帰ってこなかった。 もう十数年前カミさ…

群馬県立近代美術館で新井コー児展「新井コー児20年目の独り文化祭」を見る

高崎市にある群馬県立近代美術館で新井コー児展「新井コー児20年目の独り文化祭」が開かれている(12月20日まで)。新井は1973年群馬県高崎市生まれ。1996年多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業している。2000年に高崎シティギャラリーで初個展、2004…

ギャラリー川船の浜田浄展「重ねる・削る 2009−2014」を見る

東京京橋のギャラリー川船で浜田浄展「重ねる・削る 2009−2014」が開かれている(10月31日まで)。浜田は1937年高知県生まれ。1961年に多摩美術大学油科を卒業している。1964年、東京杉並区のおぎくぼ画廊で初個展、以来数多くの個展を開いている。 作品の多…

河合隼雄『影の現象学』を読む

河合隼雄『影の現象学』(講談社学術文庫)を読む。題名がフッサールの現象学を連想させるし、講談社学術文庫から出版されているから難解な本だと思われるかもしれない。しかし本書は難しいものではなく、無意識を研究して人の心を理解しようという心理学の…

ロルカの『血の婚礼』に感動した

新国立劇場でフェデリコ・ガルシーア・ロルカ作の芝居『血の婚礼』を見た。これは同劇場演劇研修所公演第9期生試演会で、役者はすべて新人たちだが演出は田中麻衣子が担当している。 ロルカはスペインの詩人、しかしスペイン内戦のため1936年に38歳で銃殺さ…

コスモスを詠う

清楚な若い娘が意外にもしたたかな一面を持っていることを知って1句。 コ ス モ ス の 根 方 の 茎 の 太 さ か な 夏草

70年前の今日、山田風太郎の日記から

山田風太郎は『甲賀忍法帖』『伊賀忍法帖』などで名高い大衆作家だ。70年前、昭和20年に書いていた日記が『戦中派不戦日記』(角川文庫)として公刊されている。当時山田は東京医専の学生だった。戦争が終り、学校と共に疎開していた長野県飯田市より東京に…

新野剛志『明日の色』を読む

新野剛志『明日の色』(講談社)を読む。朝日新聞の連載コラム「東京物語散歩」にとりあげられていた(2015年10月14日)。コラムの筆者は堀越正光、小説に書かれた舞台を歩いて、作品を紹介しながら作品と実際の土地との異同を指摘するコラムだ。今回が353回…

小熊英二『生きて帰ってきた男』を読む

小熊英二『生きて帰ってきた男』(岩波新書)を読む。副題が「ある日本兵の戦争と戦後」。戦後シベリアに抑留されたある日本兵、実は著者の父小熊謙二の歴史を息子英二が聞き書きでつづったもの。これがとても良かった。原武史が朝日新聞に書評を書いている…

森岡純写真展が始まった

東京銀座のギャラリー現で森岡純写真展が開かれている(10月24日まで)。森岡は1949年島根県隠岐島生まれ。いままで長くギャラリー檜で個展を続けてきた。 森岡はいつも日常的な風景を撮っている。人物が登場することはあまりない。街の一角や道路、看板や建…

室生犀星『蜜のあわれ/われはうたえどもやぶれかぶれ』を読んで

室生犀星『蜜のあわれ/われはうたえどもやぶれかぶれ』(講談社文芸文庫)を読む。ちょっと変わった小説集。標題の2篇の中篇と、短篇「陶古の女人」「火の魚」に、詩「老いたるえびのうた」の全部で5篇が収められている。 「蜜のあわれ」は本書のほぼ半分を…

穂村弘『ぼくの短歌ノート』が楽しい

穂村弘『ぼくの短歌ノート』(講談社)を読む。これがとても楽しかった。歌人の穂村が雑誌『群像』に2010年4月号から連載している「現代短歌ノート」を改題してまとめたもの。毎回テーマを決めてそれに沿った短歌を取り上げ、穂村が解説を加えている。その選…

奥村浩之彫刻展「大地の詩」がおもしろい

東京お茶の水のギャラリーf分の1で奥村浩之彫刻展「大地の詩」が開かれている(10月24日まで)。奥村は1963年石川県生まれ、1986年に金沢美術工芸大学彫刻科を卒業し、1988年に同大学大学院修士課程を修了している。その翌年メキシコに渡り、以来メキシコ在…

秦俊也展-CALENDRIER-が興味深い

東京日本橋小伝馬町のJINENギャラリーで秦俊也展-CALENDRIER-が開かれている(10月18日まで)。秦は1954年生まれ。若い頃は新制作展や埼玉近代美術館野外展などに参加し、1991年から94年にかけて銀座のなびす画廊で個展を行っていた。1996年からはモンゴル語…

ツタ紅葉

盆栽のツタが紅葉した。大きな葉が鮮やかな赤に変わっている。毎年紅葉するが、暖かい気候が続いて急に寒くなると赤い色が一際鮮やかになる。だらだらと寒くなった年の地味な赤色とははっきり異なる。 葉が大きいのは理由がある。この盆栽は実生から育ててま…

佐谷眞木人『日清戦争』を読む

佐谷眞木人『日清戦争』(講談社現代新書)を読む。副題が『「国民」の誕生』。佐谷は「はじめに」で、この戦争が「二つの意味において、近代の日本が経験した他の戦争とは大きく異なる戦争だった」と書く。そのひとつは、「日清戦争が「国民」を生んだとい…

山田風太郎『戦中派不戦日記』を読む

山田風太郎『戦中派不戦日記』(角川文庫)を読む。山田風太郎がまだ医学生だった昭和20年、22歳から23歳の1年間の日記全文。山田は新宿にあった東京医専、のちの東京医科大学の学生だった。太平洋戦争は大日本帝国の末期にあたり、日記の前年昭和19年から米…

ギャラリーαMの鈴木孝幸展が興味深い

東京千代田区東神田のギャラリーαMで鈴木孝幸展が開かれている(10月17日まで)。鈴木は1982年愛知県生まれ、2007年筑波大学大学院芸術研究科修士課程を修了している。2010年から愛知県で個展を開き、また各地のアートフェアにも参加しているが、東京のホワ…

原武史『「昭和天皇実録」を読む』を読んで

原武史『「昭和天皇実録」を読む』(岩波新書)を読む。原は政治学者で、『大正天皇』(朝日文庫)、『昭和天皇』(岩波新書)、そして最近では『皇后考』(講談社)の著書がある。昨年「昭和天皇実録」が公開された。その内容を原が分析している。 「昭和天…

『丸山眞男と田中角栄』で印象に残った言葉

以前、佐高信と早野透の対談『丸山眞男と田中角栄』(集英社新書)を紹介したが、なかで特に印象に残った言葉があった。 佐高信 中曽根が国鉄民営化をやる。小泉が郵政民営化をやる。しかしそれは民営ではなく、会社にしたということに過ぎません。そう私は…

『戦争小説短篇名作選』を読んで

講談社文芸文庫 編『戦争小説短篇名作選』(講談社文芸文庫)を読む。先の大戦を舞台にした日本人作家の戦争小説を12篇、作家の名前の50音順に並べている。遠藤周作が1923年生まれで最も年上で、次いで吉行淳之介、田中小実昌と続く。20年代生まれはほかに吉…

ギャラリーなつかの小松葉月展(たまびやき)を見る

東京京橋のギャラリーなつかで小松葉月展(たまびやき)がひらかれている(10月10日まで)。従来のたまびやきは先週開かれたが、それは学部生によるもので、今年は大学院生を取り上げて個展とした。小松は1991年神奈川県生まれ。2015年に多摩美術大学美術学…

吉本隆明講演集を読む

『吉本隆明〈未収録〉講演集〈10〉 詩はどこまできたか』(筑摩書房)を読む。題名に未収録とあるように、1957年から2009年までの過去単行本に収録されることのなかった詩に関する12篇の講演を集めている。録音テープが途中切れてしまったらしく一部中断して…

河合隼雄『河合隼雄自伝』を読む

河合隼雄『河合隼雄自伝』(新潮文庫)を読む。ユング派心理学者、箱庭療法の第一人者河合隼雄の自伝。自伝ではあるが、河合が執筆したのではなく、河合が勝手気ままに半生について話したものを編集者がまとめている。「ぼくのいちばん最初の記憶についてお…

山本弘のドローイング2題

東京銀座の銀座K'sギャラリーanで山本弘展が開かれている(10月3日まで)。ここに2点のドローイングが並べられている。若い娘のポートレートと道化だ。娘のそれはきれいな線で描かれている。ほれぼれするようなポートレートに仕上がっている。対して道化は…

Chim↑Pom結成10周年

今年がChim↑Pom結成10周年だと、朝日新聞が取り上げていた(2015年9月30日夕刊)。 ユーモアを含む手法で社会の根底を問う作品は美術ファン以外からも関心を集め、タブーに触れる表現は時に議論も呼ぶ。若手美術家集団「Chim↑Pom(チムポム)」は今年、結成…