新野剛志『明日の色』を読む

 新野剛志『明日の色』(講談社)を読む。朝日新聞の連載コラム「東京物語散歩」にとりあげられていた(2015年10月14日)。コラムの筆者は堀越正光、小説に書かれた舞台を歩いて、作品を紹介しながら作品と実際の土地との異同を指摘するコラムだ。今回が353回目になるから、かなり長寿の連載だ。ただ都内版にしか載っていないだろうけど。
 本書の舞台は、新聞の見出しで「墨田区・立花」、簡単な地図が掲載されている。東武亀戸線東あずま駅と小村井駅、それと旧中川に囲まれた狭い地域で物語が展開する。そのコラムから、

(主人公・松橋)吾郎はホームレスを宿泊させる施設の雇われ施設長をしている男です。施設の場所は墨田区立花。東あずま駅から丸八通りを渡った先、「立花いきいき商店街」という架空の商店街の近くに設定されています。施設の運営は良心的とは言いがたく、吾郎の仕事に対する姿勢も適当です。

 施設の住人の尾花魁多が壁に落書きした絵を見たバーの経営者が、自分の店の壁に同じような絵を描いてくれないかと吾郎に依頼する。20万円と吹っ掛けた吾郎にそれでいいと言われ、吾郎は魁多の才能を知る。魁多の絵で儲けようと吾郎はギャラリーの設立を計画する。
 墨田区立花というよく知った土地、そして現代美術のビジネスの世界が舞台ということで読みはじめた。本作品は学芸通信社の配信により、「下野新聞」「岩手日報」「いわき民報」「北國新聞」など12紙に掲載されたものとある。いわゆる新聞小説だ。それも地方紙なので、あまり難解な描写や複雑な構成は歓迎されないだろう。しかも展開は面白くなければならない。その条件は満たしていると思われる。物語は時系列に沿って進められる。ギャラリーの経営や新人作家の売り込みなど疑問を感じる点もあったが、一体によく書けていると思う。結構ドラマチックな展開で十分楽しめた。
 ただ常套的な表現など、文章がちょっと雑な感じは否めなかった。作家紹介を見ると、1965年東京都生まれとあり、1999年には『八月のマルクス』で江戸川乱歩賞を受賞し、2008年に『あぽやん』で直木賞候補となっている。東京都生まれとあるが、墨田区立花出身なのだろうか? それならアルフィー坂崎幸之助の後輩にあたるのではないかと、ネットで検索すると世田谷区育ちとあった。ホームレスを体験したたことは実話らしい。


明日の色

明日の色