2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『大江健三郎自選短篇』を読む

『大江健三郎自選短篇』(岩波文庫)を読む。最初の短編「奇妙な仕事」から1992年の「マルゴ公妃のかくしつきスカート」まで、作家自身が選んだ23篇が収録されている。総ページ数840ページという大著。価格が本体1,380円と安くはないが、ページ単価で考える…

祖父江慎の語るブックデザイン

ブックデザイナーの祖父江慎がインタビューに答えてブックデザインを語っている(朝日新聞、2014年9月27日)。それが知らないことばかりで興味深い。 本のデザインで一番楽しいのはどんな作業かという質問に答えて、文字組みだという。 文字の大きさ、どの…

こまつ座公演『きらめく星座』を見る

新宿紀伊國屋サザンシアターで井上ひさし・作『きらめく星座』(こまつ座公演)を見る。井上ひさしがほぼ30年前に書いた芝居。ちたしから、 時は太平洋戦争前夜昭和15年から16年の東京、浅草のレコード屋オデオン堂の家族と、広告文案家の下宿人は皆、音楽好…

東京国立近代美術館で菱田春草展を見る

東京国立近代美術館で菱田春草展が開かれている(11月3日まで)。菱田春草といえば、横山大観と並んで近代日本画のビッグネームだ。平日に行ったが、さすがに大勢の観客が入っている。NKHの日曜美術館で紹介されれば、うじゃうじゃだろう。日本画は分かりや…

井上ひさし・作『少年口伝隊一九四五』が素晴らしかった!

井上ひさし・作『少年口伝隊一九四五』がとても良かった。演出が栗山民也、新国立劇場演劇研修所公演の朗読劇だ。私は9月24日のソワレを見た。朗読劇なので、舞台の上に横1列で11人の役者が並んでいる。音楽は後方にギターの宮下祥子が座っていて、一人で演…

ギャラリーなつかで「たまびやき」が開かれている

東京京橋のギャラリーなつかで「たまびやき」が開かれている(9月27日まで)。「たまびやき」は、毎年ギャラリーなつかで開かれる多摩美術大学工芸学科の陶の選抜展だ。いつもは4年生から選抜されるが、今年は一人3年生からも選ばれている。 今年の印象は…

資生堂ギャラリーの須田悦弘の椿はどこか

東京銀座の資生堂ギャラリーで「せいのもとで」が開かれている。出品作家は、宮島達男、クリスティアーネ・レーア、須田悦弘、志村ふくみ、珠寶などだ。 このうち、須田悦弘の椿の作品が4点出品されていると展示作品リストにあるが、その展示位置が書かれて…

広瀬正のタイムマシン小説『マイナス・ゼロ』を読む

SF

誰かが広瀬正のSF小説『マイナス・ゼロ』をタイムマシンを描いたものとして絶賛していたので読んでみた。文庫本で500ページを超えている大作だ。裏表紙の惹句に「早世の天才が遺したタイムトラベル小説の金字塔」とある。結構面白く読むことができた。よくで…

ギャラリー砂翁とトモスの及川伸一展がとても良い

東京日本橋三越前のギャラリー砂翁とギャラリートモスで及川伸一展「-comfort-」が開かれている(9月26日まで)。及川は1949年東京生まれ。1980年から1992年まで独立美術に出品していたが、1992年からは個展を主な発表の場所としている。これまでギャラリー…

中野重治と佐多稲子の愛について

佐多稲子『夏の栞』は、中野重治の臨終に至るまでの佐多稲子の思いを綴っている。佐多はカフェの女給をしていたとき、中野に小説を書くよう勧められ、「キャラメル工場から」を書いて作家としてデビューした。佐多は中野の仲間の窪川鶴次郎と結婚し、佐多と…

宇野千代の驚くべき食の嗜好

宇野千代は食事に凝るという話を『宇野千代全集』の月報で竹岡美砂が紹介している。(『個人全集月報集 円地文子文庫・円地文子全集・佐多稲子全集・宇野千代全集』(講談社文芸文庫)より) たまたま美味しい到来物があると、即座に製造元を調べ、北海道で…

嵐山光三郎『文人御馳走帖』を読む

嵐山光三郎『文人御馳走帖』(新潮文庫)を読む。嵐山は新潮文庫ですでに、『文人悪食』『文人暴食』『文人悪妻』『文士の料理店』などを出している。この悪食と暴食は面白かった。悪妻はまあまあ、料理店は読んでいない。だいたいにおいて嵐山のエッセイは…

水上勉と藤本ひとみが三宜亭について書いていた

『個人全集月報集 円地文子文庫・円地文子全集・佐多稲子全集・宇野千代全集』(講談社文芸文庫)は、全集に付録としてついてくる月報をまとめたもの。佐多稲子全集の月報に水上勉が「佐多稲子さんのこと」と題して、直木賞を受賞したころ中央公論社の主催で…

宇野千代の推敲

『個人全集月報集 円地文子文庫・円地文子全集・佐多稲子全集・宇野千代全集』(講談社文芸文庫)は、全集に付録としてついてくる月報をまとめたもの。このうち、宇野千代全集に、しばしば宇野が文章を何度もていねいに推敲するという話題が出てくる。 まず…

円地文子・佐多稲子・宇野千代全集の月報集を読む

『個人全集月報集 円地文子文庫・円地文子全集・佐多稲子全集・宇野千代全集』(講談社文芸文庫)を読む。全集に付録としてついてくる月報をまとめたもの。このような月報集は全集を全巻揃えないと読めないので、とても良い企画だと思う。同じシリーズがすで…

『ベスト珍書』というヘンな本を読む

ハマザキ カク『ベスト珍書』(中公新書ラクレ)を読む。副題が「このヘンな本がすごい!」というもの。ヤバい、すごい、怪書、エログロ、発禁本など100冊を厳選したとカバーの袖にある。中央公論社がそんなトンデモ本を発行したのかと半信半疑で読んでみた…

『中国絵画入門』はお勧め

宇佐美文理『中国絵画入門』(岩波新書)がとても有益な読書だった。中国の水墨画はどこかで何かしら見知っているような気がして、でもきちんと見た事がなかったし、その勉強も全くしていないので、改めて考えてみるとカオスというのが印象だった。それが本…

Canon一眼レフEOS 70Dのポスター

電車の広告でCanon一眼レフEOS 70Dのポスターを見かけた。男がカメラを構えている。ズームレンズらしいのが斜めを向いていて、レンズの先がちょっとアウトフォーカス(ピントが外れている)になっているのが気になった。どうしてこんな構図にしたのだろう。…

『「仮想通貨」の衝撃』がまあまあ面白かった

エドワード・カストロノヴァ『「仮想通貨」の衝撃』(角川EPUB選書)がまあまあ面白かった。仮想通貨といえば、しばらく前にネットを通じて莫大な資産が盗み取られたビットコインの事件を思い出す。ビットコインの位置づけを知りたくて本書を読み始めた。 本…

タンポポのアザミウマ

ベランダの鉢植えのシロバナタンポポの葉に白い斑点がある。葉を裏返してみると、黒っぽい点々があり、葉裏全体が銀色に変色している。これはアザミウマという昆虫の典型的な被害で、シルバリングという症状だ。 ルーペを持ち出して調べてみると、半透明の小…

石橋蓮司映画祭を見て

池袋の映画館新文芸坐で先月石橋蓮司映画祭が開かれた。石橋が出演した映画20本を毎日日替わりで2本ずつ連続上映するという企画だった。私はそのうち、『わらびのこう』と『生きてみたいもう一度』を見た。どちらも恩地日出夫監督作品だ。 『わらびのこう』…

ヨウシュヤマゴボウの実り

近所のヨウシュヤマゴボウがたくさんの実をつけている。この株は毎年同じ所に大きな草型を示している。図鑑によれば北アメリカ原産の帰化植物で、地下に太い根をもっているという。有毒植物で、食べることはできない。モリアザミの根がヤマゴボウの名前で漬…

宇佐美承『池袋モンパルナス』がおもしろかった

宇佐美承『池袋モンパルナス』(集英社文庫)がおもしろかった。池袋モンパルナスというのは、昭和の初めから敗戦まで、東京池袋周辺にあった芸術村の別称で、当時多くの貧しい絵描きたちが集まって住んでいた。命名者は詩人の小熊秀雄ということだ。 主な画…

浜田浄個展を見て

東京銀座のギャラリー枝香庵と東京京橋のギャラリー川船で浜田浄個展が開かれている(9月10日or13日まで)。浜田は1937年高知県生まれ。1961年に多摩美術大学絵画科を卒業している。先月末、このブログで『浜田浄作品集II』を紹介し、そこにもう少し詳しい浜…

佐野洋子『そうはいかない』を読む

佐野洋子『そうはいかない』(小学館文庫)を読む。「解説」で江國香織が書いている。 母と息子、母親と私、見栄っぱりの女友だち、離婚した美女、イタリアの女たらし、ニューヨークの日本人夫婦、舅姑を看取った逞しい中年女たち。自らの周りにいる愛すべき…

『大古事記展』と桃の実

奈良県立美術館で奈良県主催の「大古事記展」が開かれる(10月18日〜12月14日)。『古事記』を題材とした絵画や古社に伝わる宝物、それに考古・文献資料などが展示されるという。東京で開かれたそのシンポジウムに参加した。 展示予定品のパネル写真があって…

名越健郎『独裁者プーチン』を読んで

名越健郎『独裁者プーチン』(文春新書)を読む。ロシア大統領プーチンを論じている。袖の惹句を引く。 大統領に復帰し、さらなる絶対的権力者となったプーチン。貧しい労働者階級からKGB中佐を経て頂点の座に上り詰めた軌跡を追うとともに、バラマキ政治を…

地盤が沈下した建売住宅

埼玉県のある地方に瀟洒な二階建ての建売住宅が建っている。土地代がさほど高くない地域なので、建売とはいえ、ゆったりと建っている。よく見たいと思って近づいたら、大きな問題を抱えていることに気がついた。 玄関前のスラブが地面から浮き上がっていた。…