祖父江慎の語るブックデザイン

 ブックデザイナーの祖父江慎がインタビューに答えてブックデザインを語っている(朝日新聞、2014年9月27日)。それが知らないことばかりで興味深い。
 本のデザインで一番楽しいのはどんな作業かという質問に答えて、文字組みだという。

 文字の大きさ、どのフォントを使うか、行間や上下左右の余白で印象は変わります。集中して読むミステリーは、外の風を感じられないように読者を文字に縛りつける感じ。お茶を飲みながら読めるエッセイなら風通しよく、優しくフレンドリーに。論文は固く文字を組むと信頼度が上がります。

 そして、フレンドリーにする技は? という質問に対して、

 版面(はんづら)を丸くすること。改行後の「」(かぎ括弧)は、文頭が隣の地の文より少し下がりますよね。大きめに下げると、文頭の地平線がでこぼこして、やわらかくなります。行間をあければ、シフォンケーキのように空気が入ってふわっとします。ノンブル(ページを示す数字)を角に合わせるより、内側に入れる方が丸い感じになる。空気や風、明るさ、本の中で過ごす時間が変わる。

 本のデザインのキモは表紙だと思っていたというインタビューアーに対して、

(中略)さらに、持ち歩いて読むのか、机の上で読むのかでも違います。
 通勤電車で片手で読むなら、本を綴じる側の「のど」の余白は広めに、その代わり、本を開く側の「小口」の余白は狭くていい。
 同じように片手で持つ場合でも、昔の人は親指に力を入れて小口をしっかりつかみ、本を大きく開いていたので、小口の余白は広い方が良かった。最近の人は大きく開かずに、親指を軽く小口に添えて読むので、その余白は狭くていいけれど、のどの余白は広さが必要になります。

 インタビューはまだ続く。私も昔編集の仕事をしていたのに、知らないことばかりだった。でも出版社でブックデザイナーに仕事を依頼しても、せいぜい表紙のデザインまでで、ここまで依頼する例は少ないのではないだろうか。
 私が割りに重視していたのは、文字の大きさと1行の字詰め、そして行間の広さだった。1行の字詰めが多ければ(1行が長ければ)行間は開かないと読み辛い。新聞のように少なければ行間は詰められる。辞書の文章も3段組み、4段組みと1行が短いので、行間を詰めていても違和感なく読めるのだ。
 ところが、今読んでいる中沢新一バルセロナ、秘数3』(講談社学術文庫)の巻末の注の行間は狭すぎる。ふつう注はせいぜい数行なのに、この本の注は長く、1ページを越える場合さえある。小さな文字で詰まった行間の文章が何行も続くのは読みにくいものだ。