イケムラレイコ+塩田千春『手の中に抱く宇宙』を読む。発行がカルチュア・コンビニエンス・クラブと美術出版社デザインセンター、発売が美術出版社となっている。
イケムラと塩田がドイツの二人の自宅やアトリエで、2021年の1月から2月に5回に渡って対話したもの。面白かった対談の一部を紹介する。
塩田は、自分が作品を作れる環境、作品を作るところが故郷だと思っていると言う。
塩田千春 最終的にそうなんですけど、でもそれもなんか寂しい人生だなぁと。そう思わざるを得ないところがあるのかな。でも、いつまでたっても答えが出ないし、いつまでたってもなんだか満たされない自分というのが本当にあるし。もっと語り合う友達みたいなのが欲しいなぁと思いながらも、でもアーティストと一緒になればなるほど、お互いの殺し合いになるというか……昔アーティストの彼氏もいたけれど、全然関係がうまくいかなくて。本当にどちらかが死なないと上手くいかないという感じになって。
イケムラレイコ 私もそれは経験しているの(笑)。
塩田 本当にアーティストだと殺し合いになって。
イケムラ 怖いよね。
塩田 アート・バーゼルとか行くと、割とバーゼルに参加しているギャラリーと付き合いたいっていうのがありますね。私も展覧会をたくさんやっているし、そういうギャラリーと付き合いたいって思ったんです。それで、バーゼルに行くと、それを見て吐きそうになるんですね。
イケムラ やっぱりね。
塩田 お金だけでしかなくて。
インターネットでは絵の良さが伝わらないと二人とも言う。
塩田 でも、キャンバスのかすれとか、深みとかオンラインだと全然見えないし、なんか……。私ルーブルで初めてモナ・リザを見た時に、その凄みが見えて、なんでこれがみんな分かるんだろうって思ったんですよ。
イケムラ 写真では分からないよね。
塩田 そうなんです。実物ってすごくいいですよね。ルノワールとかモネを見た時もすごく思って。
イケムラ 特にモネはテクニックの問題じゃないから、近づいてその抽象のニュアンスを見るっていうのは目の肥えている人じゃないと無理で。
塩田 何かがあるんですよ、絵の奥に。
イケムラ それが、インターネット上では伝わらない。
しかし全体を読み終わってとてもつまらなかった。無駄なおしゃべりが多すぎる。編集者がもっと無駄を刈り込むべきなのに。わざわざ活字に組んで出版する意義がないところが大半を占めている。
製本も良いとは言えない。横組み1行の文字数がフォントの大きさに比して長すぎる。むしろ2段組にすべきではなかったか。活字の刷色も薄くて読みづらい。この刷色ならフォントを太くすべきだろう。注のフォントも小さすぎる。3300円という定価にしては製本が安っぽい。並製本というのがいただけない。総じて不満が残る製本だ。