2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

小川格『日本の近代建築ベスト50』を読む

小川格『日本の近代建築ベスト50』(新潮新書)を読む。これがとても良かった。小川は法政大学建築学科を卒業後、『新建築』の編集を経て、設計事務所に勤務、相模書房で建築書の出版に携わった後、建築専門の編集事務所を設立して2010年まで代表を務めたと…

米原万里『旅行者の朝食』を読む

米原万里『旅行者の朝食』(文春文庫)を読む。米原の描いた食べものに関するエッセイをまとめたもの。米原のエッセイや小説には外れがない。どれも傑作だ。 この平凡なタイトルについて、ロシアの小咄が紹介される。 「日本の商社が「旅行者の朝食」を大量…

美術愛住館の野見山暁治展を見る

東京四谷三丁目の美術愛住館で野見山暁治展が開かれている(3月27日まで)。愛住館のフルネームは「堺屋太一記念 東京藝術大学 美術愛住館」というもの。経済評論家の堺屋太一と妻の洋画家池口史子の住居兼仕事場だったところを美術館に改修し、東京藝術大…

鮎川信夫・大岡信・北川透 編『戦後代表詩選』を読む

鮎川信夫・大岡信・北川透 編『戦後代表詩選』(思潮社 詩の森文庫)を読む。副題が「鮎川信夫から飯島耕一」で、『現代詩の展望』(1986年11月刊)の「戦後史100選」を2冊に分けて編集したものの前編に当る。42人の戦後詩人の56篇が掲載されている。 ほぼ1…

土屋尚嗣『クオリアはどこからくるのか?』を読む

土屋尚嗣『クオリアはどこからくるのか?』(岩波科学ライブラリー)を読む。副題が「統合情報理論のその先へ」。土屋は脳から意識が生まれる仕組みを研究している。私の見ている「青」はあなたの見ている「青」と同じか、違うか? 土屋は色の感覚意識のこと…

ネコヤナギと印度りんごの記憶

王林 ネコヤナギ、https://shiny-garden.com/post-22995/ から借用 近所を散歩していて、ふと道端の灌木にネコヤナギの蕾を見つけた。するとほのかな幸福感に包まれた。すぐそれはネコヤナギなどではなくムクゲの芽だったことに気がついた。いつもそこにムク…

山本弘の作品解説(108)「自画像」

山本弘「自画像」、デッサン 1971年制作、山本弘41歳。まだ2度目の脳血栓は起きていない。その分、手足の自由はそこまで損なわれていなかったのだろう。描写は正確でまさにこの通りの姿だった。珍しく鏡を見て描いているのではないか。人と対峙しているとき…

ガルリSOLの佛淵静子展を見る

東京銀座のガルリSOLで佛淵静子展が開かれている。佛淵は1974年東京都生まれ、1998年多摩美術大学美術学部絵画科日本画専攻を卒業、2000年同大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻を修了している。2002年にガレリアラセンで初個展、以来柴田悦子画廊などで個…

吉本隆明『際限のない詩魂』を読む

吉本隆明『際限のない詩魂』(思潮社 詩の森文庫)を読む。副題が「わが出会いの詩人たち」で、斎藤茂吉から中島みゆきまで22人の詩人たちが紹介されている。萩原朔太郎のように本格的な詩人論から、永瀬清子や中村稔、諏訪優、岸上大作のように、帯や内容見…

オルターネイティブスペースThe Whiteの小川浩子展「夜が私に語ること」を見る

東京神田の猿楽町のオルターネイティブスペースThe Whiteで小川浩子展「夜が私に語ること」が開かれている(1月29日まで)。小川は埼玉県生まれ。1996年に日本大学芸術学部彫刻専攻を卒業している。2000年に東京銀座の青樺画廊で初個展、2005年からはギャラ…

ギャラリー椿のオークションが始まった

今日から京橋のギャラリー椿で恒例のオークションが始まる。 オークションは1月21日(金)、22日(土)、23日(日)、24日(月)の4日間。誰でも自由に入札できる。今年は480点以上の出品点数だ。ギャラリー椿は銀座・京橋地区でも特に大きなギャラリーだ…

鮎川信夫 他『現代詩との出合い』を読む

鮎川信夫 他『現代詩との出合い』(思潮社 詩の森文庫)を読む。副題が「わが名詩選」とあり、7人の詩人が選んだアンソロジーになっている。鮎川の他には、田村隆一、黒田三郎、中桐雅夫、菅原克己、吉野弘、山本太郎が選んでいる。 鮎川は萩原朔太郎、西脇…

片山杜秀『尊皇攘夷』を読む

片山杜秀『尊皇攘夷』(新潮選書)を読む。副題が「水戸学の四百年」、480頁近い大著だ。ページ数が多いのは、明治維新を用意した尊王攘夷について、水戸光圀から始めて丁寧に描いていることと、雑誌『新潮45』および『新潮』に連載したためで、『新潮45』の…

山本弘の作品解説(107)「ぼーし」

山本弘「ぼーし」、油彩、F3号(27.3×22.0cmか?) 1977年制作、山本弘47歳。帽子をかぶっている若い娘を描いている小品。クリーム色の絵具で顔の輪郭を描き、同じ色で鼻を描いている。左腕にもその色を置いている。娘はつばの広い帽子をかぶり、その帽子の…

OギャラリーUP・sの佐藤阿朱香展を見る

東京銀座のOギャラリーUP・sで佐藤阿朱香展が開かれている(1月23日まで)。佐藤は2001年に中央大学法学部を卒業し、2005年に中国南開大学東方芸術系を卒業している。中国では中国画を学んだ。2018年からザボハウスで銅版画を制作している。今回が初個展と…

中村宏インタビュー『応答せよ!絵画者』を読む

砂川五番 中村宏インタビュー『応答せよ!絵画者』(白順社)を読む。2010年から2019年まで、外国人研究者らの6回のインタビューに中村宏が答えたものを編集している。インタビューは英語でなされ、それを嶋田美子がインタビューアー兼通訳としてまとめてい…

『新編 齋藤怘詩集』を読む

『新編 齋藤怘詩集』(土曜美術社出版販売)を読む。齋藤は1924年(大正13年)朝鮮半島のソウル生まれ、終戦の年までほぼ朝鮮半島で成長する。敗戦後、熊本の天草に引揚げる。のちに日本現代詩人会理事長、現代詩人賞選考委員、H氏賞選考委員長を務める。 齋…

ガルリSOLの寺田和幸展を見る

東京銀座のガルリSOLで寺田和幸展が開かれている(1月22日まで)。寺田は1946年福岡県出身、1979年東京藝術大学卒業、1980年同大学大学院を修了した。スルガ台画廊やぎゃらりーセンターポイントで個展を繰り返していたが、1998年からガルリSOLでもう6回目の…

ギャルリー東京ユマニテの村井進吾展「ハスバタケ」を見る

東京京橋のギャルリー東京ユマニテで村井進吾展「ハスバタケ」が開かれている(1月29日まで)。村井は1952年大分県生まれ、1978年に多摩美術大学大学院美術研究科を修了している。主な個展として、ギャラリー山口、愛宕山画廊、そして東京ユマニテでは2002…

映画『ドライブ・マイ・カー』の運転技術についての専門家の評価

映画『ドライブ・マイ・カー』は、臨時に雇った運転手の運転技術が優れているので、主人公の映画監督が彼女に心を許していくという設定だった。それで、彼女(運転手)の運転技術が本当に優れているのか、私の知人の自動車会社の技術者(新車開発エンジニア…

天下大将軍 地下女将軍

西武池袋線高麗駅前に赤い2本の柱が立っていて、大きく「天下大将軍 地下女将軍」と書かれている。これは何だろう。この地が朝鮮半島ゆかりの地であることは知っている。有名な高麗神社があるし、近くには九万八千社という不思議な名前の神社もある。九万も…

丸谷才一『夜中の乾杯』を読む

丸谷才一『夜中の乾杯』(文春文庫)を読む。丸谷が文藝春秋の雑誌『Emma』に昭和60年の創刊号から61年に連載したもの。やはり最初は丸谷と言えどおぼつかなかった。途中から丸谷節が戻り面白くなる。 「ヒゲを論ず」から、 淡谷のり子といふ大姉御は、若い…

大岡信ほか『忘れえぬ詩』を読む

大岡信ほか『忘れえぬ詩』(思潮社 詩の森文庫)を読む。8人の詩人たちが選んだ「忘れえぬ詩」のアンソロジー。大岡信のほかに、那珂太郎、飯島耕一、岩田宏、堀川正美、三木卓が書いている。 大岡は万葉集以前の古事記などから応神天皇の歌、万葉集や古今集…

佐藤文隆の『「科学にすがるな!」』を読んで

8年ほど前に書いた《佐藤文隆の『「科学にすがるな!」』を読んで》をたまたま読み直したら、我ながらとても興味深い内容だと思ったので、ここに再録する。 ・ 艸場よしみが佐藤文隆にインタビューした『「科学にすがるな!」』(岩波書店)を読む。副題が「…

山本弘の作品解説(106)「行列」

山本弘「行列」、油彩、F50号(116.7×91.0cmか?) 制作年不詳。1968年に山本と飯田市中央公民館から上郷村(当時)の山本の自宅まで二人がかりで手に持って運んだ記憶がある。だからその直前あたりの制作だろう。山本30代の作品。中期の代表作といえる。 「…

山本弘の作品解説(105)「人柱像」

山本弘「人柱像」、油彩、(83.0×63.1cm) 昭和27年(1952年)制作。山本弘22歳。ごく若いころの作品だ。当時の作品はあまり残っていないから貴重だ。裏面に紙が貼られていて、次のように書かれている。 行くやかたもなく 帰る床も知らず 只酔ひ痴れて ぬば…

吾嬬神社へ初詣

初詣は墨田区の吾嬬神社へ行った。小さな神社で参拝客はきわめて少ない。御祭神は弟橘姫(オトタチバナヒメ)、日本武命(ヤマトタケル)の奥さんで、江戸湾を横断するとき荒れた海を鎮めるために身を犠牲にして海に飛び込んで日本武命を無事対岸へ送り届け…

平林敏彦『言葉たちに』を読む

平林敏彦『言葉たちに』(港の人)を読む。副題が「戦後詩私史」、平林が自身の詩歴や古い仲間たちとの交友を書いている。さらに近作の詩を10篇近く収録している。 平林の詩に対して武満徹が私信で「人類が言葉を喪おうとしているとき、このように彫琢された…

大賀典雄『SONYの旋律』を読む

大賀典雄『SONYの旋律』(日本経済新聞社)を読む。副題が「私の履歴書」、日経新聞の連載に大幅に手を入れて書き直したもの。これがとても面白かった。 なぜテノール歌手の大賀がソニーの経営者になったのか長年の疑問だったが、本書を読んでその謎がよく分…

謹賀新年

謹賀新年 Tyger! Tyger! burning bright In the forests of the night, What immortal hand or eye Could frame thy fearful symmetry? 虎よ! 夜の森かげで 赫々と燃えている虎よ! 死を知らざる者のいかなる手が、眼が、 お前の畏るべき均整を作りえたので…