小川格『日本の近代建築ベスト50』を読む

 小川格『日本の近代建築ベスト50』(新潮新書)を読む。これがとても良かった。小川は法政大学建築学科を卒業後、『新建築』の編集を経て、設計事務所に勤務、相模書房で建築書の出版に携わった後、建築専門の編集事務所を設立して2010年まで代表を務めたとある。本書が初めての著書とあるが、なるほど、手慣れた書きぶりだと納得した。

 全体が3章に分けられている。それぞれ、「近代建築の初心――戦前と1950年代の建築」、「近代建築の開花と成熟――1960年代の建築」、「近代建築を超えて――1970年代以降の建築」となっている。

 自由学園明日館(設計=ライト+遠藤新)、池袋駅のちかくにある小さな建物、羽仁もと子自由学園のために作られた。自由学園は現在久留米市に移転したが、ここは各種の文化活動に使用されている。私も何度か画家の個展を見に行ったことがある。

 小菅刑務所(設計=神原重雄)、100年前に建てられた刑務所。分離派に2年遅れた蒲原は、曲線を特色としていた分離派と異なり、直線だけで作っている。「こんな造形を残した建築家は古今東西、他にまったく見当たらない」。「この建築の設計に着手したのは、関東大震災の直後、卒業したばかりのまったく未経験の24歳の若者だったのである」。

 碌山美術館(設計=今井兼次)、荻原守衛(碌山)を記念する安曇野市の美術館。碌山の作品を残そうと地元の先生たちが立ち上がり、長野県内のすべての小中学校の生徒たちの寄付金をはじめ、多くの人の協力によって建設が始まったという。義父も協力したと言っていた。小さいが趣のある建物だ。

 目黒区総合庁舎(設計=村野藤吾)、旧千代田生命保険本社。これについて小川が書く。

 

 戦後の近代建築全盛期に前川國男丹下健三らが日本を代表するモダニズムの建築家として華々しく活躍する裏で、必ず、村野藤吾が問題作を発表し、話題を提供してきた。それが、日本の近代建築を豊かに彩ってきたのは間違いない。

 建築評論家の長谷川堯が全盛期の丹下健三を神殿建築と痛烈に批判するとともに、村野藤吾のヒューマンな姿勢を高く評価し、その建築を紹介し続けたのは、まだ記憶に新しい。

 

 松濤美術館(設計=白井晟一)、渋谷区立美術館。白井晟一モダニズムとはまったく異なる価値観で建築を設計してきた、と小川は書く。建物の中心に地下から最上部まで楕円形の中庭を設けた。外に向かった窓はなく、美術館の従業員が息苦しい建物だと言っていたのを、私も雑誌で読んだことがあった。正面は韓国で見つけた赤い花崗岩が全面に貼られていて美しい。正面玄関はなんとも小さい。

 新書という小さな本だが、ガイドブックとしてこれを持参して見に行ってみたい。新書の性格から写真がモノクロで小さいのが残念だ。