映画

蓮實重彦『ゴダール革命』を読む

蓮實重彦『ゴダール革命』(ちくま学芸文庫)を読む。蓮實がゴダールについて書いた論文を集めている。『勝手にしやがれ』から遺作『イメージの本』まで、ゴダールの作品を網羅した評論集だ。 蓮實重彦の批評は表層批評というらしい。作品の内容にはほとんど…

青山真治監督の映画『EUREKA ユリイカ』を見た

東京国際映画祭で青山真治監督の映画『EUREKA ユリイカ』を見た。『ユリイカ』は22年前2000年に上映された映画だが、今年青山監督が食道がんで亡くなったため、この映画祭で「監督特集〈追悼 青山真治〉」の1本として上映された。 青山真治の『ユリイカ』に…

筒井清忠編『昭和史講義【戦後文化篇】(下)』を読む

筒井清忠編『昭和史講義【戦後文化篇】(下)』(ちくま新書)を読む。本書戦後文化篇下巻は、映画などを主体に音楽やマンガやテレビなどを扱っている。いままで映画は監督を中心に見ていくという視点が多かったが、本書は映画会社から映画史を見ていくとい…

瀬古浩爾『定年後に見たい映画130本』を読む

瀬古浩爾『定年後に見たい映画130本』(平凡社新書)を読む。その「まえがき」から、 いま、わたしが見る映画は、単純におもしろそうだなと感じるものばかりである。本書で選んだ映画ももっぱら「おもしろさ一番」である。もう見栄を張ることも、強迫観念に…

横尾忠則『創造&老年』を読む

横尾忠則『創造&老年』(SBクリエイティブ)を読む。80歳前後の横尾忠則が、80歳以上の作家、画家、建築家、写真家、映画監督、作曲家らと老年と創造について対談した記録。具体的には、瀬戸内寂聴、磯崎新、野見山暁治、細江英公、金子兜太、李禹煥、佐藤…

『映画芸術』2022年春号「恩地日出夫、追悼」を読む

『映画芸術』(NO.479)2022年春号「恩地日出夫、追悼」を読む。恩地監督は2022年1月20日に亡くなった。享年89歳、あと2日で90歳だった。多くの映画人が追悼の言葉を寄せている。 黒沢年男は、自分は若いけど人を見る目はあった方だと言って、恩地さんに対…

『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督に対する蓮實重彦の評価

蓮實重彦が『ちくま』2022年5月号の連載エッセイ「些事こだわり」にアカデミー賞と濱口竜介について書いている。 ……アカデミックな姿勢とはいっさい無援の、その呼称にはまったくふさわしからぬ年に一度のハリウッドの映画的かつ空疎きわまりない祭典には、…

モニカ・ヴィッティ主演の映画『スエーデンの城』の音楽の思い出

時事通信が2月3日にモニカ・ヴィッティの訃報を伝えていた。 【AFP=時事】イタリアの女優モニカ・ヴィッティさんが死去した。90歳。文化相が2日、発表した。ヴィッティさんは、ミケランジェロ・アントニオーニ監督作品への出演で知られる。 ローマ生…

映画『ドライブ・マイ・カー』の運転技術についての専門家の評価

映画『ドライブ・マイ・カー』は、臨時に雇った運転手の運転技術が優れているので、主人公の映画監督が彼女に心を許していくという設定だった。それで、彼女(運転手)の運転技術が本当に優れているのか、私の知人の自動車会社の技術者(新車開発エンジニア…

ボリス・ランコシュ監督作品『ソラリスの著者』を見る

ボリス・ランコシュ監督作品の映画『ソラリスの著者』を東京都写真美術館で見る。『ソラリス』の著者とはポーランドのSF作家スタニスワフ・レムのこと。これはレムを巡るドキュメンタリ・フォルムだ。今年がスタニスワフ・レム生誕100周年記念になる。 映画…

黒澤和子『パパ、黒澤明』を読む

黒澤和子『パパ、黒澤明』(文春文庫)を読む。先に読んだ同じ著者の『回想 黒澤明』(中公新書)はイマイチだったが、本書は面白かった。『回想~』がパパについて書いた3冊目だったのに対して本書は監督が亡くなって1年後に書いたもので、書きたいことがい…

黒澤和子『回想 黒澤明』を読む

黒澤和子『回想 黒澤明』(中公新書)を読む。娘が父親の思い出を書いている。黒澤監督の晩年作『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』の3作で衣装担当としてスタッフに加わった。 雑誌『中央公論』の2003年の1年間にわたって連載した。その際、「反抗する」…

濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』を見る

濱口竜介監督の映画『ドライブ・マイ・カー』を観る。映画を封切の初日に見たのは初めてのことだった。TOHOシネマズ錦糸町オリナスの8つある一番客席の少ないNo.8スクリーンで、観客は半分も入っていなかったと思う。 原作が村上春樹の短篇集『女のいない男…

蓮實重彦の押す美形女優

蓮實重彦『見るレッスン』(光文社新書)を読んだ。蓮實は現在純粋な美形女優が不在だと嘆く。「とにかくこの女性が美しくて記憶に残った」という映画がないことが気がかりです、と。他方、韓国映画には本当に美しい女優がたくさん出てきます。かつては美男…

蓮實重彦『見るレッスン』を読む

蓮實重彦『見るレッスン』(光文社新書)を読む。副題が「映画史特別講義」とあり、蓮實が編集者相手に話して本書が成立している。だから分かりやすい文章になっている。 蓮實はいま日本映画が第三の黄金期に差し掛かったという。そして日本の監督の個々名を…

秋吉久美子・樋口尚文『秋吉久美子 調書』を読む

秋吉久美子・樋口尚文『秋吉久美子 調書』(筑摩書房)を読む。映画評論家で映画監督でもあり、秋吉の大ファンでもある樋口が、秋吉久美子に長時間インタビューしたもの。秋吉久美子といえば藤田敏八の映画『赤ちょうちん』『妹』『バージンブルース』に出演…

野上照代『もう一度 天気待ち』を読む

野上照代『もう一度 天気待ち』(草思社)を読む。副題が「監督・黒澤明とともに」、野上は『羅生門』以来、黒澤明監督の映画のスクリプター、編集者を多数担当した。 本書は最初に『天気待ち』として文藝春秋から出版され、のちに「三船敏郎と黒澤明」、「…

原田眞人・聞き手の『黒澤明語る』を読む

原田眞人・聞き手の『黒澤明語る』(ベネッセ)を読む。1991年1月と6月の2回、原田が黒澤にインタビューしている。原田も映画監督で、『突入せよ!あさま山荘事件』などを監督している。 さて読み始めると原田が映画監督のせいか細かいエピソードへのこだわ…

黒澤明『蝦蟇の油』を読む

黒澤明『蝦蟇の油』(岩波同時代ライブラリー)を読む。副題が「自伝のようなもの」とあり、1978年に『週刊読売』に連載したもの。黒澤68歳のときの自伝となる。 黒澤は1歳のときの記憶を持っていた。洗面器のお湯につかっていた時、洗面器をゆすっていてひ…

橋本忍『複眼の映像』を読む

橋本忍『複眼の映像』(文藝春秋)を読む。副題が「私と黒澤明」、名脚本家橋本忍が黒澤との映画作りを語っている。これがとても面白い。 橋本は伊丹万作に師事し、伊丹が亡くなったあと、黒澤を紹介される。芥川龍之介の「薮の中」を脚本化して黒澤に見せる…

淀川長治『淀川長治映画ベスト10+α』を読む

淀川長治『淀川長治映画ベスト10+α』(河出文庫)を読む。1948年度から1997年度までの主に外国映画のベスト10が並べられ、一部日本映画のベスト10が並んでいる。解説は数行の簡単なもの。 そして「私のベスト5」と題した章は、1975年から1984年までの外国映…

篠田正浩監督『乾いた花』を見る

京橋の国立映画アーカイブで篠田正浩監督『乾いた花』を見る。主演が池辺良、相手役が加賀まりこ、原作が石原慎太郎。見終わって原作を50年ぶりに読む。 映画は面白かった。さすがは篠田正浩監督だ。インテリヤクザの話、映画も原作もインテリヤクザとは言っ…

山田洋次『映画をつくる』を読む

山田洋次『映画をつくる』(国民文庫)を読む。第1刷が1978年だから42年前の出版。この時山田洋次47歳、『男はつらいよ』も17作まで撮ったところだ。もう松竹のドル箱監督になっていた。松竹では大島渚と同期、ほかに篠田正浩、吉田喜重などがいた。 最初に…

吉田喜重監督作品『炎と女』を見る

シネマヴェーラ渋谷で吉田喜重監督作品『炎と女』を見る。1967年現代映画社制作、岡田茉莉子主演。監督の吉田喜重は東大仏文科出身、卒業論文はサルトルでサルトリアンだった。ここまでは大江健三郎と同じ経歴だったが、大江が四国の森の中の土俗的な村を作…

『第三の男』を見て読む

キャロル・リード監督の映画『第三の男』を見て、グレアム・グリーンの原作を読む。映画は2回目、小説は3回目だった。いつもは原作に比べて映画化されたものは劣ると思うのに、両方比べてみてこれは映画の方が優れていると思った。 小説には序文がついていて…

高松プロダクション・吾嬬撮影所跡

墨田区曳舟駅周辺を散歩していたら十間橋通りの一角に小さなプレートが目についた。「高松プロダクション・吾嬬撮影所跡」とある。そのプレートの文章を引く。 高松プロダクション・吾嬬撮影所跡 所在 墨田区京島三丁目62番 日本映画の製作は、日活、松竹な…

トルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』を見て読む

トルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』を見て読む。最初にオードリー・ヘップバーンが主演した映画を見た。オードリーの映画は50年以上前に『マイフェアレディ』と『ローマの休日』を見て以来だ。原作は龍口直太郎訳の新潮文庫を35年ほど前に読ん…

大林宣彦監督『時をかける少女』を見る

4月10日に大林宣彦監督が亡くなった。私は大林監督の映画を1本も見たことがなかった。あまり興味がなかったから。しかし亡くなってマスコミに追悼記事がいくつも紹介され、巨匠と書いているのもあった。 そんな折、日本テレビが大林作品を放映した。それで初…

黒澤明の『七人の侍』を見る

TOHOシネマズ錦糸町オリナスの「午前10時の映画館」で黒澤明監督の『七人の侍』を見る。『七人の侍』は先月BSプレミアムで放映されたばかりだが、劇場でみられるならそれに越したことはない。以前見たのはもう何十年も前になる。井上ひさしは何十回も見たら…

小林信彦『アメリカと戦いながら日本映画を観た』を読む

小林信彦『アメリカと戦いながら日本映画を観た』(朝日文庫)を読む。昭和7年生まれの著者が太平洋戦争に突入した頃から終戦のころまでどんな日本映画を観てきたかを語りながら、そのことで当時の世相を少年の眼で描いている。とても興味深い社会史になって…