黒澤和子『回想 黒澤明』を読む

 黒澤和子『回想 黒澤明』(中公新書)を読む。娘が父親の思い出を書いている。黒澤監督の晩年作『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』の3作で衣装担当としてスタッフに加わった。

 雑誌『中央公論』の2003年の1年間にわたって連載した。その際、「反抗する」「見詰める」「記憶する」などのテーマを立てて執筆し、1冊にするには原稿が足りなかったのか、さらにテーマを立ててあと12回分書いている。

 テーマを立てるのは、おそらく書きあぐねていた著者に対して編集者がアドバイスしたのではないか。そんなことを考えたのも、本書が十分魅力的なエッセイとは言いかねるからだ。親子で家庭を共にしていたとは言え、途中からスタッフとして仕事にも関わったとは言え、あまり興味深いエピソードは語られない。具体的なエピソードは少なくて、感想とか一般論的なことが多い。巻末の履歴を見ると、黒澤和子にはすでに『パパ、黒澤明』『黒澤明の食卓』があり、本書が父についての3冊目になる。つまり、もう積極的に書くことがないのかもしれない。最初に書いた『パパ、黒澤明』が面白くて、編集者が続篇を望んだのだろう。そっちを読んでみようか。