淀川長治『淀川長治映画ベスト10+α』を読む

 淀川長治淀川長治映画ベスト10+α』(河出文庫)を読む。1948年度から1997年度までの主に外国映画のベスト10が並べられ、一部日本映画のベスト10が並んでいる。解説は数行の簡単なもの。

 そして「私のベスト5」と題した章は、1975年から1984年までの外国映画5点が選ばれ、こちらには1本1本の映画について詳しく語られている。古いとは言え、とにかく参考になる。

 そのほか、「外国映画史上のベスト5」、「日本映画史上のベスト10」、「外国映画史上のベスト10」、「80年代日本映画ベスト10」、「80年代外国映画ベスト10」、「女優ベスト10」とか「ヴァンプ映画・厳選55本」、「男優ベスト37」、「西部劇ベスト25」、「サイレント・ベスト55」などが列挙されている。

 しかし私にとって最大の喜びだったのは「1980年代「洋画ベスト50」はこれだ!」と題する淀川長治蓮實重彦の対談が載っていたことだ。これは最初女性向け雑誌『マリ・クレール』1990年7月号に載っていたもので、この30年前の雑誌を私は宝物として保管していた。それがこの文庫に再録されていたとは知らなかった。

 この二人の対談は、淀川が蓮實を映画に詳しい学者として尊敬し、蓮實が淀川を映画評論家として絶大な信頼を持って尊敬しているという、尊敬しあう者同士の対談であるという稀有な組み合わせ、快い対談に接したという幸福感が堪らない。その一節を引く。(注=ニセ伯爵というのは淀川が呼ぶ蓮實の渾名)

蓮實  ……ぼくはグリーナウェイでは『ZOO』が一番好きで、最近のものはどうも映画祭ねらいという野心が透けて見えて好みません。

淀川  ニセ伯爵はキツイんだからね。黒澤明さんの『夢』がカンヌのオープニングだけど、あなたは冷たい目で、もうカンヌなんか馬鹿にして、オスカーなんかお便所の紙みたいに思ってるんでしょう。

 ぼくはあなたみたいに薄情じゃないの(笑)。黒澤さん、まだ見捨てとらんよ。やっぱりあの人のイマジネーション、何かあるのよ。

蓮實  ぼくだって、黒澤さんの好きな映画は沢山あります。しかし、スピルバーグやルーカスが妙に持ち上げたりするから。

 

 この対談があるだけでも私の大事な蔵書となった。なお、表紙のイラスト(接吻シーン)は淀川が描いたものとのこと。

 

 

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淀川長治映画ベスト10+α (河出文庫)

淀川長治映画ベスト10+α (河出文庫)