歴史
田中優子・松岡正剛『昭和問答』(岩波新書)を読む。江戸文化の専門家田中優子と著名編集者の松岡正剛の昭和をテーマにした対談書。実は本書の前に同じ岩波新書から二人で『日本問答』と『江戸問答』を出版している。そのことは知らなかった。 本書は6つの…
大森洋平『考証要集』(文春文庫)を読む。副題が「秘伝! NHK時代考証資料」。著者の大森洋平はNHKで時代考証業務を担当、2013年現在NHKドラマ番組部シニア・ディレクター。長年まとめた職員向け資料を上梓したもの。 なるほど知らない事柄が満載されている…
末木文美士『日本思想史』(岩波新書)を読む。カバー袖の惹句に、 古代から今にいたるまで、日本人はそれぞれの課題に取り組み、生き方を模索してきた。その軌跡と膨大な集積が日本の思想史をかたちづくっているのだ。〈王権〉と〈神仏〉を二極とする構造と…
古松崇志『草原の制覇』(岩波新書)を読む。副題が「大モンゴルまで」で、「シリーズ 中国の歴史」の第3巻。この巻は「外から絶えず影響を及ぼし、ついに中国と一体となる草原世界を論じる」とあり、2世紀から13世紀の中国の中原と草原の歴史を描いている…
白石典之『元朝秘史』(中公新書)を読む。副題が「チンギス・カンの一級資料」というもの。まさにモンゴル帝国を築いたチンギス・カンの物語。『元朝秘史』にはモンゴル遊牧民の叙事詩という側面もある。ドイツの『ニーベルンゲンの歌』やわが国の『平家物…
小野寺拓也・田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット)を読む。「はじめに」で、「ナチスは良いこともした」という議論が、定期的に繰り返されていると書き、それが本当かを丁寧に反証している。 ヒトラーは選挙で勝ったから…
広中一成『後期日中戦争』(角川新書)を読む。「はじめに」から、 生き残った日本軍将兵の数が、太平洋戦線に比べて中国戦線では圧倒的に多かったことから、日本海軍は太平洋戦争で負けたが日本陸軍は日中戦争で負けていなかった、という言説が今日でも聞か…
宮本常一『イザベラ・バードの旅』(講談社学術文庫)を読む。副題が「『日本奥地紀行』を読む」とあり、イザベラ・バードの『日本奥地紀行』をテキストに、宮本常一が日本観光文化研究所で行った講義をもとに、宮本没後に未来社から刊行されたものを文庫化…
松尾剛次『日蓮』(中公新書)を読む。日蓮宗を開いて法華経の信仰を説いた。新宗教の霊友会、立正佼成会、創価学会もみな日蓮系だ。 日蓮は他宗に対して激しく攻撃的だった。それは創価学会の折伏を経験して私も多少は知っていた。しかしここまで攻撃的だっ…
イザヤ・ベンダサン『日本人とユダヤ人』(角川ソフィア文庫)を読む。50年以上前に出版されて当時大きな話題になった書。その後イザヤ・ベンダサンを名乗る著者がユダヤ人などではなくて山本七平だということがばれてこれまた話題になった。しかし人気は衰…
墨田区の吾嬬神社と江東区の亀戸石井神社に初詣に行く。私見ではどちらも東京で最も古い神社だと思われる。しかし往時の栄光はとうに廃れ、どちらにも専任の宮司はいないし、初詣の参拝客もほとんど見かけない。近くの江東区の香取神社や亀戸天神は参拝客が…
片山杜秀『歴史は予言する』(新潮新書)を読む。『週刊新潮』に連載したコラム「夏裘冬扇」の書籍化。片山杜秀は近代日本政治思想史家でクラシック音楽の評論家。週刊誌の軽いコラムと思って読み始めたらとんでもなく重い充実したエッセイだった。名コラム…
藤本正行『信長の戦争』(講談社学術文庫)を読む。副題が「『信長公記』に見る戦国軍事学」というもの。藤本正行は、これまで信長の優れた軍事的作戦とされてきた桶狭間の奇襲戦、秀吉による墨俣一夜城築城、長篠合戦の鉄砲三千挺・三弾撃ち。これらを後世…
ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』(草思社文庫)を読む。副題が「人間という動物の進化と未来」。人間の近縁種はチンパンジー(コモンチンパンジー)とボノボ(ピグミーチンパンジー)であり、人間は第三のチンパンジーだとい…
阿利漠二『ルソン戦―死の谷』(岩波新書)を読む。私は本書を36年前、発行直後の1987年に購入している。本棚に差したまま一度も読んでいなかった。本文は紙がちょっと焼けて黄色みを帯びている。 どうしてこんな重要な本を読まなかったのか、もっと早くに読…
池上彰/パトリック・ハーラン『世界を動かした名演説』(ちくま新書)を読む。池上彰とパトリック・ハーラン(以下パックン)が対談で、名演説を紹介し、その名演説であるポイントを紹介する。特にパックンは英語原文のレトリックの面白さやリズムの良さ(…
橋爪大三郎『戦争の社会学』(光文社未来ライブラリー)を読む。副題が「はじめての軍事・戦争入門」。橋爪大三郎が東京工業大学で行った「軍事社会学」の講義を書籍化したもの。「はじめに」から、 戦前には、軍があった。軍は、国民のためではなく天皇のた…
松沢裕作『生きづらい明治社会』(岩波ジュニア新書)を読む。副題が「不安と競争の時代」。裏表紙の惹句から、 日本が近代化に向けて大きな一歩を踏み出した明治時代は実はとても厳しい社会でした。景気の急激な変動、出世競争、貧困・・。さまざまな困難と…
野呂邦暢『日本史の旅人』(中公文庫)を読む。副題が「野呂邦暢史論集」。野呂邦暢は作家、37歳で芥川賞を受賞するも43歳の若さで亡くなっている。私は40年以上前、野呂の小説が好きで何冊も読んだ記憶がある。亡くなって40年以上経った昨今また野呂が再評…
橋爪大三郎『アメリカの教会』(光文社新書)を読む。副題が「“キリスト教国家”の歴史と本質」というもの。 アメリカの教会は独特で、まず教会の種類が多い。それに対してヨーロッパは、ある地域にはある教会と決まっている。ウエストファリア条約(1648年)…
山本弘は終戦時15歳だった。軍国少年だった山本が終戦をどう感じたのか正確には分からない。ここに勝目梓の『小説家』(講談社文庫)という自伝があり、勝目が終戦時の体験を語っている。 昭和20年(1945年)、日本の敗戦の年にこの世に生を受けたC女は、民…
富田武『ものがたり戦後史』(ちくま新書)を読む。第2時世界大戦以後の戦後史を、日本史と世界史に分けなくて、総合的に捉えて書いている。「はじめに」によると、2022年から高校社会科歴史科目が改変され、1年時の2単位必修科目として「歴史総合」がスタ…
藤田嗣治「サイパン同胞臣節を完うす」 藤田嗣治の戦争画「サイパン同胞臣節を完うす」についても菊畑茂久馬は高く評価している。『絵かきが語る近代美術』(弦書房)より 私共同胞のむごたらしい死出の旅を描いた絵の、どこに戦意高揚のプロパガンダの意図…
藤田嗣治「アッツ島玉砕」 藤田嗣治の戦争画「アッツ島玉砕」は毀誉褒貶のある作品だ。批判する意見も多い。だが菊畑茂久馬は絶賛している。『絵かきが語る近代美術』(弦書房)より ……この絵は何度見ても美しい。どこか夢見るような詩情漂う絵、地獄の殺戮…
2月3日は節分だった。節分の夜は大島かづ子の短歌を思い出す。 追儺の豆外には打たじ戸はたてじ召さりし護国の鬼の兄来よ 追儺(ついな)は節分の夜、桃の弓で葦の矢を放って悪魔を追い払う儀式。戦死した兵は鬼となって国を守るとされた。戦死した兄を妹…
今年の元旦は2つの神社に初詣に行った。墨田区の吾嬬神社と江東区の亀戸石井神社だ。おそらくどちらも関東で最も古い神社に属するだろう。しかし往時の栄光はとうに廃れ、どちらにも専任の宮司はいないし、初詣の参拝客もほとんど見かけない。近くの江東区…
東京亀戸の亀戸石井神社を10年ぶりに再訪した。この石井神社は小さな神社だが、実は東京でも最も古い神社に属する。もともとは石棒を祀っていたが、早くに石棒は失われて今はもうない。 地元では、おしゃもじ稲荷と呼び、咳を直す神として知られている。昔神…
東京御徒町にイモリなどの黒焼の店がある。以前から黒焼というのはどんな効用があるのか不思議に思っていた。それが最近読んだ鶴見俊輔『日本の地下水』(編集グループSURE)に載っていた。鶴見が『江戸っ子百話』というガリ版雑誌を紹介している。 ……ふだん…
森浩一『敗者の古代史』(角川新書)を読む。袖の惹句から、 歴史は勝者によって書かれている。朝廷に「反逆者」とされた者たちの足跡を辿り、『古事記』や『日本書記』の記述を再検証。筑紫君石井、両面宿儺、蘇我入鹿……地域の埋もれた伝承を掘り起こすと見…
筒井清忠編『昭和史講義【戦後文化篇】(下)』(ちくま新書)を読む。本書戦後文化篇下巻は、映画などを主体に音楽やマンガやテレビなどを扱っている。いままで映画は監督を中心に見ていくという視点が多かったが、本書は映画会社から映画史を見ていくとい…