歴史
池上彰/パトリック・ハーラン『世界を動かした名演説』(ちくま新書)を読む。池上彰とパトリック・ハーラン(以下パックン)が対談で、名演説を紹介し、その名演説であるポイントを紹介する。特にパックンは英語原文のレトリックの面白さやリズムの良さ(…
橋爪大三郎『戦争の社会学』(光文社未来ライブラリー)を読む。副題が「はじめての軍事・戦争入門」。橋爪大三郎が東京工業大学で行った「軍事社会学」の講義を書籍化したもの。「はじめに」から、 戦前には、軍があった。軍は、国民のためではなく天皇のた…
松沢裕作『生きづらい明治社会』(岩波ジュニア新書)を読む。副題が「不安と競争の時代」。裏表紙の惹句から、 日本が近代化に向けて大きな一歩を踏み出した明治時代は実はとても厳しい社会でした。景気の急激な変動、出世競争、貧困・・。さまざまな困難と…
野呂邦暢『日本史の旅人』(中公文庫)を読む。副題が「野呂邦暢史論集」。野呂邦暢は作家、37歳で芥川賞を受賞するも43歳の若さで亡くなっている。私は40年以上前、野呂の小説が好きで何冊も読んだ記憶がある。亡くなって40年以上経った昨今また野呂が再評…
橋爪大三郎『アメリカの教会』(光文社新書)を読む。副題が「“キリスト教国家”の歴史と本質」というもの。 アメリカの教会は独特で、まず教会の種類が多い。それに対してヨーロッパは、ある地域にはある教会と決まっている。ウエストファリア条約(1648年)…
山本弘は終戦時15歳だった。軍国少年だった山本が終戦をどう感じたのか正確には分からない。ここに勝目梓の『小説家』(講談社文庫)という自伝があり、勝目が終戦時の体験を語っている。 昭和20年(1945年)、日本の敗戦の年にこの世に生を受けたC女は、民…
富田武『ものがたり戦後史』(ちくま新書)を読む。第2時世界大戦以後の戦後史を、日本史と世界史に分けなくて、総合的に捉えて書いている。「はじめに」によると、2022年から高校社会科歴史科目が改変され、1年時の2単位必修科目として「歴史総合」がスタ…
藤田嗣治「サイパン同胞臣節を完うす」 藤田嗣治の戦争画「サイパン同胞臣節を完うす」についても菊畑茂久馬は高く評価している。『絵かきが語る近代美術』(弦書房)より 私共同胞のむごたらしい死出の旅を描いた絵の、どこに戦意高揚のプロパガンダの意図…
藤田嗣治「アッツ島玉砕」 藤田嗣治の戦争画「アッツ島玉砕」は毀誉褒貶のある作品だ。批判する意見も多い。だが菊畑茂久馬は絶賛している。『絵かきが語る近代美術』(弦書房)より ……この絵は何度見ても美しい。どこか夢見るような詩情漂う絵、地獄の殺戮…
2月3日は節分だった。節分の夜は大島かづ子の短歌を思い出す。 追儺の豆外には打たじ戸はたてじ召さりし護国の鬼の兄来よ 追儺(ついな)は節分の夜、桃の弓で葦の矢を放って悪魔を追い払う儀式。戦死した兵は鬼となって国を守るとされた。戦死した兄を妹…
今年の元旦は2つの神社に初詣に行った。墨田区の吾嬬神社と江東区の亀戸石井神社だ。おそらくどちらも関東で最も古い神社に属するだろう。しかし往時の栄光はとうに廃れ、どちらにも専任の宮司はいないし、初詣の参拝客もほとんど見かけない。近くの江東区…
東京亀戸の亀戸石井神社を10年ぶりに再訪した。この石井神社は小さな神社だが、実は東京でも最も古い神社に属する。もともとは石棒を祀っていたが、早くに石棒は失われて今はもうない。 地元では、おしゃもじ稲荷と呼び、咳を直す神として知られている。昔神…
東京御徒町にイモリなどの黒焼の店がある。以前から黒焼というのはどんな効用があるのか不思議に思っていた。それが最近読んだ鶴見俊輔『日本の地下水』(編集グループSURE)に載っていた。鶴見が『江戸っ子百話』というガリ版雑誌を紹介している。 ……ふだん…
森浩一『敗者の古代史』(角川新書)を読む。袖の惹句から、 歴史は勝者によって書かれている。朝廷に「反逆者」とされた者たちの足跡を辿り、『古事記』や『日本書記』の記述を再検証。筑紫君石井、両面宿儺、蘇我入鹿……地域の埋もれた伝承を掘り起こすと見…
筒井清忠編『昭和史講義【戦後文化篇】(下)』(ちくま新書)を読む。本書戦後文化篇下巻は、映画などを主体に音楽やマンガやテレビなどを扱っている。いままで映画は監督を中心に見ていくという視点が多かったが、本書は映画会社から映画史を見ていくとい…
筒井清忠 編『昭和史講義 戦後文化篇(上)』(ちくま新書)を読む。19のテーマについて各専門家がそれぞれ20ページほどを当てて解説している。この上巻は思想や文学などを取り上げ、下巻は主に映画を取り上げている。コンパクトにまとめられて大項目主義の…
奥泉光・加藤陽子『この国の戦争』(河出新書)を読む。副題が「太平洋戦争をどう読むか」とあり、作家の奥泉と日本近現代史が専門の加藤が対談している。これがとても有意義な読書だった。対談形式なので読みやすい。 奥泉光 アジア・太平洋戦争を考える準…
児玉博『堤清二 罪と業』(文春文庫)を読む。副題が「最後の告白」。セゾングループの総帥堤清二は2013年に亡くなった。児玉博はその前年2012年に堤に7回に渡ってインタビューを行った。その結果が本書だが、単行本は堤が亡くなった3年後に発行された。 …
山田風太郎『同日同刻』(ちくま文庫)を読む。副題が「太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日」というもの。解説に高井有一が書いている。 『同日同刻』は、太平洋戦争の最初の一日と、最後の十五日間に、日本、アメリカ、ヨーロッパの各地で起つた出来事を、…
高階秀爾『芸術のパトロンたち』(岩波新書)を読む。先日読んだ矢代幸雄『藝術のパトロン』が日本の美術コレクターを取り上げていたのに対し、本書はヨーロッパの美術パトロンたちを取り上げている。 ルネッサンス頃のイタリアフィレンツェの同業者組合が彫…
西郷孤月は橋本雅邦の弟子、大観、春草、観山とともに四天王と呼ばれた。私の岳父の妻は西郷孤月と親戚で、その生家は西郷と言った。松本市の城山に西郷家の墓があり、そこは松本の武士の墓地だったという。西郷家を中心に松本市に西郷孤月を研究し顕彰する…
2月に亡くなった門田秀雄さんの古いエッセイを再録する。これは13年前の2009年11月19日に掲載された(日本経済新聞朝刊)。忘れられた前衛美術家でプロレタリア美術家の岡本唐貴と入江比呂を紹介している。その「美術史から消えた『労働者』」全文を下に引く…
曹良奎「密閉せる倉庫」 曹良奎という画家がいた。在日の画家だった。優れた絵を描いていたが、差別に苦しんだようで、北朝鮮への帰国運動のとき、北へ行ってしまった。曹自身は現在の韓国の済州島出身だったが。作品はほとんどを持って行って、洲之内徹や針…
北川央『大坂城』(新潮新書)を読む。北川は大阪城天守閣館長、大坂城や城づくりなどに関する著書多数とある。大坂城に関するエピソードを50篇まとめたもので、豊富な知識から面白いネタを繰り出してくれる。 秀吉は大徳寺の総見院に信長の墓を作った。しか…
昨日紹介したポーランドのノーベル文学賞受賞詩人ヴィスワヴァ・シンボルスカは、30年にわたり数百冊の本の書評を書いてきた。その一部が、『シンボルスカ詩集』(土曜美術社出版販売)に抄録されている。そこに取り上げられているアンナ・シヴィデルクヴナ…
司馬遼太郎『この国のかたち 六』(文春文庫)を読む。司馬が『文藝春秋』の巻頭言として連載していたものだが、「歴史のなかの海軍」を書いていて、その5回目を書いたところで亡くなってしまう。この優れた論考は未完で中断してしまった。 「歴史のなかの海…
片山杜秀『尊皇攘夷』(新潮選書)を読む。副題が「水戸学の四百年」、480頁近い大著だ。ページ数が多いのは、明治維新を用意した尊王攘夷について、水戸光圀から始めて丁寧に描いていることと、雑誌『新潮45』および『新潮』に連載したためで、『新潮45』の…
西武池袋線高麗駅前に赤い2本の柱が立っていて、大きく「天下大将軍 地下女将軍」と書かれている。これは何だろう。この地が朝鮮半島ゆかりの地であることは知っている。有名な高麗神社があるし、近くには九万八千社という不思議な名前の神社もある。九万も…
初詣は墨田区の吾嬬神社へ行った。小さな神社で参拝客はきわめて少ない。御祭神は弟橘姫(オトタチバナヒメ)、日本武命(ヤマトタケル)の奥さんで、江戸湾を横断するとき荒れた海を鎮めるために身を犠牲にして海に飛び込んで日本武命を無事対岸へ送り届け…
高橋純 編訳『高田博厚=ロマン・ロラン往復書簡』(吉夏社)を読む。副題が「回想録『分水嶺』補遺」とあり、高田博厚の回想録『分水嶺』を補完する内容。 彫刻家高田博厚は戦前の1931年(昭和6年)に渡仏し、以来1957年(昭和32年)に帰国するまで26年間…