御徒町の黒焼屋



 東京御徒町にイモリなどの黒焼の店がある。以前から黒焼というのはどんな効用があるのか不思議に思っていた。それが最近読んだ鶴見俊輔『日本の地下水』(編集グループSURE)に載っていた。鶴見が『江戸っ子百話』というガリ版雑誌を紹介している。

 

……ふだん電車の窓から見ていておぼえている景色におくゆきができてくる。たとえば、上野から神田にむかう電車にのると、黒焼の広告が、古めかしい大きな書体でいくつか出ているが、なぜ黒焼を昔から人がのんできたのか、なぜ上野近くにその店があるのか、よくわからなかった。

 「松葉町の半僧房権現の寺の前に黒焼屋があった。元浅草公園付近には売春婦が沢山居て梅毒(かさ)の伝播がし(ママ)どかった。未だ其当時は六百六号其他の梅毒(かさ)新薬も出来たか出来ぬ時代であったから此の黒焼屋で(獣類其他の黒焼作品)梅毒(かさ)治療の黒焼を売った。元より全治薬として今日より思えば妙な薬であったでしょう。其の梅毒(かさ)の隣りに傘、下駄を売る下駄屋が出来た。これが中々振って居る。『かさにげた』(傘に下駄)これでは隣りの梅毒(かさ)の薬屋の広告しているようで、私は青年時代此の看板見る度び可笑しかった。」(第22話、「松葉町物語」)

 

 なるほど、黒焼は梅毒の薬だったのか。最近また梅毒が増えているとニュースで紹介していたので、黒焼屋がまた繁盛するだろうか。