2008-09-01から1ヶ月間の記事一覧

季刊雑誌「考える人」2008年夏号が面白い

新潮社の季刊雑誌「考える人」2008年夏号がとても面白い。特集が「小説より奇なり! 自伝、評伝、日記を読もう」で、辻邦生の1968〜69年のパリの日記が紹介され、丸谷才一へのインタビューは「伝記はなぜイギリスで繁栄したか」、橋本治へは「日本人にとって…

山本弘の手紙(葉書)

山本弘は結婚する前の33、34歳頃(1963年頃)脳血栓を患って、手足、口が不自由になった。加えてアル中だった。下記の葉書はすべて私がいただいたものだが、文字が読みづらいのはそのためだ。括弧内の年齢は当時の山本弘の年齢。 「私の事心配なら、現れない…

折口信夫への中沢新一と三島由紀夫の相反する二つの評価

中沢新一「古代から来た未来人 折口信夫」(ちくまプリマー新書)は折口信夫への徹底的なオード(頌)であって、ここまで傾倒するといっそ小気味よい。 かれこれもう三十数年にもわたって、わたしは折口信夫を読み続けている。いくつかの文章のさわりなどは…

三島由紀夫の自然理解

三島由紀夫の取材旅行にドナルド・キーンが同行したときのエピソードが有名だ。 三島が松の木を指差して居合わせた植木屋に「あれは何の木か」と聞いたので植木屋は「雌松です」と答えた。それに対して三島が「雌松ばかりで雄松がないのに、どうして子松がで…

銀座H&Mの入店待ち行列1,000人

スウェーデンのアパレルブランドH&Mが今月13日に銀座に開店した。おしゃれなデザインで安くて評判だとは聞いていたが、銀座に行ったときすごい行列ができていて驚いた。入場制限をしているらしく、相当数の人が延々と並んでいる。私が見たのは秋分の日の休日…

優れた職人芸 瀬戸照展

瀬戸照(せとあきら)展「スケッチと細密画展ーー雑誌コヨーテの原画からーー」が銀座の福原画廊で開かれている(10月1日まで)。 瀬戸照はファインアートではなくイラストレーターで、出版や広告の世界で仕事をしてきた。博物学的な絵が中心で、果物、野菜…

首都医校の広告への疑問

やなぎみわという1967年生まれの現代美術作家がいる。デパートの案内嬢のコスチュームを着たモデルたちの写真を撮り、CGで加工した作品などでデビューした。その後2005年の原美術館の個展では、ガルシア=マルケスの「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じ…

洲之内徹の顔のこと

数年前、いまはもうない現代美術専門の画廊で野見山暁治展があった。小さなオブジェ展で、普通の個展には出さないような作品の展覧会だった。そんなことで値段は大変安かった。老嬢という感じの画廊主に、安いですねと声をかけた。彼女はおそらく、野見山暁…

1度だけ行った銀座の高級画廊

一般の人が画廊って敷居が高くて入りづらいとよく言うけれど、そんなことはありません。画廊はどこでも初めてのお客さんを歓迎してくれるし、最初から絵を売りつけようなんて考えてはいません。ラッセルやヒロ・ヤマガタを扱っている一部特殊な画廊を除いて…

幼形成熟という不思議

幼形成熟はネオテニーとも言う。ネオテニーについてWikipediaでは「ネオテニーは、動物において、性的に完全に成熟した個体でありながら非生殖器官に未成熟な、つまり幼生や幼体の性質が残る現象のこと。幼形成熟、幼態成熟ともいう」と解説している。 例と…

吉井仁美「現代アートバブル」を読んで

最近出版されたばかりの吉井仁美「現代アートバブル」(光文社新書)がとても良い出来だ。副題が「いま、何が起きているのか」で、「現代アートバブル」という題は売れるように出版社が付けたものだろう。 現代美術のマーケットで何が起きているか、アートフ…

娘との会話

「麻生って人の悪口が多いんだってね」 「父さん、麻生さんは悪口でなくて、失言じゃない。失言は森首相と石原知事も多かったね。毎日2ちゃんに書かれていたよ」 「石原もひどいことを言ってたよね」 「石原さん、三国人て言ったじゃない、あれはひどいよね…

「空有」という不思議な概念

自転車で帰宅途中、ふと駐車場のプレートが気になった。「気になった」のは明確な「私の意識」ではなく、むしろ半意識というか、蓄積された脳内のデータベースが反応したのではなかったか。駐車場の壁のプレートの「空有」という文字に。 「空有」とは「空き…

女性美の基準が変わること

知ってる娘が小さな映画の脇役に選ばれて、その制作発表の記者会見がネットにアップされている。彼女は、通っている専門学校の学校案内のパンフレットにも女子学生代表で選ばれていて、きれいな子なんだけど、やはり主役に選ばれた子と並ぶとどうしてもその…

美術作品の鑑賞方法を教わった

昨日は新宿区矢来町のセッションハウスへ行って来た。14日から「スパイラル・アート展Part2」が始まっていて、昨日はギャラリートークがあった。御子柴大三さんを司会に、柏わたくし美術館の館長堀良慶さんの話を聞いた。 堀さんは今回展示された3人の作家…

おならの完璧な消音法

いささか尾籠な話だが、以前盲腸憩室炎の手術をしてからおならの回数が多くなった。盲腸憩室炎とは、盲腸にできた憩室(ポリープ)に炎症が起こる病気で、盲腸の憩室そのものが珍しく、さらにそれに炎症が起こるのは極めて例がないとかで、切除した患部の盲…

思い出す人々:衛生害虫を研究していたY先生

Y先生は厚生省の予防衛生研究所でハエの薬剤抵抗性を研究していた。ソ連時代に公費で出張したとき、通訳をしてくれたモスクワ大学日本語科の女子学生が、私のこと喜ばせてください、楽しませてくださいと言うので、それじゃあ×××をしようと言うと隠語のせい…

思い出す人々:K化学工業の課長山内さん

若い頃営業の仕事をしていた。クライアントの担当者がK化学工業の山内さんという課長だった。その会社は二つの会社が合併してできた会社で、建前は対等合併だったが、実際は吸収合併だった。山内さんは吸収された方の名古屋支店長だった。合併した会社の技術…

酋長シアトルの美しいメッセージ

三上さんが「すべては結ばれている」(2008年8月27日)でル・クレジオを引用している。そこで紹介されているル・クレジオ「歌の祭り」(菅啓次郎訳・岩波書店)を読んでみた。それは読むのが辛い本だった。 「1951年、8月の13日、聖イポリットの日、晩課の…

堤壽音の彫刻展が面白かった

銀座5丁目のギャラリーなつかで堤壽音(つつみ じゅね)の彫刻展「端と端のあいだ」をやっているがなかなか面白かった。彼女は武蔵美大学院生でこれが初個展。金属の立体が1点に木彫が5点ほど、ドローイングが1点出品されている。 金属の作品は写真に見…

川崎徹の名エッセイ「猫とわたし」

講談社のPR誌「本」9月号に川崎徹の「猫とわたし」というエッセイが載っている。公園の野良猫に餌をやっている話だ。 ゆっくり自転車をこぎながら、口でチチッと音をたてた。二度たてただけで、繁みからチカ、ボブ、太郎が走り出てくる。 わたしは自転車を…

銀座のクラブの照明は・・・

以前クライアントを接待するためしばしば銀座のクラブを利用した。私はあまりホステスに興味がなく、共通の話題も少ないので、時間つぶしに彼女たちの手相をみてやった。これが結構好評だった。 手相を見るときの私なりのコツは相手の手に直接触れないことだ…

伊東光晴によるポール・クルーグマン著「格差はつくられた」の書評

毎日新聞2008年9月7日の書評欄に、伊東光晴によるポール・クルーグマン著「格差はつくられた」(早川書房)の書評が載っている。そのほぼ全文。 "ゆたかな国ーーアメリカ" のイメージは、21世紀に入って大きく変った。エーレンライクの「ニッケル・アンド・…

福岡伸一が語る食品添加物ソルビン酸

「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書)の福岡伸一が、講談社のPR誌「本」に「世界は分けても分からない」というタイトルでエッセイを連載している。9月号の第4回はソルビン酸について語っている。 福岡伸一は最初に「コンビニのサンドイッチはなぜ長…

女性の成熟を求めない日本の文化

昨日5日からデヴィッド・ルヴォーの演出でイプセンの「人形の家」が始まったらしい。宮崎りえと堤真一主演、渋谷のシアターコクーンで。S席9,000円、A席7,000円、うむ高い。デヴィッド・ルヴォーは長くT.P.T.(シアター・プロジェクト・東京)の芸術監督を…

驚くべき旧東独の画家ネオ・ラオホの作品

以前「驚くべき東ドイツの美術」(2007年4月9日)を書いた。宮下誠「20世紀絵画」(光文社新書)から特に興味深かった1章「【間奏】《旧東独美術の見えない壁》」を紹介したものだ。 筆者は2005年夏、ライプチヒをはじめ幾つかの旧東独の都市を回った。そ…

芸術とは何か

ギャラリーアポロが発行するAPOLLOMEDIATEの9月号に、ギャラリーオーナーの秋山修さんが「芸術とは何か」と題して面白いことを書いている。 「芸術とは人間が表現したもので、永遠に感動を与えるもの」だという。いま作られている作品には永遠に残るものと…

池田満寿夫と宮崎進、岡崎乾二郎の立体作品

以前も何度か書いたのだが、池田満寿夫や宮崎進の立体作品がつまらない。2人とも版画や油彩で評価されてきた作家たちだ。その後彼らは立体作品を作り始める。池田満寿夫は縄文焼きと称する陶のオブジェを、宮崎進は人体の彫刻を作っている。宮崎の人体作品…

生命と食

ベストセラーになった名著「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書)の著者福岡伸一の講演を加筆したものが「生命と食」(岩波ブックレット)として出版された。「生きることと食べることの意味」「狂牛病が私たちに問いかけたこと」「食の安全をどう考え…

Chim↑Pomのパフォーマンス終了!

先に、Chim↑Pomの個展「友情か友喰いか友倒れか/BLACK OF DEATH」(id:mmpolo:20080817)を紹介した。ギャラリーhiromiyoshiiで水野俊紀が8月9日から30日までの22日間、密閉された狭い空間にカラス1羽、ネズミ1匹と暮らすという驚くべき企画だ。先日は…