おならの完璧な消音法

 いささか尾籠な話だが、以前盲腸憩室炎の手術をしてからおならの回数が多くなった。盲腸憩室炎とは、盲腸にできた憩室(ポリープ)に炎症が起こる病気で、盲腸の憩室そのものが珍しく、さらにそれに炎症が起こるのは極めて例がないとかで、切除した患部の盲腸は阿佐ヶ谷の河北病院にアルコール標本として残っているはずだ。手術とおならの因果関係については医者からは鼻で笑われたが。
 家ではともかく会社にいるときむやみにおならをするわけにもゆかず、最初ベランダでした。職場はビルの2階にあり、通りに面して小さなベランダがあった。さほど大きな音ではなかったと記憶するが、通りの向こう側を行く男性が音のする方を見上げたので恥ずかしかった。二度とベランダではしなかった。
 それ以来トイレですることを基本にしたが、女子便所を挟んで並んでいる給湯室で女性がお茶を淹れているときなど聞こえていたみたいだった。そのような時は更衣室に行ったが、直後に誰か入ってくるとお互いに気まずかった。
 そんな時画期的な消音法を開発した。仕事中職場でも可能でほとんど完璧な方法だった。コロンブスの卵みたいだが、おならをすると同時に手を叩くのだ。特に大きな音でなければこれで大概おならを消音することができる。嘘みたいだが経験上断言できるのだ。どうしたんですかと聞かれるが、飛んでいる虫を捕ったんだくらいに言えばいい。
 ただ欠点がないわけではない。タイミングがずれると返って注目を集めることになり、この方法は二度と使えなくなってしまう。以後手を叩くと、またおならしたんですかと女子社員に言われてしまう。