2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

高野慎三『神保町「ガロ編集室」界隈』を読む

高野慎三『神保町「ガロ編集室」界隈』(ちくま書房)を読む。高野は大学卒業後日本読書新聞に入社し、その後『ガロ』を発行していた青林堂に転職する。青林堂は社長の長井勝一とパートナーで経理担当の香田明子の二人だけだった。結局1966年9月から5年少し…

サティやショパンの教え

青柳いづみこが『図書』2月号から「響きあう芸術 パリのサロンの物語」という連載を始めた。その第1回が「サロンという登竜門」、若く無名でお金のない芸術家が世に出る手段は、21世紀ではショパン・コンクールやチャイコフスキー・コンクールだが、19世紀は…

大岡昇平『常識的文学論』を読む

大岡昇平『常識的文学論』(講談社文芸文庫)を読む。このタイトルは生ぬるい、「好戦的文学論」だろう。昭和36年(1961年)に雑誌『群像』に連載した文芸時評的なものだが、初回から当時世評きわめて高かった井上靖の『蒼き狼』に激しく嚙みついている。 井…

無人島プロダクションの八谷和彦個展「秋水とM-02J」を見る

東京江東区の無人島プロダクションで八谷和彦個展「秋水とM-02J」が開かれている(4月18日まで)。秋水もM-02Jも一人乗りの飛行機で八谷は実際にこのM-02ジェット機で何度も飛行を成功させている。画廊にはその実機が展示されている。 画廊のホームページか…

東京都現代美術館のマーク・マンダース展「マーク・マンダースの不在」を見る

東京都現代美術館でマーク・マンダース展「マーク・マンダースの不在」が開かれている(6月20日まで)。マンダースは1968年オランダ生まれでベルギー在住。日本では初個展となる。 巨大な彫刻作品が並んでいる。粘土を乾燥させたままではないだろうなと思っ…

東京都現代美術館の「Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021受賞記念展」で風間サチコを見る

東京都現代美術館で「Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021受賞記念展」が開かれている(6月20日まで)。受章者は風間サチコと下道基行の二人。ここでは風間サチコを紹介したい。 風間は1972年東京生まれ、1996年武蔵野美術学園版画研究科を修了している…

中村稔『現代詩の鑑賞』を読む

中村稔『現代詩の鑑賞』(青土社)を読む。これがとても素晴らしかった。中村は詩人で、また駒井哲郎などの伝記作者、本職は弁護士である。現代詩の実作者であるから「現代詩の鑑賞」にはぴったりだ。 本書には鮎川信夫、田村隆一から荒川洋治、高橋順子、小…

半藤一利『「昭和天皇実録」にみる開戦と終戦』を読む

半藤一利『「昭和天皇実録」にみる開戦と終戦』(岩波ブックレット)を読む。「昭和天皇実録」を読み込んで、開戦と終戦に関する昭和天皇の関与を分析している。実は1年半前にも読んでブログに紹介していたのに忘れていた。だが何度読んでも良い本だ。 いよ…

山梨俊夫の美人論

以前にも紹介したが、山梨俊夫の『絵画逍遥』(水声社)が素晴らしい。今回はその中の美人論を引く。 美しい人を見て、その美貌を描こうと思い立つ。あるいは、風が渡り樹木を煌めかせる光の晴れやかな自然に身を浸し、精神を解放させるその光景を描こうとす…

若井敏明『謎の九州王権』を読む

若井敏明『謎の九州王権』(祥伝社新書)を読む。大和王権の前に九州王権があったという主張。そういわれればすぐ古田武彦の九州王朝を連想する。若井も古田のこと十分は意識していて、「はじめに」で古田との違いを述べている。 ……古田武彦氏の九州王朝説と…

秋吉久美子・樋口尚文『秋吉久美子 調書』を読む

秋吉久美子・樋口尚文『秋吉久美子 調書』(筑摩書房)を読む。映画評論家で映画監督でもあり、秋吉の大ファンでもある樋口が、秋吉久美子に長時間インタビューしたもの。秋吉久美子といえば藤田敏八の映画『赤ちょうちん』『妹』『バージンブルース』に出演…

高橋源一郎『たのしい知識』を読む

高橋源一郎『たのしい知識』(朝日新書)を読む。副題が「ぼくらの天皇(憲法)・汝の隣人・コロナの時代」となっている。本書はこの3つのテーマを独立に論じたもの。雑誌『小説トリッパー』に連載した。 地味なタイトルだがとても面白かった。高橋は教科書…

山本弘の作品解説(100)「題不詳」

「題不詳」1976年制作 山本弘「題不詳」、油彩、F10号(45.5cm×53.0cm) 1976年10月制作、46歳のときのほとんど最晩年の作品。何が描かれているのだろう。左下に「ヒロシ」のサイン。片仮名のサインは珍しいが時々書かれている。 実はほとんど同じ構図、同じ…

藍画廊の番留京子展「The Savior is coming」を見る

東京銀座の藍画廊で番留京子展「The Savior is coming」が開かれている(3月20日まで)。番留は富山県生まれ。1985年、創形美術学校を卒業している。1986年、ギャラリー青山で初個展。以来多くのギャラリーで個展を開いてきたが、最近はギャラリー・オカベ…

ギャラリーなつかのこづま美千子の作品を見る

東京京橋のギャラリーなつかで、「そこからの景色」が開かれている。木村友香とこづま美千子の二人展だ(3月20日まで)。 ここではこづま美千子を紹介する。こづまは1963年東京生まれ。1987年に多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業。1984年から個展や…

ギャラリー川船で「特別入札展示会」が開かれている

東京京橋のギャラリー川船で「特別入札展示会」が開かれている(3月13日まで)。 入札の方式は「二枚札方式」、これは入札カードに上値(上限)と下値(下限)の二つの価格を書いて入札するもの。他に入札者のない場合は下値で落札する。上値が同額の場合に…

井伏鱒二『珍品堂主人』を読む

井伏鱒二『珍品堂主人』(中公文庫)を読む。骨董屋であり、料亭を経営した変わった男を主人公にした小説。モデルがあり、秦秀雄という魯山人や小林秀雄などと付き合っていた骨董商だ。彼のことは宇野千代も書いていたのではなかったか。 長篇小説であるにも…

高峰秀子『にんげん住所録』を読む

高峰秀子『にんげん住所録』(文藝春秋)を読む。先月某所で一時手許に読む本がなくなって、某所の自由に読める小さな本棚から借りたもの。高峰のいつもの読みやすいエッセイが並んでいる。 その中で子供のころから映画の子役として引っ張りだこの忙しさだっ…

常盤新平『遠いアメリカ』を読む

常盤新平『遠いアメリカ』(講談社文庫)を読む。先に読んだ『片隅の人たち』のいわば前編のような連作短編集。「遠いアメリカ」「アル・カポネの父たち」「おふくろとアップル・パイ」「黄色のサマー・ドレス」の4作からなっている。登場人物は共通で翻訳者…

釈徹宗『天才 富永仲基』を読む

釈徹宗『天才 富永仲基』(新潮新書)を読む。副題が「独創の町人学者」とある。富永仲基は、江戸時代17世紀に大阪に醤油醸造業の息子として生まれ、懐徳堂に学んだが、病気のため31歳で亡くなっている。 何冊かの著書があるが、現在まで伝わるのは『出定後…

芥川喜好『バラックの神たちへ』を読む

芥川喜好『バラックの神たちへ』(深夜叢書社)を読む。これはポーラ文化研究所の機関誌『季刊is』に1986年から3年間連載していたもの。14人の日本人画家たちを取り上げている。このころから芥川は読売新聞日曜版の1面に現存の画家を取り上げて紹介する仕事…

和田誠『銀座界隈ドキドキの日々』を読む

1963年の銀座by和田誠 和田誠『銀座界隈ドキドキの日々』(文春文庫)を読む。和田はイラストレーターとして有名だが、最初はライト・パブリシティにデザイナーとして入社する。多摩美在学中に日宣美に応募して1等賞を取った。その頃の日宣美はデザイナーの…

常盤新平『片隅の人たち』を読む

常盤新平『片隅の人たち』(中公文庫)を読む。片隅の人たちとはミステリなどの翻訳者を指している。常盤新平のほとんど自伝を小説にしたようだ。さまざまな変わった翻訳者たちが登場するが、みな別名で書かれていて、私には彼らが実際には誰を指すのか分か…