釈徹宗『天才 富永仲基』を読む

 釈徹宗『天才 富永仲基』(新潮新書)を読む。副題が「独創の町人学者」とある。富永仲基は、江戸時代17世紀に大阪に醤油醸造業の息子として生まれ、懐徳堂に学んだが、病気のため31歳で亡くなっている。

 何冊かの著書があるが、現在まで伝わるのは『出定後語』と『翁の文』、『楽律考』のみ。その『出定後語』は仏教を論じている。富永は仏典を研究し、ほとんどの仏典が釈迦入滅後に説かれたもので、後世の仏教者によって「加上されたものだ」と説いた。加上とは、思想や主張は、それに先行して成立していた思想や主張を足掛かりにして、さらに先行思想を超克しようとすること。

 富永はさまざまな仏典がどのような順序で成立したか、各仏典の用語を研究して推測していく。仏典は当時すべて釈迦が説いたものだとされていたが、富永の主張どおり、現在では原始経典と言われる阿含経典類でも釈迦滅後200~300年以上を経て現在の形に整えられたものであり、大乗仏典は仏滅後500年も経ってから現れたことが分かっている。

 そのことを17世紀に読み解いたのは富永の大きな業績だった。富永の天才を最初に見抜いたのは内藤湖南だった。大正14年の講演で稀代の天才であると紹介している。ほかにも山本七平井上哲次郎中村元などが富永の天才性を高く評価している。

 本書は漢文の『出定後語』の主要部分を、「読み下し」、「現代語訳」、「大意」、そして解説という順で詳しく紹介している。

 富永仲基といえば、私は加藤周一『三題噺』の「仲基後語」で知ったのだった。加藤も富永を高く評価していた。こんな形で富永が紹介されるのは嬉しいことだった。

 

 ・加藤周一の富永仲基評
https://mmpolo.hatenadiary.com/entry/20101031/1288460956

 

天才 富永仲基 独創の町人学者 (新潮新書)

天才 富永仲基 独創の町人学者 (新潮新書)

  • 作者:釈 徹宗
  • 発売日: 2020/09/17
  • メディア: 新書