2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

橋口幸子『こんこん狐に誘われて 田村隆一さんのこと』を読む

橋口幸子『こんこん狐に誘われて 田村隆一さんのこと』(左右社)を読む。橋口夫婦は1980年2月に稲村ケ崎の家に引っ越した。ここの大家は田村隆一の4番目の正妻の和子だった。間もなく和子の恋人で田村隆一の友人である詩人の北村太郎が同じ家に越してきた。…

樹村みのり『冬の蕾』を読む

樹村みのり『冬の蕾』(岩波現代文庫)を読む。副題が「ベアテ・シロタと女性の権利」。岩波現代文庫ながらマンガだ。 ベアテ・シロタは22歳で戦後、アメリカ民政局の日本国憲法草案作成に加わった。ベアテの父はユダヤ系ドイツ人だったが、ピアニストで戦前…

埴谷雄高『酒と戦後派』を読み直す

埴谷雄高『酒と戦後派』(講談社文芸文庫)を読み直す。5年前に読んでブログにも紹介したが、武田泰淳の最後が書かれた「最後の二週間」が読みたくて手に取り結局全部読み直した。素晴らしい本だ。埴谷雄高全集から文学者たちとの交友録を編集してくれた講談…

日本橋高島屋美術画廊Xの重野克明新作銅版画展「ダダダ、」を見る

日本橋高島屋6階美術画廊Xで重野克明新作銅版画展「ダダダ、」が開かれている(2月8日まで)。重野は1975年千葉市生まれ、2003年に東京藝術大学大学院修士課程美術研究版画専攻を修了している。主に77ギャラリーで個展を開いているが、ここ高島屋美術画廊X…

石田千『窓辺のこと』を読む

石田千『窓辺のこと』(港の人)を読む。朝日新聞の「書評委員が選ぶ『今年(2020年)の3冊』」に須藤靖が取り上げていた。 『窓辺のこと』(石田千著、港の人・1980円) 初回の書評で取り上げたかったものの、出版後2カ月以内の原則に抵触して断念した。先…

清水邦夫の幻の芝居『ひばり』について

私は木冬社の芝居が好きだった。木冬社は劇作家の清水邦夫が主宰していた。初期の頃はしばしば蜷川幸雄が演出を担当していた。私が今まで見た芝居で最も高く評価するのは、『タンゴ、冬の終わりに』の初演で、清水邦夫脚本、蜷川幸雄演出、朝倉摂舞台美術だ…

藤井青銅『「日本の伝統」の正体』を読む

藤井青銅『「日本の伝統」の正体』(新潮文庫)を読む。著者は作家・脚本家・放送作家とある。仕事柄時代考証など随分していたのだろう。5年前に柏書房から出版されたものを新潮文庫から発行するのは単行本がベストセラーだったのだろう。 こんなものが「日…

ジョン・ル・カレの評価

先月イギリスのスパイ小説作家ジョン・ル・カレが89歳で亡くなった。松浦寿輝が「追悼ジョン・ル・カレ」を発表した(朝日新聞2021年1月16日)。 松浦はイギリス「純文学」界の雄であるイアン・マキューアンの言葉を引く。「ル・カレの小説になぜブッカー賞…

野見山暁治『どうにもアトリエ日記』を読む

野見山暁治『どうにもアトリエ日記』(生活の友社)を読む。本書は2017年3月から2020年4月までの3年2か月分の日記が収録されている。『アトリエ日記』シリーズは、第1巻が2003年9月から始まっている。単行本にまとめられたのは、『アトリエ日記』『続アトリ…

武田花写真集『眠そうな町』を見る

武田百合子『富士日記』を読んだので、その娘の武田花写真集『眠そうな町』(アイピーシー)を見る。武田花は写真展「眠そうな町」で木村伊兵衛賞を受賞している。 あとがきで、「1987年春から約2年半、浅草から東武伊勢崎線、更に乗り換えて、佐野線、桐生…

武田百合子『富士日記』全3巻を読む

武田百合子『富士日記』全3巻(中公文庫)を読む。 武田泰淳は昭和38年に山梨県鳴沢村に500坪の土地を借り、そこに別荘=山荘を建てる。山荘名はいろいろ呼んでいたが、表札は武田山荘としていた。昭和39年の晩春あたりから東京と山梨を妻の百合子の運転する…

酒井忠康『美術の森の番人たち』を読む

酒井忠康『美術の森の番人たち』(求龍堂)を読む。世田谷美術館長酒井が、36人の美術関係者を描いている。美術関係者というのは、美術館の学芸員や館長、美術批評家、画廊主らだが、神奈川県立近代美術館で酒井の上司だった土方定一は他のところで詳しく語…

藤森照信著『藤森照信 建築が人にはたらきかけること』を読む

藤森照信著『藤森照信 建築が人にはたらきかけること』(平凡社)を読む。平凡社の「のこす言葉」というシリーズの1冊。藤森が自分の歴史を語っているとても分かりやすい自伝。 藤森は現茅野市の山間の小さな村に昭和21年に生まれた。そこは小さな扇状地にあ…

松尾亮太『考えるナメクジ』を読む

松尾亮太『考えるナメクジ』(さくら舎)を読む。松尾はナメクジの脳機能の研究者、その長い研究歴から、ナメクジは「論理思考をともなう連合学習」もこなすと断定する。論理思考ができるとは「A=BでB=Cであれば、A=C」といった理屈がわかる、ということです…

日本橋高島屋本館8階ホールの野見山暁治展を見る

東京日本橋高島屋本館8階ホールで「100歳記念 野見山暁治のいま展」が開かれている(1月18日まで)。また6階美術画廊でも野見山暁治個展が開かれ、こちらは小品が並んでいる。 野見山さんは100歳になった。その年でこれだけの大作の新作を並べるのは凄いこ…

読売新聞書評委員が選ぶ2020年の3冊

読売新聞書評委員が選ぶ2020年の3冊が読売新聞に発表された(2020年12月27日付け)。読売新聞の書評委員20人、それによみうり堂店主が3冊ずつあげている。都合63冊だ。そのうち、私が読みたいと思ったのが3冊だった。それを紹介する。 栩木伸明、アイルラン…

原武史『地形の思想史』を読む

原武史『地形の思想史』(角川書店)を読む。面白く読んだが、題名は少し立派過ぎる。ある土地にまつわる歴史を実際に現地を訪ねてある視点からのみ記述している。訪ねた(取り上げた)土地は7カ所。 初めに静岡県浜名湖のプリンス岬を訪ねる。それは地元の…

岡本太郎と長谷川利行の共通点

岡本太郎と長谷川利行の共通点について考えてみたい。私見では二人に共通するものは筆触であると思う。端的に言ってしまえば筆触が汚い。ここに長谷川利行の「水泳場」の一部を掲載したが、先に描いた色が乾かないうちに次の色を重ねている。色は濁り線が確…

小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っている』を読む

小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っている』(春秋社)を読む。面白い読書だった。チョンキンマンションのボスことカラマは香港在住のタンザニア人。安ホテルチョンキンマンションの住人で、中古自動車のブローカーなどをしている。香港のタンザ…

朝日新聞恒例「書評委員が選ぶ『今年の3冊』」から

朝日新聞恒例「書評委員が選ぶ『今年の3冊』」が発表された(2020年12月26日)。書評委員20名がそれぞれ3冊を選んで、都合60冊が並んでいる。その中で興味を惹いたものを紹介してみる。 まず須藤靖。須藤は東京大学大学院物理学専攻教授とある。専門は宇宙物…

謹賀新年

初空やスカイツリーが1のごと 1週間ぶりに自宅へ戻ったらベランダのプランターのスミレが咲いていた。 初春やスミレが2輪咲き誇り