石田千『窓辺のこと』を読む

 石田千『窓辺のこと』(港の人)を読む。朝日新聞の「書評委員が選ぶ『今年(2020年)の3冊』」に須藤靖が取り上げていた。 

『窓辺のこと』(石田千著、港の人・1980円)

初回の書評で取り上げたかったものの、出版後2カ月以内の原則に抵触して断念した。先の見えない時代だからこそ、本書を通じて、この世界を満たしている懐かしさと切なさを思い出してほしい。今年読んだ本の中のイチオシだ。

  須藤は好きな研究者・エッセイストだから迷わず読んだ。タイトルの『窓辺のこと』は共同通信社が地方紙に毎週配信していたエッセイの1年間分をまとめたもの。とても短くて、400字詰め原稿にしたら1回2枚半、本書では2ページ分。だから複雑なことは書き得なくて、しかし毎週上手にまとめている。本書後半部分はあちこちに書いたもので、こちらは長いものは14ページもあるから石田の本領発揮ということになる。

 『すばる』に書いた「珍品堂の腹ぐあい」は井伏鱒二の『珍品堂主人』の書評になっている。石田自身の読書歴から書評へと自然に続けていて、その巧みさに唸らされる。『珍品堂主人』はまだ読んでなかったので、さっそくAmazonへ注文した。

 総じて石田の日常と絡めて、または絡めないで本の世界が語られる。子どもの頃より田舎の親戚から食べものが送られてきた。ササニシキ、大根、芋、柿、りんご、漬け物にあずき、葬式まんじゅう、砂糖をかためたまっかな鯛、南蛮味噌のしそ巻き、鮭の粕漬けやいくらの醤油づけ。そこにいなごの佃煮も入っていた。石田はいなごの佃煮が好物になる。「のちに大草原のローラの物語で、いなごの大発生を読んだとき、もったいない、つくだ煮にしたらいいのにと思った」と書いている。

 これはおそらく翻訳が間違っていて、大発生したのはいなごではなくバッタなのだ。いなごは大発生することはないし、サバクトビバッタは大発生してしばしばアフリカの農業を壊滅的にしている。

 石田は小学校の5年生のとき、林間学校で東北の山に行った。朝晩の食事にいなごの佃煮が出たが、同級生は誰も食べられなかった。石田がぜんぶもらった。

 私もいなごの佃煮は好きで、家で食べたことがある。ある時娘が、父さんてコオロギ好きで食べるよね、と言った。イナゴの佃煮は佃煮の色をしている。すると確かにコオロギの色と似ている。生きている時のイナゴは緑色でコオロギとは全く違う。だいたいイナゴは食べ物で、コオロギは虫なのだ。

 さて、須藤の書評「今年読んだ本の中のイチオシだ」については、疑問を感じざるを得ない。

 

窓辺のこと

窓辺のこと

  • 作者:石田 千
  • 発売日: 2019/12/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)