大栗博司『探求する精神』を読む

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 先週の土曜日の朝日新聞書評欄にほぼ半ページを使った幻冬舎新書の広告が載った。大栗博司『探求する精神』だ。硬い新書の広告としては破格の扱いだ。「朝日新聞」「読売新聞」「中央公論」「サンデー毎日」ほか各紙誌で絶賛!とある。

 その朝日新聞の書評は須藤靖が書いていた(6月19日付け)。

 

 著者はカリフォルニア工科大学教授で世界的な素粒子理論物理学者。前立腺がんが見つかったことを契機に(幸い全快された由)、自分の半生を振り返りながら物理学発展史を織り交ぜつつ、科学を研究する意義を十分に語ってくれた。

 岐阜で生まれ育った著者が子供の頃、名古屋の中日ビル展望レストランから眺めた地平線をもとに地球の大きさを予想したエピソードが冒頭で紹介される。

 これが数学を使って世界を知るという著者の原体験だった。(中略)

 私も数多くの尊敬すべき研究者を知る機会に恵まれてきたが、これほどのスケール感の学者は唯一無二かもしれない。にもかかわらず、本書の記述は著者の信念に裏打ちされた謙虚さに満ちあふれている。基礎科学を目指す若者はぜひ著者に続いてほしい。

 

 私が尊敬する宇宙論・地球系外惑星の専門家で優れたエッセイスト・書評家の須藤が「これほどのスケール感の学者は唯一無二かもしれない」とまで言っている。これは読まねばと手に取った。300ページを超える新書としては大分な本だが、すらすら読めて物理学発展史もよく分かった。各紙誌が絶賛するのもよく分かる。大栗が子供のころから読んできて影響を受けた本も参考文献として83冊列挙されていて、これも参考になる。

 すらすら読める内容から、おそらく大栗の語ったことを編集者が編集したのだろう。執筆に伴う折れ曲がったような文章がないことからもそれが分かる。とても読みやすいから若い人たちに読んでもらいたい。

 唯一気になったのはタイトル。こんな抽象的なタイトルでは普通なかなか心に残らない。