毎日新聞書評委員による2019年この3冊(下)

 毎日新聞の書評欄で「2019 この3冊」(下)として、書評委員に今年のベストを挙げてもらっている(2019年12月15日)。その中から気になったものを拾ってみる。

中村桂子JT生命誌研究館長)

『進化の意外な順序 感情、意識、創造性と文化の起源』アントニオ・ダマシオ著、高橋洋訳(白揚社・3300円)
本書は神経科学者が心を深化の過程で人間だけに具わった特別な脳のはたらきとしてではなく、原初の生命体からの連続性の中で捉える。自然と神経系の協調から生れる心が人間性の現れなのである。
チョムスキーと言語脳科学酒井邦嘉著(集英社インターナショナル新書・946円)
本書は人間の脳には生れつき言葉の秩序が備わっていると考え、脳内に「文法装置」を見出す。その装置から、文に木構造、階層性、再帰性の存在を実証。言語の本質を探る確実な第一歩である。

 

進化の意外な順序ー感情、意識、創造性と文化の起源

進化の意外な順序ー感情、意識、創造性と文化の起源

 

 

 

チョムスキーと言語脳科学 (インターナショナル新書)
 

 

橋本大三郎(社会学者)

社会学史』大澤真幸著(講談社現代新書・1540円)
大澤真幸氏の『社会学史』は新書3冊分はあろうか。社会学入門書の枠を破り、偉大な社会学者らに内在し、彼らめいめいの独創の秘密を解き明かす。世界的にも稀れな業績である。社会学を学ぼうかという初学者もベテランの読書家も、重宝するに違いない。
『マンガ哲学辞典』橋本治著(河出書房新社・1650円)
橋本治氏の『マンガ哲学辞典』は天才の規格外れな傑作だ。子どもが大人になり、社会を生きるとはどういうことか、厳しく赤裸々な真実が描かれる。特に女性は「女」という着ぐるみをかぶるの図は、強烈なインパクトがある。
『9条入門』加藤典洋樗(創元社・1650円)
加藤典洋氏の『9条入門』。護憲/改憲の不毛な対立を乗り越える、圧倒的な実証の書だ。戦後日本の舞台裏を、緻密な考察で再構成。国際政治の現実と理想主義とを踏まえ、国連中心主義を遠望する。後世に残る、重大な達成である。

 

社会学史 (講談社現代新書)

社会学史 (講談社現代新書)

 

 

 

マンガ哲学辞典

マンガ哲学辞典

 

 

 

9条入門 (「戦後再発見」双書8)

9条入門 (「戦後再発見」双書8)

 

 

藻谷浩介(株式会社日本総合研究所主席研究員)

『負動産時代 マイナス価格となる家と土地』朝日新聞取材班樗(朝日新書・891円)
弥生時代以来の「人口増加→土地需給の逼迫」の定式は崩れた。調査ジャーナリズムの鑑たる本書は、不動産の価値はどうなるのか、対処策はあるのかを、足で取材した国内外の無数の事例で示す。全ての不動産所有者必読の書だ。

 

負動産時代 マイナス価格となる家と土地 (朝日新書)

負動産時代 マイナス価格となる家と土地 (朝日新書)

 

 

山崎正和(劇作家)

『美学への招待 増補版』佐々木健一著(中公新書・1100円)
藝術は部9分の刻苦勉励と、1分のひらめきがあって成就する。それを研究する美学者も、9分の博覧強記と1分のひらめきがあって大成する。新書版ながら、そのことを如実に示す著者畢生の大著。

 

美学への招待 増補版 (中公新書)

美学への招待 増補版 (中公新書)

 

 

養老孟司(解剖学者)

『なぜ世界は存在しないのか』マルクス・ガブリエル著、清水一浩訳(講談社選書メチエ・2035円)
マルクス・ガブリエルは『「私」は脳ではない』(講談社選書メチエ)と合わせて読むべきであろう。SNSの時代になって、古典を自由に、つまり無料で読めるようになった時に、若手の哲学者がなにを考えるのか。私のように古い教育を受けた世代には、そこがなんとも興味深い。

 

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)

 

 

渡邊十絲子(詩人)

『新訳 夢判断』フロイト樗、大平健編訳(新潮モダン・クラシックス・2750円)
むかし『夢判断』を読んだが「わかった」という手ごたえがなかった人はぜひ読んでみてほしい。ぐいぐい読めてどんどんわかる。精神医学の専門医が、古めかしい名著を、現代を生きるわれわれの日常語に変身させてくれた。待ってました。

 

 

新訳 夢判断 (新潮モダン・クラシックス)

新訳 夢判断 (新潮モダン・クラシックス)

  • 作者:フロイト
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/04/25
  • メディア: 単行本