2010-08-01から1ヶ月間の記事一覧

駒井哲郎の樹々の絵の秘密

ちょっと古いけど筐底から出てきたニュースレターに興味深いことが書かれているので紹介したい。ギャラリーアポロが発行している「APOLLO MEDIATE」に秋山修さんが書かれている「駒井哲郎考」から(平成17年5月1日号)。 ……駒井哲郎の作品はその殆どが抽象…

小川洋子の「沈黙博物館」を読んで

毎日新聞のコラム「この人・この3冊」で湯川豊が小川洋子のベスト3冊を選んでいる(8月1日)。湯川豊は筒井康隆の「文学のレッスン」でインタビューアーを勤めた文芸評論家、文学の読みでは確かな人だ。湯川は小川洋子の次の3冊を選んだ。 1.ミーナの…

東京オペラシティアートギャラリーの所蔵品展

新宿初台にある東京オペラシティアートギャラリーの所蔵品展がすばらしい。現在「幻想の回廊」と題した所蔵品展が行われている(10月3日まで)。その前は「ジオメトリック・イメージズ」と題して幾何学的な抽象を展示した所蔵品展だった。所蔵品展でありな…

山本弘の作品解説(38)「母子」

山本弘「母子」油彩、F10号(53.0cm×45.5cm) 1976年制作。おそらく1976年9月の飯田市勤労福祉センターでの個展で発表された。この時山本弘46歳、この「母子」の子のモデルである娘の湘ちゃんは5歳だった。山本は前年にアルコール中毒治療のため飯田病院精…

銀座松坂屋の版画即売会

銀座松坂屋の別館4階美術画廊で「期末特別版画即売会」が開かれている(8月31日まで)。 出品されている主な作家とその作品の値段。 千住博「ウォーターフォール」(リトグラフ)700,000円(150枚) 東山魁夷(木版画)63,000円(250枚) 杉山寧(リトグラ…

晶文社創立50周年

晶文社が創立50周年を迎えたと大きな新聞広告を出していた。大きなとはいえ、朝日新聞の全5段。これはその一部だ。 晶文社の本が好きだった。書店で犀のマークを見ると手に取らずにいられなかった。佐藤信の「あたしのビートルズ」「嗚呼鼠小僧次郎吉」「安…

蛇を殺した塩卵とはなんだろう?

朝日新聞2010年8月23日朝刊の「歌壇」から、馬場あき子選の短歌。作者は浜松市の仲村正男という人。 父が仕掛けし塩卵呑みし青大将見事果ており鶏小屋に 青大将に鶏の産む卵を何度も盗られたのだろう。それで父が「塩卵」を仕掛け見事青大将を退治すること…

バーネット・ニューマン展が開かれる、見なければ!

9月4日から千葉県の川村記念美術館でバーネット・ニューマン展が開かれる(12月12日まで)。私はバーネット・ニューマンは第1回目のNICAFで1点見たにすぎない。これはぜひ出かけていかなければならない。なぜか? 戦後世界を席巻した美術運動にアメリカ…

三浦友理枝ピアノ・リサイタルのチケットが完売

9月7日に開かれる三浦友理枝ピアノ・リサイタルのチケットが半月以上前に完売してしまった。このリサイタルは「バッハからコンテンポラリーへ」というシリーズの一つ。コンテンポラリー=現代音楽には客が付かないと思い込んでいたので、チケットを買うの…

高額のバイト料は何だろう

新宿2丁目にあるフリーアートスペース ポルトリブレへ時々個展などを見に行っている。先日の土曜日にも行ったが、少し時間があったので近所を歩いてみた。もっとずっと離れた場所にあると思っていた写真専門のギャラリー、フォトグラファーズ・ギャラリーが…

山本弘の作品解説(37)「落陽」

山本弘「落陽」油彩、F12号(60.6cm×50.0cm) 制作年取り敢えず不明。落陽とは落日の意。右から左下へ続く茶色の太い線が飯田市民なら誰でも即分かる風越山の稜線を示している。秋の陽だろうか、風越山の向こうに日が沈んでいく。山本弘が住んでいた旧上郷町…

ニホンカワウソは絶滅した?

朝日新聞8月19日夕刊の「環境エコロジー」の「希少種2」でニホンカワウソのことが話題にされている。 ニホンカワウソは、明治期の中ごろまで全国の河川でみられた。だが、毛皮目的で乱獲され激減。細々と残った四国でも、毛などの生存の確たる証拠があるの…

山本弘の作品解説(36)「旅装」

山本弘「旅装」油彩、F20号(72.7cm×60.6cm) 1977年制作。1977年4〜5月または1978年1月のいずれかの飯田市中央公民館での個展で発表されたと思われる。詳細は不明。 タイトル通り旅支度の男の絵、片膝建てて座っているように見える。あるいは胡座を組んで…

「伊丹万作エッセイ集」を読む

大江健三郎編「伊丹万作エッセイ集」(ちくま学芸文庫)を読む。伊丹万作は戦前の映画監督で大江には義父にあたり、伊丹十三の父である。内容はもっぱら映画制作に関するものが多い。しかし「戦争責任者の問題」と題するエッセイは厳しく鋭い。 さて本書全体…

練馬区立美術館の中村宏展

練馬区立美術館で中村宏展「タブロオ・マシン[ 図画構成] 中村宏の絵画と模型」が開かれている(9月5日まで)。 中村宏は1932年静岡県浜松市生まれ。初めルポルタージュ絵画という社会的な絵画を描く。砂川闘争を描いた名作が作られた。それはリアリズムと…

T. S. エリオット『荒地』が文庫化される

T. S. エリオット『荒地』がやっと文庫化される。岩波文庫から8月19日に発売されるという。岩崎宗治訳、定価882円。岩波書店の紹介文より。 「四月は最も残酷な月……」と始まる『荒地』は、20世紀モダニズム詩の金字塔である。本書には、『ブルーフロックそ…

美術作品が古びること

湯川豊が聞き手になって丸谷才一が語った「文学のレッスン」(新潮社)が面白かったことは以前ここに書いた(id:mmpolo:20100730)。本書の「批評」についての章から……。 湯川豊 日本のこの分野、文学史的批評の代表というと……。 丸谷才一 まず頭に浮かぶの…

13日の金曜日

昨日は13日の金曜日だった。13日の金曜日というといつも従兄を思い出す。あれは私が高校3年の時だったろうか。東京都の地方公務員の試験を受けるために東京の従兄の家に泊めてもらった。従兄は4歳上でまだ大学生だった。従兄が、お袋が癌で亡くなった日は1…

「履歴書は手書きで」の不可解さ?

8月12日の朝日新聞投書欄に「『履歴書は手書きで』の不可解さ」と題する投書が載った。投稿者は47歳、無職の男性。 世の中不景気と言われ続ける中、6月に体調を崩して退職し、現在、就職活動中の身です。工場の作業者として自分なりにがんばってきたつもり…

無煙・無臭の線香の広告「火のあるところに煙がたたない」

お盆が近い先週の日曜日、読売新聞にカメヤマの線香のカラーの全面広告が掲載された。ヘッドコピーが「火のあるところに煙がたたない」とあり、ボディコピーが次のように書かれている。 お線香の煙が服につく。部屋にいるとにおいが気になる。 そんな経験さ…

秋月リス「OL進化論」で知ったOLたちの不思議な思考

もう10年以上前になるだろうか。娘が愛読していた秋月リスの4コマ漫画「OL進化論」をときどき見せてもらっていた。OLたちの思いがけない思考が面白かった。それらのなかで今でも一番印象に残っているのは、普段から憧れていた男性より急にデートを誘われた…

山本弘の作品解説(35)「芝塀」

山本弘「芝塀」油彩、F10号(53.0cm×45.5cm) 1978年制作。1978年10月の飯田市中央公民館での個展で発表された。題名の芝塀は柴塀の意味だろう。「お爺さんは山へ柴刈りに」のあの柴だ。飯田地方ではしばしばこの柴で家の周りに塀を作っていた。それを描いて…

「歩いて見た太平洋戦争の島々」をぜひ読んでほしい

安島太佳由「歩いて見た太平洋戦争の島々」(岩波ジュニア新書)をぜひ読んでほしい。安島は硫黄島を2回訪れ、太平洋戦争の戦跡を撮影する。そして、その後太平洋戦争の激戦地だった島々を訪ね歩き、戦跡の写真を撮る旅を始める。硫黄島のあと訪ねて本書で…

きわめてユニークな写真家・森岡純写真展

森岡純写真展がアスクエア神田ギャラリーで開かれている(13日まで)。 森岡純は1949年島根県隠岐島生まれ。個展は30年ほど前に駒井画廊でやり、ついで神田の田村画廊で2回やって、その後10年ほど発表をしなかった。20年ほど前から銀座のギャラリー檜で毎年…

狩野博幸「若冲」は若冲に関するとても良い入門書だ、加えて佐藤康宏の若冲のニセモノ論

狩野博幸「若冲」(角川文庫)は若冲に関するとても良い入門書だ。若冲の伝記はおおむねこれに網羅されていると言っていいだろう。加えて代表的な作品を解説し、若冲の見どころが分かるようになっている。特に「若冲畢生の花鳥画シリーズというより、日本絵…

山口晃のみごとな描写力

東大出版会のPR誌「UP」2010年2月号に掲載された山口晃の連載マンガ「すヾしろ日記」第59回に、山口がカラオケを歌ったことが描かれている。 日ごろ目をかけて下さる先生や小学館の方と、これまた美味しいお寿司屋で。 * そのままスナックでカラオケ。「あ…

山本弘の作品解説(34)「過疎の村」

山本弘「過疎の村」油彩、F10号(53.0cm×45.5cm) 1978年制作。1978年10月の飯田市中央公民館での個展で発表された。結局この個展が生前最後の個展になった。 以前紹介した「山本弘の作品解説(20)『過疎の村』」(id:mmpolo:20090103)と同一のモチーフを…

「生き方の不平等」と可能意識

白波瀬佐和子「生き方の不平等」(岩波新書)は、現代日本の格差、不平等、貧困の問題を、子ども、若者、男女、高齢者のそれぞれに即して分析している。自分がその当事者であるにも関わらず、そのような問題を初めて考えさせられた。しかし、ここに興味深い…

山口晃「すヾしろ日記」の隅をつついた

山口晃が東京大学出版会のPR誌「UP」に2005年4月号から「すヾしろ日記」というマンガを連載している。A5判の小さな雑誌に毎月1ページ28コマを描いている。画家の日常を虚実取り混ぜて描いているらしい。主な登場人物は画家とその奥さんだ。連載は今も続い…

新宿眼科画廊の関川沙織展が良かった

新宿眼科画廊は新宿5丁目にある。ここは新宿ゴールデン街の近くで、靖国通りから抜ける「四季の道」の出口からすぐのところにある。四季の道とはあまりに文学的な名前だが、ここは昔都電の走っていた線路跡で、植え込みに囲われた昼間でも薄暗い歩道だ。新…