13日の金曜日

 昨日は13日の金曜日だった。13日の金曜日というといつも従兄を思い出す。あれは私が高校3年の時だったろうか。東京都の地方公務員の試験を受けるために東京の従兄の家に泊めてもらった。従兄は4歳上でまだ大学生だった。従兄が、お袋が癌で亡くなった日は13日の金曜日だったと話してくれた。従兄はその時高校1年だった。それから13日の金曜日は一度もないと従兄は断言した。それが正しくないことを私は指摘した。毎年1、2回はあるのだと。
 癌で亡くなった伯母は父の姉だった。父は男一人で姉が一人妹が二人いた。兄弟姉妹で伯母が一番優秀な人だった。癌が発見された後、祖父がノキシノブを採集してはそれを乾燥させては伯母のもとへ送っていた。普段愛情らしきものを片鱗も見せないと、幼かった私が思っていた祖父の意外な一面だった。祖父によれば、ノキシノブを煎じて飲めば癌に効果があるとのことだった。だが、伯父は医者であり送られたノキシノブはおそらく処方されることはなかったに違いない。
 その癌は放射線治療にも関わらず転移して伯母は亡くなった。その日が13日の金曜日だったという。従兄はまだ高校1年生だった。どんなに衝撃的だったのだろう。あれから二度と13日の金曜日がなかったと信じていたことでそれが察しられる。
 受験の前夜、従兄の部屋に泊めてもらった。押入にサントリーホワイトの空き瓶が数十本隠されていた。オヤジがうるさいんだ。