駒井哲郎の樹々の絵の秘密


 ちょっと古いけど筐底から出てきたニュースレターに興味深いことが書かれているので紹介したい。ギャラリーアポロが発行している「APOLLO MEDIATE」に秋山修さんが書かれている「駒井哲郎考」から(平成17年5月1日号)。

……駒井哲郎の作品はその殆どが抽象的な世界を描いたものが多いんだけれど、例外的に極めてリアルな表現で樹々を描いたものがある。全部で30点くらいだったと思う。
 かつてぼくがプリントアートセンターの魚津さんから買ったのもその中の1枚である。前からそのことを不思議に思っていたんだけれど、そのことが最近暫く、自分の中でわかってきた。
 それは驚くことに、駒井哲郎とある女性のデートの現場の風景の樹々だったに違いないとぼくは確信するに至ったのである。駒井哲郎には芸大の大学時代から好きな女性が居た。このことは『若き日の手紙』美術出版社1999年にも書かれている。この女性は駒井哲夫より9才年上で、美貌の持ち主で富裕な家庭の婦人で、教養が高く、ヨーロッパの芸術思潮や芸術思想にも深い理解を示していた。
 この女性は洋館に住んでいた。場所は有栖川公園の高台にあった。駒井哲郎はしばしばこの洋館を訪れ、恐らく婦人から様々な影響を受けていた。駒井哲郎とその婦人はしばしば、洋館の近くの有栖川公園一帯の樹々の間を散歩したに違いない。
 駒井哲郎の『樹々』の作品はその女性との思い出の心に残ったリアルな表現だったのである。

 とても説得力のあるいい指摘だと思う。あの樹々は都立中央図書館のある有栖川公園の樹木だった、個人的な思い入れのある作品だった。駒井のこれらの作品の持つ違和感に疑問を持っていたので、そういうことかと納得したのだった。