
来週月曜日10月13日から東京京橋のギャラリー檜Cで山本弘展が始まる。これは私の企画によるもので、今回の目玉は「種畜場」(30号)という作品である。さて何が描かれているのか。
山本はこれを描き上げたとき、家族に説明して、早朝いつものように近所に散歩に出たとき、種畜場を通りかかった。種畜場というのは村営の施設で牛などの種付けをするところだった。種付け=交尾である。季節は晩秋。飯田地方は天竜川が北から南へ流れている。伊那谷ということで晩秋は深い霧があたり一面に降りている。霧の深い朝は視界が10メートルに達しないほどだ。
山本が種畜場のそばを通りかかった時も霧が深かった。霧を通して種畜場にいる乳牛がかすかに見えた。乳牛は霧の向こうにぼうっと霞んでいた。その情景を描いたのがこの「種畜場」だ。
白~薄黄色の画面の中にぼんやりした薄黒い楕円が浮かんでいる。どうやらこれが乳牛のまだら模様のようだ。しかし、よく見ると細い線描で牛が描かれているのが分かるのだ。牛は左側面を見せて画面いっぱいに左向きに立っている。そして真後ろを振り返って右顔を見せている。これは指摘されなければ分からなかった。
画面全体は白で塗られ、その白が輝いている。白いのはまさに霧なのだ。山本は霧の中にかすかに浮かぶ乳牛を描いている。霧に包まれた乳牛をかすかに見えるように描いたのはある意味リアルである。
おそらく山本が描こうと思ったのは、実は霧そのものだったのだろう。霧を描くために霧に閉ざされた牛を描いたのだ。
以前にも山本は「芝塀」という作品を描いている。昔農家の塀に柴を束ねて家の周りに立てた「柴塀」があった。金太郎のおじいさんが柴刈りに行ったあの柴だ。細い木の枝を何重にも束ねて塀にしていた。細い枝の重なりなのでほとんど絵にはなりにくい。それを見事な作品にしていた。また降っている雨を描いた絵もあった。山本は元来描きづらいものを描くことに挑戦しているかのようだった。
ぜひ画廊に足を運んで山本弘の「孤高の天才」ぶりを実見してほしい。
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山本弘遺作展
2025年10月13日(月・祝)-10月18日(土)
11:30-19:00(最終日は17:00まで)
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ギャラリー檜C
東京都中央区京橋3-9-9 ウィンド京橋ビル2F
電話03-6228-6361