ミステリ

小森収インタビュー集『はじめて話すけど……』を読む

小森収インタビュー集『はじめて話すけど……』(草原推理文庫)を読む。小森収が8人の作家や編集者たちにインタビューしたもの。明確なテーマを決めて、そのテーマに絞ってインタビューしている。各務三郎は早川書房の『ミステリマガジン』の編集長だった。…

松本清張『美術ミステリ』を読む

松本清張『美術ミステリ』(双葉文庫)を読む。清張の美術に関するミステリの短篇を集めている。「真贋の森」「青のある断層」「美の虚像」「与えられた生」の4篇。 「真贋の森」はなるほど良く出来ている。浦上玉堂の贋作を作る話。古美術の学者と骨董屋、…

ウィリアム・アイリッシュ『夜は千の目を持つ』を読む

小曽根真の初期のアルバム『スプリング・イズ・ヒア』を持っている。小曽根は好きなジャズ・ピアニストだが、このアルバムが一番好きだ。中に「夜は千の目を持つ」が入っている。コルトレーンやソニー・ロリンズも演奏しているジャズのスタンダード・ナンバ…

ジョン・ル・カレが亡くなった!

イギリスのスパイ小説作家ジョン・ル・カレが12月12日夜、亡くなった。89歳だった。ル・カレは『寒い国から帰ったスパイ』で大成功を収め、その後、のちにスマイリー3部作と呼ばれる連作『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』『スクールボーイ閣下』…

西村京太郎『華麗なる誘拐』を読む

西村京太郎『華麗なる誘拐』(河出文庫)を読む。なんだか新聞の書評などで大変評判がよく、それでつい手に取った。巻末に簡単な書誌が載っていて、1977年にトクマ・ノベルズ、1982年に徳間文庫、1987年に講談社の西村京太郎推理選集、1995年に講談社文庫、2…

ジョン・ル・カレ『スパイたちの遺産』を読む

ジョン・ル・カレ『スパイたちの遺産』(早川書房)を読む。すばらしい! ジョン・ル・カレは『寒い国から帰ってきたスパイ』で圧倒的な評価を得、ついで『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』と『スクールボーイ閣下』、『スマイリーと仲間たち』の…

ウィングフィールド『フロスト始末(上・下)』を読む

ウィングフィールド『フロスト始末(上・下)』(創元推理文庫)を読む。最初の『クリスマスのフロスト』以来6冊目。毎回このミスや週刊文春でミステリー1位に輝いてきたフロストシリーズもこれで終わりとなる。作者のウィングフィールドが2007年に亡くなっ…

ジョン・ル・カレ『地下道の鳩』を読む

ジョン・ル・カレ『地下道の鳩』(早川書房)を読む。副題が「ジョン・ル・カレ回想録」で、『寒い国から帰ったスパイ』や『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』、『パーフェクト・スパイ』などで著名なイギリスのスパイ小説作家の回想録だ。楽しみ…

このミス大賞『神の値段』を読む

2016年の「このミステリーがすごい!」大賞受賞作の一色さゆり『神の値段』(宝島社)を読む。父さん珍しいねえ、ライトノベルのようなのを読んでいてと娘が言う。本のカバーがそんな印象を与えたらしい。このミスの大賞では以前読んだ作品で懲りていたのだ…

フィリップ・カー『変わらざるもの』を読む

フィリップ・カー『変わらざるもの』(PHP文芸文庫)を読む。重量級の傑作ミステリだ。カーはイギリスのミステリ作家。デビュー作は『偽りの街』だった。第2次世界大戦直後のドイツが舞台となっている。主人公のベルンハルト・グンターは戦時中ドイツの親衛…

C. ブランド『薔薇の輪』を読む

クリスチアナ・ブランド『薔薇の輪』(創元推理文庫)を読む。英国推理作家協会の会長も務めたことのあるベテラン作家とのこと。私は初めて読んだ。昨年毎日新聞に若島正が書評を書いていた(2015年7月5日)。 このミステリの中心にいる(ように見える)のは…

連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』を読んで

連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』(徳間文庫)を読む。連城が2013年に亡くなったとき、ミステリ作家の綾辻行人が朝日新聞に追悼文を書いた(2013年10月29日夕刊)。 美文で男女の機微を描く恋愛小説の書き手というイメージが一般に定着していますが、連城作…

トマス・フラナガン『アデスタを吹く冷たい風』を読む

トマス・フラナガン『アデスタを吹く冷たい風』(ハヤカワ文庫)を読む。本書はもともと1961年にハヤカワ・ミステリから刊行され、長く絶版になっていたものらしい。その復刊希望アンケートで、1998年(ハヤカワ・ミステリ45周年記念)と2003年(50周年記念…

『ママはなんでも知っている』を読んで

ジェイムズ・ヤッフェ『ママはなんでも知っている』(ハヤカワ文庫)を読む。8篇を集めた連作短篇集。ニューヨーク市警の殺人課に勤めるデイビッド刑事が、毎週金曜日妻を連れて母親ママを訪ねて夕食を共にする。そのとき、捜査中の事件を息子に話させ、夕…

グレアム・グリーンのエンターテインメントを読む

グレアム・グリーン全集5『拳銃売ります』と同全集11『第三の男/落ちた偶像/負けた者がみな貰う』(早川書房)を続けて読む。 グリーンは自分の小説を「本格小説」と「娯楽小説」に分けている。前者が『情事の終わり』や『権力と栄光』『事件の核心』など…

『その女アレックス』に圧倒される

ミステリ好きの友人がピエール・ルメートル『その女アレックス』(文春文庫)を面白いからと貸してくれた。帯の惹句を読むと、「1位全制覇。史上初の6冠」と謳っている。その6冠を具体的に見ると、 「このミステリーがすごい! 2015年版」(宝島社) 「週…

スパイ小説『ケンブリッジ・シックス』を読む

チャールズ・カミング『ケンブリッジ・シックス』(ハヤカワ文庫)を読む。20世紀後半、イギリスの秘密情報部MI6やMI5にソ連のスパイが入り込んでいた。キム・フィルビー、アンソニー・ブラント、ガイ・バージェス、ドナルド・マクリーン、ジョン・ケアンク…

インゴウルフソン『フラテイの暗号』を読む

アイスランドの作家インゴウルフソンの『フラテイの暗号』(創元推理文庫)を読む。アイスランドはアイスランド語が使われていて、本書もその言葉で書かれている。それがドイツ語に翻訳され、訳者の北川和江はドイツ語から訳している。 アイスランドには『フ…

『ミステリマガジン700【海外篇】』を読む

杉江松恋・編『ミステリマガジン700【海外篇】』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読む。副題が「創刊700号記念アンソロジー」で、早川書房のミステリ雑誌『ミステリマガジン』の創刊700号を記念した傑作短篇集という優れもの、と思って読んでみた。 1956年に『…

東野圭吾『疾風ロンド』を読む

東野圭吾『疾風ロンド』(実業之日本社文庫)を読む。昨年11月17日の朝日新聞朝刊に本書の全面広告が載った。冒頭の写真がそれだが、そのコピーが、 まさかの文庫書き下ろし!! こんなに面白くなるとは! 自分でも驚き 東野圭吾 「いきなり文庫」で107万部!! …

泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』を読む

泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』(創元推理文庫)を読む。ミステリ作家泡坂妻夫のデビュー作という。泡坂の造形した探偵が亜愛一郎だ。姓が「亜」という変わったもの。専門の探偵ではない。いつもたまたま事件の現場に居合わせ、刑事たちには分からない見事な推…

『冬のフロスト』が絶品だった

R・D・ウィングフィールド『冬のフロスト(上)(下)』(創元推理文庫)を読む。フロストシリーズ第5弾、デントン警察署のジャック・フロスト警部を主人公にしたミステリ。上下2巻、あわせて1,000ページ近い長篇。滅法面白く読んだ。フロスト警部シリー…

瀬戸川猛資『夢想の研究』を再読した

瀬戸川猛資『夢想の研究』(創元ライブラリ)を再読した。これは先に紹介した瀬戸川の『夜明けの睡魔』(創元ライブラリ)の姉妹書。「睡魔」がミステリを扱っていたのに、本書は副題が「活字と映像の想像力」というように、映画とミステリを「クロスオーバ…

瀬戸川猛資『夜明けの睡魔』を読み返す

瀬戸川猛資『夜明けの睡魔』(創元ライブラリ)を読み返す。前回読んだのが2000年だったから13年ぶりの再読になる。この文庫版が出たのが1999年5月で、瀬戸川はその2カ月前に亡くなってしまった。 本書は1980年ころに『ミステリマガジン』に連載された海外…

『二流小説家』を面白く読む、しかし

デイヴィッド・ゴードン『二流小説家』(ハヤカワ文庫)を面白く読む。『ミステリが読みたい!』『このミステリーがすごい!』『週刊文春ミステリーベスト10』のいずれも海外部門で1位を獲得したという評判の高いもの。 タイトルの由来は、主人公の作家がそ…

「書物シリーズ」第6弾『書物審問』を読む

赤城毅『書物審問』(講談社ノベルズ)を読む。「書物シリーズ」の第6弾という。これを読んだのは、昨年末の毎日新聞の「今年の3冊」という企画で、加藤陽子が本書を挙げていたからだ。ほかの2冊は松本三和夫『科学技術に潜む危機』(岩波新書)と沢井実…

毎日新聞の「この3冊」がル・カレ

先週(12月16日)の毎日新聞の書評欄のコラム「この3冊」がジョン・ル・カレだった。選んでいるのが池澤夏樹。さて何を選んだのか? 1.『スマイリーと仲間たち』(村上博基訳/ハヤカワ文庫/1470円) 2.『リトル・ドラマー・ガール』(村上博基訳/ハ…

アイスランドのミステリ『湿地』を読む

アイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソンのミステリ『湿地』(東京創元社)を読む。帯とか新聞の書評とか、魅力的なようなのだ。まず、その帯の惹句から、 ガラスの鍵賞2年連続受賞、CWAゴールドダガー賞受賞、いま世界のミステリ読者が最も注目…

ドイツのミステリ『深い疵』がおもしろかった

ドイツの作家ネレ・ノイハウスのミステリ『深い疵(きず)』(創元推理文庫)がおもしろかった。ドイツで累計200万部突破の警察小説シリーズとのこと。裏表紙の紹介より、 ホロコーストを生き残り、アメリカ大統領顧問をつとめた著名なユダヤ人が射殺された…

映画『裏切りのサーカス』と『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』

映画『裏切りのサーカス』を見た。監督がトーマス・アルフレッドソン、主演がゲイリー・オールドマンだ。映画館のホームページにリピーターが多いと書かれていた。また、ちらしにこんなことが書かれている。 ※本作に限り、ストーリー、人物相関図などを、あ…