松本清張『美術ミステリ』を読む

 松本清張『美術ミステリ』(双葉文庫)を読む。清張の美術に関するミステリの短篇を集めている。「真贋の森」「青のある断層」「美の虚像」「与えられた生」の4篇。

 「真贋の森」はなるほど良く出来ている。浦上玉堂の贋作を作る話。古美術の学者と骨董屋、それに売れない絵描きがが組んで玉堂の贋作を作り、大々的に売り込む話だ。清張が骨董の世界に通じていることが良く分かる。

 「青のある断層」はスランプに陥った大家に近い画家に、素朴な画家の絵を参考にさせて復活させる話。いや、そんなに簡単にスランプを脱出できるだろうか。

 「美の虚像」は亡くなった西洋美術評論界のボスが、若い頃愛人のために金が必要で贋作に手を染めたという話。それで思い出すのが、ある画商(故人)が、某公立美術館に絵を納入しようとして、見積もりに館長へのリベートを計上しなかったためにその取引が破棄されたと語っていたこと。某美術館長も美術業界に影響力の大きな人だった。やはり愛人がいたのだろうか?

 「与えられた生」は主人公が画家というだけで、ミステリとはあまり関係ない。むしろ男と女の話で、そういうジャンルは清張には荷が重いという印象だった。清張をそれほど読んでいないが、恋愛ものとか、男女の愛の縺れなどはそんなに多くは書いていないのではないか。構成も心理描写もイマイチだと思う。

 まあ、「真贋の森」を読んだことで良しとしよう。