ユクスキュル『生物から見た世界』(岩波文庫)を読む。1973年に思索社版が出て、生態学では必読とされた。読もう読もうと思っていたのに今まで読んでいなかった。2005年に岩波文庫版が出て、それから20年経ってようやく読んだことになる。
冒頭マダニの生態が紹介される。マダニのメスは交尾を終えると適当な灌木の枝先までよじのぼる。長期間待って哺乳類が通りかかった時、その皮膚腺から漂い出る酪酸の匂いに反応して獲物の接近を知り、温度感覚が教えてくれる温血動物の上に落ちる。獲物の皮膚組織に頭から食い込みマダニは血液を吸う。十分な吸血後マダニは地面に落ちて産卵し死ぬ。
ダニは獲物が通りかかるまで食物なしで長期間生き延びることができる。18年生き延びたという記録がある。ダニと人間の世界は全く異なっていることが分かる。人間にとっての世界=部屋とイヌにとっての部屋とハエにとっての部屋の違いを図示している。人間にとってテーブルと椅子、テーブルの上の皿とグラス、ソファ、本棚、照明器具などはそれぞれ十分な意味を持っているが、イヌにとってはテーブルの上の皿とグラス、椅子とソファくらいしか興味がなく、ハエにとっては、皿とグラスと照明器具のほかは意味がなく認識の対象とならない。
(右下:人にとっての部屋、左上:イヌにとっての部屋、左下:ハエにとっての部屋)
生物によって認識する世界が全く異なるという考え方はこのユクスキュルから始まったのだった。ユクスキュル、そしてコンラート・ローレンツの生態学が世界の新しい認識を教えてくれたのだった。