昆虫を見分けるのは難しい

 昨日のブログに人は少ない情報から全体を構成できる能力を持っていると書いた。今日はその反対のことを書いてみる。
 アブラムシの分類学者の宮崎昌久さんがかつて動物園協会が発行していた『インセクタリウム』に次のようなことを書いていた。人は犬と猫を一目で見分けるのに、それを(種として定義して)記載することは大変なのです、と。犬と猫は誰でも簡単に見分けられるが、アブラムシを見分けるのは専門家でもない限りなかなか大変だろう。もちろん宮崎さんはアブラムシを簡単に見分けてしまう。その宮崎さんもアブラムシ以外では簡単にはいかないだろう。アザミウマという微小昆虫の本を作るために一緒に取材に行ったことがあった。アザミウマの見分けには宮崎さんもだいぶ手こずっていた。プレパラート標本を作り、顕微鏡を使って検索表を見ながら同定(生物の分類学上の所属・名称を明らかにすること)を行っていた。検索表とは、
 1. 触角は3環節;円錐形刺毛は短大で、先端は鋭く尖る………○○ムシ
 ―.触角は6または7環節;円錐形刺毛は細長く、先端はさまざま……2
 2. 円錐形刺毛は先端鈍頭;云々(以下略)
というようになっている。
 しかし、アザミウマの専門家工藤巌さんは、アザミウマをわりあい簡単に肉眼で見て見分けていた。
 犬と猫の違いは簡単に分る。しかしアブラムシやアザミウマ、カイガラムシの見分け=同定は簡単ではない。どういう違いがあるか。
 人は犬や猫などと近似の仲間を構成しているのではないか。環境が近いということ。それに対して昆虫などとは環境も違い、認知の世界が異なっているのではないか。アブラムシ同士、アザミウマ同士はお互いを簡単に見分けているだろう。同種の雌雄はお互いを認知し間違えることはない。そしてアブラムシが犬と猫を区別することもできない。必要の有無という考え方を導入すれば納得できるのではないか。ユクスキュルの環境世界という考え方だ。
 なんだか大山鳴動して鼠一匹となってしまった。