音楽

片山杜秀『大楽必易』を読む

片山杜秀『大楽必易』(新潮社)を読む。副題が「わたくしの伊福部昭伝」で、伊福部昭はクラシック音楽の作曲家、だが『ゴジラ』の映画音楽の作曲家として名高い。芥川也寸志や黛敏郎の師でもある。伊福部によれば、先祖は因幡の国の宇倍神社の神官を明治維…

湯浅譲二の語る武満徹

湯浅譲二が「官能美生んだ豊穣な創造力――アルチザンとしての武満徹」という短文で、武満について大胆な評価をしている。 武満が亡くなった時、彼を悼んで「武満徹は世界の音楽を変えた作曲家だった」と言った評論家がいたが、それは正しくなかったと湯浅は言…

『武満徹を語る 15の証言』を読む

『武満徹を語る 15の証言』(小学館)を読む。武満徹全集編集長大原哲夫が聞き手となって、武満徹が親しく付き合った15人の音楽家や映画監督、デザイナーなどと対談を繰り返したものの記録。印象に残った対談の一部を紹介する。 今井信子(ヴィオラ奏者) 武…

『谷川俊太郎が聞く 武満徹の素顔』を読む

谷川俊太郎・聞き手『谷川俊太郎が聞く 武満徹の素顔』(小学館)を読む。武満が亡くなった後、武満の親しかった友人たちや娘の武満真樹など8人に、谷川俊太郎が聞き手となって武満との交友や個人的な思い出などを聞いている。 その8人とは、小澤征爾、高…

青柳いづみこ『パリの音楽サロン』を読む

青柳いづみこ『パリの音楽サロン』(岩波新書)を読む。副題が「ベルエポックから狂乱の時代まで」。カバーの紹介文を引く。 コンクールがなかった19世紀から20世紀初頭、音楽サロンの女主人は芸術家たちを支援し、彼らはサロンから世に出ていった。時代が進…

岡田暁生・片山杜秀『ごまかさないクラシック音楽』を読む

岡田暁生・片山杜秀『ごまかさないクラシック音楽』(新潮選書)を読む。裏表紙の惹句を引く。 西洋音楽のオモテとウラがよくわかる「最強の入門書」! バッハは戦闘的なキリスト教伝道者。ベートーヴェンは西側民主主義のインフルエンサー。ロマン派は資本…

吉田秀和『音楽家の世界』を読む

吉田秀和『音楽家の世界』(河出文庫)を読む。副題が「クラシックへの招待」で、本書は最初、雑誌『新女苑』の別冊付録として書かれ、その後1950年に単行本化され、さらに1953年に創元社から文庫版が出版された。だから70年以上前に描かれた入門書だ。 古い…

フリードリヒ・グルダ『俺の人生まるごとスキャンダル』を読む

フリードリヒ・グルダ『俺の人生まるごとスキャンダル』(ちくま学芸文庫)を読む。グルダはウィーン出身の20世紀を代表するピアニスト、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集やモーツァルト、バッハなどクラシックの名盤を数多く録音したほか、作曲やジャズ…

片山杜秀『片山杜秀のクラシック大音楽家15講』を読む

片山杜秀『片山杜秀のクラシック大音楽家15講』(河出文庫)を読む。片山は近代政治思想史が専門の慶應義塾大学教授。でありながら吉田秀和賞も受賞した音楽評論家、それも近現代音楽を最も好むと言う異端の評論家だ。特に『ゴジラ』の映画音楽を作曲した伊…

青柳いづみこ『ヴィンテージ・ピアニストの魅力』を読む

青柳いづみこ『ヴィンテージ・ピアニストの魅力』(アルテスパブリッシング)を読む。ヤマハの会員誌『音遊人(みゅーじん)』に2012年から連載したもの。執筆時点でおおむね75歳以上のピアニストをヴィンテージ・ピアニストとして取り上げている。その数40…

本間ひろむ「日本のピアニスト」を読む

本間ひろむ「日本のピアニスト」(光文社新書)を読む。類書に多い日本のピアニストを紹介するのではなく、明治以降の日本人によるピアノ開発の歴史を描き、それと関連して日本人のピアニストの歴史が語られている。 最初の日本人ピアニストは幸田露伴の妹の…

吉松隆『調性で読み解くクラシック』を読む

吉松隆『調性で読み解くクラシック』(ヤマハミュージックメディア)を読む。「1冊でわかるポケット教養シリーズ」の1冊だ。ヤマハが出版もしているなんて知らなかった。現代音楽作曲家の吉松隆が初心者向けに音楽の調性について解説している。 音楽の基本…

青柳いづみこ『ショパン・コンクール見聞録』を読む

青柳いづみこ『ショパン・コンクール見聞録』(集英社新書)を読む。2021年に行われた第18回ショパン国際ピアノコンクール、そのコンクールを現場で見て聴いた青柳いづみこの臨場感あふれる報告書。青柳は現役のプロピアニストで演奏会を繰り返していて、し…

村上春樹『一人称単数』を読む

村上春樹『一人称単数』(文藝春秋)を読む。春樹はあまり読んでこなかった。特に長篇はちょっと苦手だったが、短篇集は好きだった。 さて『一人称単数』だが、いつもに比べて淡々とした印象だ。超常現象的なところが少ないし、エッセイのような味わいだ。「…

モニカ・ヴィッティ主演の映画『スエーデンの城』の音楽の思い出

時事通信が2月3日にモニカ・ヴィッティの訃報を伝えていた。 【AFP=時事】イタリアの女優モニカ・ヴィッティさんが死去した。90歳。文化相が2日、発表した。ヴィッティさんは、ミケランジェロ・アントニオーニ監督作品への出演で知られる。 ローマ生…

オペラ『パリアッチ(道化師)』を見る

24日は日経ホールでオペラ『パリアッチ(道化師)』を見た。レオンカヴァッロ作曲の二幕オペラ、日経ホールで1回限りの舞台だった。ちらしには、「妻ネッダの不貞を知ったカニオ(パリアッチョ)は、怒りと悲しみを隠し、道化芝居の舞台に立つが、次第に芝居…

岡田暁生『音楽の危機』を読む

岡田暁生『音楽の危機』(中公新書)を読む。去年発売された時、コロナ禍で生演奏が聴けなくなったことを嘆いている時事的な本かと手に取らないでいたら、今年小林秀雄賞を受賞したのであわてて購入した。その授賞理由が、 「音楽」というものの生々しさと理…

小沼純一『武満徹逍遥』を読む

小沼純一『武満徹逍遥』(青土社)を読む。内容によく沿ったタイトルだと思う。武満徹に寄り添った散歩。360ページを超える本書に33編の武満に関するエッセイ。武満徹という作曲家を巡る何とも薄味の評論集。小沼を読むのは初めてなので略歴を見る。「1959年…

吉田秀和『ブラームス』を読む

吉田秀和『ブラームス』(河出文庫)を読む。吉田秀和は2012年に98歳で亡くなるまで長年にわたって音楽評論を書き継いできた。それらは時々の新聞雑誌に掲載され、出版された書籍も数多く、さらに全集も発行されている。本書は、吉田が発表してきたブラーム…

入手しそこなったもの2点

むかし入手しそこなってほんの少し悔やんでいることがある。安室奈美恵のサインと吉行淳之介の色紙だ。 伯母が再婚した相手は茨城県の医者だった。その伯父の娘婿Sさんがやはり医者で病院長をしていた。ある時伯母が私に安室奈美恵さんのサイン欲しかったら…

シューマンが「赤とんぼ」

吉行淳之介のエッセイ「赤とんぼ騒動」に、山田耕筰の「赤とんぼ」のメロディがシューマンの曲から流れてきたというエピソードが紹介されている。シューマンの「ピアノと管弦楽のための序奏と協奏的アレグロ ニ短調作品134」から赤とんぼが飛びだしてきたと…

サティやショパンの教え

青柳いづみこが『図書』2月号から「響きあう芸術 パリのサロンの物語」という連載を始めた。その第1回が「サロンという登竜門」、若く無名でお金のない芸術家が世に出る手段は、21世紀ではショパン・コンクールやチャイコフスキー・コンクールだが、19世紀は…

沼野雄司『現代音楽史』が素晴らしい

沼野雄司『現代音楽史』(中公新書)を読む。これがとても素晴らしい。沼野は東京藝術大学大学院で音楽研究科を修了し、現在桐朋学園大学教授。 現代音楽について、膨大な数の作曲家を取り上げ、その代表作を詳しく紹介している。しかもそれが単なる羅列では…

「庭の千草」と「夏の日の思い出」

NHKFMを聴いていたらローラ・ライトの歌う 「The Last Rose of Summer」が紹介された。それはとてもきれいな歌声だった。 https://www.youtube.com/watch?v=UUpG_mlU1dM この「The Last Rose of Summer」は日本では「庭の千草」の名前で小学校で歌わされた記…

ピアニスト、レオン・フライシャーが亡くなった

レオン・フライシャーが亡くなったと朝日新聞に報じられていた(8月4日)。 フライシャーはアメリカのピアニスト、8月2日、92歳で亡くなった。 記事に「30代で筋肉が収縮する難病となり、長年にわたって左手で演奏を続け、指揮、教育に活動の場を広げた」と…

プロコル・ハルムの「青い影」の訳詞のこと

プロコル・ハルムの「青い影」は世界的にヒットした名曲だ。ジョン・レノンが絶賛したと聞いている。You Tubeで聴いていたが、訳詞が難しくて意味が分からない。最初の訳詞がこれ、 私たちはファンダンゴみたいにスキップで 部屋の向こうまでカートを蹴飛ば…

私のチープなお宝

私にはチープなお宝が2つある。一つは映画『スエーデンの城』のサウンドトラックのドーナツ盤レコード。映画はモニカ・ビッティ(ママ)主演、ロジェ・バディム監督、フランソワズ・サガン原作だった。レコードのA面が「スエーデンの城」、B面が「恋の終末」…

河合隼雄・阪田寛夫・谷川俊太郎・池田直樹『声の力』を読む

河合隼雄・阪田寛夫・谷川俊太郎・池田直樹『声の力』(岩波現代文庫)を読む。本書は2001年に小樽市で行われた絵本・児童文学研究センター主催の講演・討議を記録したもの。4人が子供たちの歌や語りについて話している。私にはあまり縁のない世界で読んでい…

片山杜秀『革命と戦争のクラシック音楽史』を読む

片山杜秀『革命と戦争のクラシック音楽史』(NHK出版新書)を読む。2019年4月~6月、朝日カルチャーセンターで行われた講座「クラシック音楽で戦争を読み解く」の内容を再構成したもの、とある。ところどころ講義中を思わせる言葉遣いが残されているのは、片…

岡田暁生『音楽と出会う』を読む

岡田暁生『音楽と出会う』(世界思想社)を読む。第1章「音楽は所有できるのか?」を読み始めて、この読書は失敗だったと思ったが、章の終りに「My songがOur songになるとき」という小見出しがあって、伝説的な《ケルン・コンサート》のレコードの大ヒット…