『武満徹を語る 15の証言』(小学館)を読む。武満徹全集編集長大原哲夫が聞き手となって、武満徹が親しく付き合った15人の音楽家や映画監督、デザイナーなどと対談を繰り返したものの記録。印象に残った対談の一部を紹介する。
今井信子(ヴィオラ奏者) 武満さんの曲は、本当に彼の曲を愛していないと弾けないと思います。ちょっと面白いとか、かじるだけの人には弾けません。ですから、2回や3回のオーケストラとのあわせだけでは無理だと思うのです。ところが普通のオーケストラでは、そのくらいしか時間を取れないし、まして指揮者が、その曲が初めてだったりすると、練習は要領を得ないし、中途半端に終わってしまうことがあります。(……)普通のコンチェルトはソリストがどんどん引っ張っていけばいい。しかし、この曲は、私と同じくらい指揮者がこの曲を理解してくれなかったら成り立たないんです。
篠田正浩(映画監督) 湯浅譲二が言うんですよ。「武満は純音楽よりも映画音楽のほうが数段すぐれている」と(笑)。映画音楽では、誰も武満の足元にもおよばない。
池辺普一郎(作曲家) 武満さんにはあらゆる体験をさせてもらいましたね。例えば、作曲家がタイトルから発想するというのは、僕、初めてでした。あるとき、武満さんが、「カシオペアというタイトル、どう思う」と言うんです。で、演奏家がカシオペア星座の五角形みたいになるんだ、W型みたいに並ぶんだと。「へえ、おもしろいですね。どんな曲ですか」と言ったら、「まだ考えてない」って。僕自身は、タイトルから発想するということは全然なかったから、とても驚きました。
岩城宏之(指揮者) 黒澤(明)さんも死んじゃったから、もういいよね。黒澤さんも武満さんも成城に住んでいたでしょ。何か仕事があると「武満に一緒に来いっていって、それで家から下駄はいて、一緒に成城の街を歩いていてたらね。そうしたら、三船敏郎の豪邸の玄関があってね。それで「おい、武満こう言え」と言われれば、先輩だからしょうがない。うんと大きな声で「ミフネのバカヤロー」って言えって、武満さんは黒澤さんに言わされるんですって、それでミフネさんの玄関の門におしっこをかけて、二人で「ああ、気持ちいい」だって(笑)。
ほかに対談相手は、横山勝也(尺八奏者)、小泉浩(フルート奏者)、宇野一朗(マネージャー)、観世栄夫(能役者)、奥山重之助(音響技術者)、粟津潔(グラフィック・デザイナー)、紀国憲一(元西武美術館館長)、リチャード・ストルツマン(クラリネット奏者)、ピーター・グリリ(プロデューサー)、林光(作曲家)、ピーター・サーキン(ピアニスト)。
ピ-ター・サーキンは普通ピーター・ゼルキンと表記されるが、ゼルキンはドイツ人の父親ピアニストのルドルフ・ゼルキンから採られている。ピーターはアメリカ人なのでサーキンが正しい呼び方になる。