湯浅譲二の語る武満徹

 湯浅譲二が「官能美生んだ豊穣な創造力――アルチザンとしての武満徹」という短文で、武満について大胆な評価をしている。

 武満が亡くなった時、彼を悼んで「武満徹世界の音楽を変えた作曲家だった」と言った評論家がいたが、それは正しくなかったと湯浅は言う。それはケージやクセナキスのように音楽という概念をさえ変革する力を持つ作曲家に価する言葉だ、と。湯浅の評価はその通りだろう。

 武満はその点ではむしろベリオに近い、と。武満音楽の魅力は、響きの美しさ、特に1970年以後の後半生の音楽ではしなやかな官能性にある。それは天性の感性と絶えざる努力によって生み出された絶妙の管弦楽法、楽器法に負うところが大きい。この点でこそ、武満は20世紀後半の、まさに世界の第一人者の名にふさわしい。それはベリオのようにアルチザン(職人的芸術家)がなし得る世界なのだ、と湯浅は言い切っている。

 湯浅の武満についてのこの短文は、『朝日新聞』1999年2月13日の朝刊に掲載され、『人生の半ば』(慶応義塾大学出版部)に採録されている。