渋谷区立松濤美術館で「ハイレッド・センター:直接行動の軌跡展」を見る


 東京の渋谷区立松濤美術館で「ハイレッド・センター:直接行動の軌跡展」が開かれている(3月23日まで)。ハイレッド・センターとは、高松次郎赤瀬川原平中西夏之の3人の頭文字の漢字「高・赤・中」の英訳「high-red-center」を意味する。1960年代に銀座や帝国ホテル、山手線車内で繰り広げたパフォーマンスが現代美術史に残っている。
 展覧会のちらしから、

 冷戦時代の核問題の緊張を背景に、日比谷の帝国ホテルで「シェルター計画」を実施。国際都市を目指す東京の街頭で白衣を着用し、銀座の並木通りで「首都圏清掃整理促進運動」を行うなど、ハイレッド・センターのイベントは、ユーモアをもって鮮やかな切り口で社会を批評していきます。それまでの芸術の枠組みをはるかに超えた彼らの「直接行動」は、世界的にみても斬新なものでした。

 白衣を着た男たちが銀座の通りを清掃している写真。山手線車内で何かをしている男の写真。帝国ホテルのシェルター計画は、全裸の男たちの後ろ姿を写真に撮っている。「もの」としての作品は、中西夏之の有名な作品、キャンバスにアルミ製の洗濯バサミを多数取り付けた「洗濯バサミは攪拌行動を主張する」、そして高松次郎の壁に影を描いたような作品、赤瀬川原平の大きな千円札、また扇風機を包んだものなどが並んでいる。「宇宙の缶詰」と題された赤瀬川の作品は、普通の缶詰の缶の内側にラベルを貼ったもので、缶の外側が缶詰の内側という趣向で、つまり宇宙の缶詰というわけだ。
 さて、松濤美術館の2階および地下1階を使ったこの「ハイレッド・センター:直接行動の軌跡展」だが、あまり面白いとは言いかねた。なぜだろう。ハイレッド・センターの活動は、「もの」よりも「こと」の方に重点がおかれていたためではないか。ものとしては、前述のとおりそれ自体優れた作品というほどのことはない。ものの意味することがおもしろいのであって、もの自体がそれとして魅力がある訳ではない。「こと」に至っては、パフォーマンスの記録を展示しているのであって、極論すれば印刷物を見れば足りるとも言いうるだろう。あまり面白いとは言いかねたと書いた所以だ。

 このことは先月見た世田谷美術館の「実験工房展」にも言えることだった。これも展覧会のちらしによれば、

戦後芸術の新たな地平を切り拓いた「実験工房」は、美術や音楽など、様々なジャンルを超えて集まった若手前衛芸術家のグループです。美術の北代省三、駒井哲郎、福島秀子山口勝弘、写真家の大辻清司、作曲家の佐藤慶次郎、鈴木博義、武満徹、福島和夫、湯浅譲二、ピアニストの園田高広、照明家の今井直次、技術者の山崎英夫、詩人・評論家の秋山邦晴など、多岐に亘るメンバーが顔を揃えました。グループの命名者である詩人で美術評論家瀧口修造らの支持を受け、「実験工房」は1951年に結成されました。世界的に見ても「実験工房」の活動は非常に先駆的で、前衛美術・現代音楽・創作バレエ・モダンダンス・実験映画など、幅広い分野において実験精神に富んだ総合芸術を標榜した点でもユニークなものでした。正式な解散はしていませんが、1957年頃にはグループとしての活動はほぼ終了し、メンバーそれぞれは各分野のリーダー的存在となり、その後も活発に活動を展開して行きました。(後略)

 ここに書かれたように、「前衛美術・現代音楽・創作バレエ・モダンダンス・実験映画など」幅広い分野での活動だったし、それらが必ずしも「もの」ではなかったため、展覧会としての展示は「ことの記録」が主体となり、どうしても豊かな展示とすることは困難だった。とくに瀧口修造のデカルコマニーの作品などはむしろつまらないと言ってもいいほどのものだった。「ハイレッド・センター展」同様に、面白いとは言いかねたのだ。
 辛口の評になってしまったのは、活動の記録の展示ということに対してであって、ハイレッド・センターの活動や実験工房の活動に意味がなかったなどと言うことではない。誰が企画しても、これらを豊かに再現することは難しいだろう。と言いながら、企画自体は有意義なものだったと思う。公立美術館でこそ取り上げる意義がある企画だったことは間違いない。両方の企画者には賛辞を捧げたい。
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ハイレッド・センター:直接行動の軌跡展」
2014年2月11日(火)→3月23日(日)
10:00→18:00(金曜日 19:00まで)月曜日及び祝日の翌日休館
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渋谷区立松濤美術館
東京都渋谷区松濤2-14-14
電話03-3465-9421
http://www.shoto-museum.jp
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実験工房展」
2013年11月23日(土)→2014年1月26日(日)
世田谷美術館
http://www.setagayaartmuseum.or.jp/