トキ・アートスペースの渡邊拓也展〈ニチジョウノサケメ〉が興味深い


 東京外苑前のトキ・アートスペースで渡邊拓也展〈ニチジョウノサケメ〉が開かれている(3月2日まで)。渡邊は1990年生まれ、今年多摩美術大学工芸学科陶専攻を卒業予定。学内外のグループ展には参加してきたが、今回が初個展となる。
 画廊に足を踏み入れると、台上に黒い立体が雑然と並べられている。これは磁器作品とのこと。そのまま奥に進むと、パネルで区切られた空間にやはり黒い大きな作品が一つだけ置かれている。雑然と並べられた小さな立体。首のない馬か牛が逆立ちしているような完成した形の大きな立体。



 この二つの作品は何だろう。作家に聞くと、多数の小さな立体は18個あり、それを組み立てると奥の部屋の大きな立体になるのだという。制作方法としては、大きな立体を粘土で作り、それから小さな形を切り出していく。それから石膏で型を取り、陶土を流し込んで乾かしてから素焼きし、釉薬を塗ってから焼成をしている。
 ファイルを見せてもらうと、いままでも同様な制作をしている。部品を組み立てた完成品と、その部品をばらした多数の小さな立体作品を並べている。
 作家が用意したテキストがある。

『僕らは"バラバラ"であることを意識することができない。』


立ち止まって考えてみれば、僕らの目の前に広がるものは、皆バラバラだと感じた。しかし、それらはバラバラであることを包み隠そうとする。いや違う、僕ら自身が"バラバラ"であることを意識できないのだ。


僕らは目に映る様々なものを何らかの形で括る、無意識的に。それは、何かを理解するためには必ず経なければならないプロセスであり、人が生きていく為には欠かすことのできないプログラムである。言い換えれば、僕らは思考し、理解をし、成り立とうとするとき、自己と世界を区分し、そしてまた世界を区分し続けていくということになる。そしてその先にあるのは、細分化されたバラバラな世界である。その無意識の中のバラバラな世界は、僕たちに自由を与え、それと同時に僕たちを制約し続ける。

 こうしてみると、作品の形式は渡邊の世界観と関係があるらしい。そのことはよくは分からなかったが、興味深い個展だった。
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渡邊拓也個展〈ニチジョウノサケメ〉
2014年2月24日(月)〜3月2日(日)
11:30−19:00(最終日17:00まで)
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トキ・アートスペース
東京都渋谷区神宮前3-42-5 サイオンビル1F
電話03-3479-0332
http://homepage2.nifty.com/tokiart/
東京メトロ銀座線外苑前駅3番出口より徒歩5分
青山通りを渋谷方向に進み、ベルコモンズの交差点を右折、外苑西通りを直進し、ワタリウム美術館の交差点を右折してすぐの右側