上野茂都『個展物語』を読む

 上野茂都『個展物語』(青林工芸舎)を読む。上野は1961年生まれの彫刻家。多摩美術大学で彫刻を学び、都内の画廊を中心に作品を発表している。大学では主に石彫を制作していたが、その後、制作環境の変化に応じて、紙、セメント、布、ブロンズ粘土、紙粘土、コンクリート。ブロンズ、石けん、大理石、砂岩、テラコッタ、木彫、大谷石などなど、個展の度ごとに材料を変化させて立体作品を作って来た。

 石けんというのも凄いが、2019年の個展ではついにサツマイモ彫刻を展示した。生のサツマイモを彫って並べ、作品の価格は量り売りで1グラム500円とした。本書にはまだ書かれなかったが、今年の個展は布で作った大きなミミズを15本並べていた。

 作風は最初の石彫のときから胸像が多く、目鼻を作らない坊主のような姿だ。雑誌等に取り上げられることも多く、『美術手帖』や『芸術新潮』にも紹介された。目黒区美術館のグループ展にも呼ばれ、旧細川侯爵邸での大規模な個展も行っている。

 絵本も制作し、三味線と歌のCDを出し、ライブ活動もしているという。

 本書は編集者相手に、20数回の個展を詳しく語っている。石彫から紙に転じたのは、大学を卒業してアパートで制作したため、またその後武蔵野美術大学の講師を勤めたので、大学のアトリエが使えて石が彫れたなど、淡々と語っている。

 上野の語りは面白く、教えられることも多い。

 

――不安と不満は違う?

 

不満てのは解決出来るんだね。それが可能かどうかは別として、必ず打開策はある。不安は増殖しますから……。お金があっても健康でも、不安になろうと思えばいくらでもなれる。ほんの小さな事でも、どんどん膨らんでしまう。だから不安を不満に変えてしまうんだね。そうすればとりあえず出口はあるんだから。

 

 上野は多摩美李禹煥のゼミに出ていた。李禹煥つげ義春の友達だったという。つげのマンガ「李さん一家」の李さんとは李禹煥のことだった!

 上野という彫刻家が何を考えて制作しているのかよく分かった気がする。とても有意義で楽しい読書だった。

 ただ、私のような老眼には少々活字が小さかった。活字を大きくすればページ数が増えてコスト高になると考えたのだろうが、Q&Aで1行アキになっているのを詰めれば、ページはさして増えなかったのではないか。