出久根達郎『[大増補] 古本綺譚』を読む

 出久根達郎『[大増補] 古本綺譚』(平凡社ライブラリー)を読む。出久根がまだ作家ではなく古本屋の店主だった頃、経営する芳雅堂の古書目録『書宴』の埋草として書いていたものが評判を呼び、新泉社から『古本綺譚』として出版された。それを「大増補」したものが本書である。

 その後出久根は直木賞を受賞するが、なるほど出久根のエッセイは最初のものから面白い。非凡な書き手であることがよく分かる。集団就職で入った古書店で古典を読むように訓練されたとあるが、店先での勉強が実を結んで優れた文章を書いている。

 本書は短いエッセイがほとんどだが、1点だけ「狂聖・芦原将軍探索行」という小説のような作品が入っている。これが120ページもある。

 今まで出久根は3冊読んだだけだが、一体に短い作品に佳品が多く、長いものはその構成が弱くあまり評価することができない印象だ。もっとも出久根には多くの小説作品があるのだから、私が読んだ3点だけにその瑕疵があるのかもしれない。少ないデータで断定的なことを主張するのは慎まなければならない。