『出久根達郎の古本屋小説集』を読む

 『出久根達郎の古本屋小説集』(ちくま文庫)を読む。古本屋店主にして直木賞作家になった出久根の古本屋に関する小説を集めたもの。出久根は中学卒業後集団就職で東京月島の古本屋に就職し、29歳のとき独立して高円寺で古本屋を開業する。

 昔(9年前)出久根達郎『万骨伝』(ちくま文庫)を読んで面白かった、とこのブログに書いている。(こんなことがすぐ分かるのもブログのお蔭だ)。

 出久根は長く古本屋の店主をしていて古書肆業界には詳しい。古本に関する様々なエピソードがそれだけで面白かったし、出久根の語るちょっと変な人たちの生活が興味深かった。

 「セドリ」という短篇がある。わずか3ページばかりだが、セドリで稼いだ話が載っている。セドリとはある古本屋に安値で並んでいた本を背だけを見て買い、それを別の古本屋に売って利ザヤを稼ぐ商売のこと。これで思い出した。東京都現代美術館へ行く途中に小さな古本屋がある。美術館の帰りについ立ち寄ると必ず何冊か買ってしまう。店の規模の割りに魅力的な本が多いのだ。何故でしょうと別の古本屋に訊いたことがあった。あそこは組合に入っていなくて、セドリで本を集めているからとのことだった。普通の古本屋は組合の市場で梱包された古本の包みを一山いくらで買って来るからと。

 出久根の小説は人情の機微を描いて美しい。つい涙ぐんでしまったものもあった。ただ、長いものになるといささか構成に難がある印象が否めなかった。短篇に優れたものがあるように思う。